伝統工芸×デザインで、新たな文化の兆しを生み出す。「東京手仕事」商品開発プロジェクト受賞者インタビュー2 / 2 [PR]

機械には表現できない美しさを求めて
――マッチング後、開発を進める中で特に難しかったのはどのような部分でしたか?
横溝の表情をどうつくるかにとても苦労しました。最初の試作では、途切れのない均一な横縞を入れていたのですが、できあがったものを見ると正直あまり良くなかったんです。整いすぎてどこか金属のようにのっぺりした印象になってしまっていて、提灯をモチーフにしているのに和紙のような柔らかさや呼吸が感じられなかった。
同時に、鍋谷海斗さんから「製作過程にも楽しさを見出したい」と言われたことに強い衝撃を受け、考えを改めさせられました。これまで自分は工場で量産するプロダクトに関わることが多かったので、作り手がどう感じるかを深く考えたことがなかったなと。
手仕事においては、職人さん自身が楽しいと思える工程が含まれていなければ良いデザインにならないのだという気づきを得ました。もっといえば、職人さんに前向きに取り組んでいただくからこそ、機械には表現できない美しさが表れるのだろうと思いました。

photo by studio ooooo
――その壁をどのように乗り越えたのでしょうか?
一部に伝統文様を入れるという案も出たのですが、違和感があり採用しませんでした。せっかく横溝だけでここまで来たのに、別の文様に頼るのはどこか逃げのように思えたんです。
そこで考えたのが、横溝の一部をあえて途切れさせるというアプローチでした。かつ、その途切れの位置や長さをこちらが細かく指定するのではなく、鍋谷海斗さんの技術と感性に委ねることにしました。デザイナーがすべて管理してしまうより、江戸切子にまっすぐ向き合ってきた鍋谷海斗さんを信じる方が、確実に良いものになると考えたためです。
実際にその試作が上がってくると、見え方は大きく変わりました。均一だった横溝に呼吸が生まれて、和紙のような有機的な表情が立ち上がってきたんです。一見すると同じシリーズに見えても、よく見るとひとつとして同じものはない。その個体差が、このグラスにとってとても重要な魅力になったと思います。人の手が入ることでしか生まれない揺らぎが、提灯というモチーフにもきれいにつながっていった感覚がありました。

さらに、溝のピッチや角度もかなり細かく詰めていきました。前の試作では2mmだった溝幅を、もう少し細かくできないか相談したり、光の返り方がより立体的に見える角度を試したり。1mmにも満たない違いで印象が大きく変わるので、その微調整の積み重ねが最終的な繊細さを決定づけたのだと思います。
感覚的な判断も多かったですが、あえて言葉にするなら、提灯というモチーフに近づけるためにどのような選択をとることがより適しているかを見極め続けました。
――商品開発アドバイザー※とはどのように連携したのでしょうか?
提案後の走り出しから最終的なプロダクトの提出に至るまで、とても親身にサポートしてもらいました。商品名の知的財産権に関する申請やガラスを製作する工房とのやり取りなど、私と職人さんだけでは手が回らない部分を迅速に対応してもらえたおかげで、焦ることなく開発に集中できたと思います。
特にありがたかったのは、デザインに関わる部分はデザイナーの意見に、技術に関わる部分は職人の意見に耳を傾け、どちらに対してもリスペクトを持って対応してくれたことです。だからこそお互いの強みを掛け合わせ、プロダクトの質を高めていくことができました。
※チームを組むビジネスパートナー(デザイナー等)の選考、商品開発期間中の助言や進行管理等をハンズオン支援する担当者
「良いものとは」という価値観の共通が、結果に結びついた
――東京都知事賞を受賞後、反響や変化を感じたことはありましたか?
当社が運営するバーで実際に「CHOCIN GLASS」を使っているのですが、その場で興味を持って購入してくださるお客様が多くいらっしゃるんです。決して安い値段ではないので、なんとなく良かったからという動機では買えないはず。それでも欲しいと思っていただけるのはこのグラスがお客様の感情を動かしたという証ともいえるため、ユーザーに届くものを作りたいという応募の動機を果たすことができ、大きな達成感を感じています。
また、従来の江戸切子を愛してきた世代にどう受け止められるかが気になっていたのですが、50代、60代の方からも高く評価する声をいただいており、自信につながりました。若い人の感覚に寄せた流行りのデザインとしてではなく、きちんと価値あるものとして受け止めてもらえたことで、「CHOCIN GLASS」が大きな可能性を持っていると確信しました。

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――プロジェクトを振り返ってみて、どのような点が今回の結果に結びついたと思いますか?
最後まで妥協しなかったことに尽きるのではないでしょうか。別の紋様を入れなかったことも含め、どんな壁にぶち当たっても楽な道を選ばなかったからこそ、技術の高さや繊細さが伝わるものが作れたのかなと。そこまで徹底してこだわり抜けたのは、鍋谷海斗さんはじめ商品開発アドバイザーとの三人で、チームとして目線を揃えて取り組めたからだと思います。
良いものづくりとは何か、という価値観が共通していたため、横溝に自由に途切れを入れてほしいとお願いしたときも、鍋谷海斗さんは嫌な顔ひとつせず「たしかにそのほうが良くなりそうですね、分かりました」とすぐに取り掛かってくださいました。プロフェッショナルとして全力で向き合ってくださったので、私も「無理かもしれない」「困らせるかもしれない」などと萎縮せず、自由にアイデアを出すことができたんです。
伝統工芸のプロフェッショナルの姿勢を間近で見られたことは私にとって大きな財産になりましたし、長く大切にされるものをつくることの意義を改めて感じました。
醍醐味は、新しい文化の出発点になり得ること
――最後に、本プロジェクトへの参加を検討しているデザイナーの方にメッセージをお願いします。
伝統工芸品という文化として完成された領域にデザイナーが関わることに、躊躇してしまう方も少なくないと思います。しかし、デザイナーが関わるからこそ化学反応が起きる可能性があるのも事実です。
うまくいけば、次の世代に継承されていく新たな文化の出発点になるかもしれない。職人さんが今まで気づかなかった、ご自身の強みに気づくきっかけになるかもしれない。誰かの家で、100年以上にわたって大切にされるプロダクトを作れるかもしれない。
そうした大きな可能性を秘めているのが、このプロジェクトならではの醍醐味だと考えます。伝統工芸だから、自分にはまだ早いからと距離を置かずに、思い切って飛び込んでみてもらえると嬉しいです。身構える必要はありません。真摯に向き合えば、きっと想いは届くはずです。

■「東京手仕事」商品開発プロジェクト ビジネスパートナー(デザイナー等)募集
《応募期間》
2026年6月1日(月)~6月19日(金)※当日必着(締切17:00まで)
《募集内容》
「東京手仕事」商品開発プロジェクト ビジネスパートナー(デザイナー等)
※詳細は公式サイトを参照
《賞》
〈報酬〉
・「商品開発計画書」を主催者に提出したとき:委託料33万円を支給
・「試作品・試作報告書」を主催者に提出したとき:委託料33万円を支給
・「完成品・商品開発完了報告書」を主催者が認定したとき:委託料33万円を支給
※金額は税込表記
《参加方法》
1. プレエントリー
公式サイトよりプレエントリーすることで事業者紹介動画を閲覧することが可能に
2. 本申込み
専用サイトより第3希望までマッチングを希望する事業者を選択してPRシートを提出
※参加費は無料
※詳細は、下記公式サイトを参照ください
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/dento/teshigoto/kaihatsu/index.html
■「東京手仕事」商品開発プロジェクトの流れ

プレエントリーから商品開発・完成品提出までのスケジュール
①プレエントリー
公式サイトよりプレエントリーすることで事業者紹介動画を閲覧することが可能に
②本申込み
専用サイトより第3希望までマッチングを希望する事業者を選択してPRシートを提出
文:望月さやか(ランニングホームラン) 撮影:高比良美樹 取材・編集:萩原あとり(JDN)
初出:デザイン情報サイト「JDN」



