受賞者インタビュー
2020/04/01 10:00

テーマの余白をどの角度から捉えるか。「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」第12回グランプリ 歌代悟2 / 2 [PR]

テーマの余白をどの角度から捉えるか。「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」第12回グランプリ 歌代悟
実は当初、商品化を検討するシヤチハタは歌代さんの作品を「実現が難しい」と判断していたそうだ。一度は社内でサンプルを試作したものの、作品通りの色で朱肉を作ると、印を押した時に判の色が薄すぎて見えないとの問題が判明したからだ。

朱肉から適量のインクがハンコに付き、押した時に明瞭な判となる適量のインクが紙に残る―朱肉とハンコとインクは、実は繊細なバランスで成り立っている。朱肉の見た目を優先させれば判は淡くなり、判の明瞭さを保てば朱肉が濃くなるため、作品の鍵であるビジュアルの美しさをそのまま再現できず、魅力がなくなってしまうと考えたのだ。その一方で、同社内では商品化を願う意見が多数寄せられた。そこで再度、歌代さんにインク選びや配色などの協力を仰ぎ、再び商品化に向けたサンプル制作が始まった。

商品化の経験が、クリエイティブの幅を広げる糧になる

― 商品化は本コンペの特徴ですが、応募段階では意識していましたか。

いえ、商品化は魅力的ですが、僕の提案が技術的に商品化可能かどうかは分かりませんでした。実際に押印できる模型にしたいと、インクやスタンプ台を買って試作したものの……自分の知識ではどうしようもないと早々に諦めましたね。実現性ばかりを意識しすぎると魅力的な提案にならないので、技術検証はプロに任せようと振り切って、美しさや、これなら自分も買いたいと思えるデザインの提案に注力しました。

「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」第12回グランプリ 歌代悟さん

― 色の課題が難しかったとか。シヤチハタが最初に制作したサンプルも、色がかなり濃かったそうですね。

はい、たしかに想像以上に濃かったです。僕自身は、模型をデジタルツールで描いた水彩画を印刷して形にしていたので、その印象とのギャップもありました。濃くなる理由を説明していただいたので、配色決めでは、発色が一番いい黄色と、比較的明るい赤や緑の3色を軸に、違う色を掛け合わせて選んでいくことに決めました。

水彩画は絵具を重ねることで色がなじんだり深みが出たりしますが、朱肉用インクでは表現できないので、配色で自然なにじみになるよう注意しましたね。あと今回は、最終審査で発表しなかった「配色ごとにテーマを設ける」ということを改めて行い、テーマ名を入れて販売するよう提案しました。

手前左が当初の試作品、右が商品化直前のサンプル。いずれも受賞作品の模型とは朱肉のインク濃度がかなり異なるが、配色テーマの設定と名前付けにより受賞作品と同様、情緒に訴えかける商品となった。

― こうした商品化の工程に関わって、どのように感じられましたか?

こんなに身近な朱肉やインクにも、いろいろな技術が使われているんだなと感じました。また、技術調整は難しいですが、作品に可能性があると言っていただけたのは嬉しかったです。

僕自身、コンペのテーマからは離れますが、日本独自の文化をセットにしたインバウンド向けギフトという可能性もあるのではと考えていて。「にしきごい」などの日本的な色名も、朱肉の黒い容器に漆っぽさというか日本らしさを感じたのがきっかけなんです。外国の方がこの朱肉と自分の名前のハンコとセットで買うとか、友人へのお土産にすることで、新たな文化を生むきっかけになったらいいですよね。

― 今回の経験を、今後にどう活かしたいですか?

普段は完成品の売り方を考えるプロモーションが仕事なので、「マーケティングの4P(プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション)」のうち、プロダクトやプレイスなど、プロモーションの前段階も体験できたのが非常に楽しかったです。配色を相談された時にも配色案だけでなく、パッケージや使用例の案もまとめて資料にしてみて楽しかったですし、そういう視点は今後に活かせると思います。クリエイティブの幅を広げる糧になると思います。

― 第13回は再び「これからのしるし」がテーマです。また、新たにサブテーマとして「暮らしを彩る、習慣になる、気持ちを伝える」が加わりました。もし今回も応募されるとしたらどのように考えますか?

実はこのサブテーマは、第12回の作品を考える時に念頭にあったことなんです。たとえば「暮らしを彩る」は機能性だけじゃなく、その人が豊かに暮らせる、好きなものに囲まれるといった情緒的な解釈ができるでしょう。

このコンペには、こういったサブテーマをヒントにテーマを考えるような余白があると思うんですよね。同じテーマだと過去の受賞作を検討した上での深みも出るでしょうし、同じだからこその新たな提案も出るはず。余白のある「しるし」をどの角度から捉えるか。デザイナーにとって考え甲斐のあるテーマだと思います。

文:木村早苗、撮影:中川良輔、聞き手・編集:猪瀬香織(JDN)


13th SHACHIHATA New Product Design Competition 募集概要

●締切
2020年6月1日(月)12:00

●賞
グランプリ(1点) 賞金300万円
準グランプリ(2点) 賞金50万円
審査員賞(5点) 賞金20万円
特別審査員賞(2点) 賞金20万円

●募集内容
テーマ「これからのしるし ~暮らしを彩る、習慣になる、気持ちを伝える~」に沿った未発表のオリジナル作品
※複数応募可

●審査員
喜多俊之、後藤陽次郎、中村勇吾、原 研哉、深澤直人

●特別審査員
舟橋正剛、岩渕貞哉

募集要項(登竜門)
https://compe.japandesign.ne.jp/13th-shachihata-new-product/

公式ホームページ
https://sndc.design/

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