捨てられる“切れ端”が街を鮮やかに「いろどる」-CSデザイン賞受賞者インタビュー [PR]

今回の学生部門の募集テーマは、「街の風景をつくるカッティングシートの可能性」。中川ケミカル創業50年の節目にあたる今回の表現の舞台となったのは、今も職人による手仕事が息づく東京・東日本橋エリアにある同社の文化発信、研究スペース「MATERIO base(マテリオベース)」の外壁です。

「MATERIO base」の外観
金賞を受賞したのは、関西大学4年生の後藤謙太さんの作品「キリトリノコサレ」。横幅5.5m、高さ15mの壁一面を飾る作品は、周囲の景観に馴染みながらも、モルタルの壁を明るく彩り、確かな存在感を放っていました。関西大学で環境都市工学を学ぶ後藤さんに、作品のインスピレーションとなった源泉や制作における試行錯誤、作品の背景に込めた思いなどをうかがいました。
空き家再生やスラム街で感じた捨てられるものへの価値
――現在、関西大学環境都市工学部ではどのようなことを学んでいますか?
建築の設計や計画、構造、環境など、建築に関わるさまざまな分野を幅広く学んでいます。その中でも今は、個人の感性や個人が持てる技術を、建築にどのように結びつけていくかを模索するゼミに所属しています。
例えば絵を描くのがとても上手だったり、立体物を造るのが得意だったりと、さまざまな強みを持つ学生がゼミには集まっています。それぞれが持ち合わせている技術を、建築にどのように落とし込んで形にしていくかをみんなで試行錯誤しながら学び合っています。

後藤謙太さん
――私たちがイメージする建築とは、少し違った角度からのアプローチなんですね。後藤さんが建築の分野を志したきっかけは何だったのでしょうか?
祖父が美容院の設計やデザインを手がけているのですが、物心ついた時から家に材料があって、いろいろなものをつくる祖父の姿を見てきました。僕も一緒になって手を動かすのが好きだったので、割と早い段階から建築やものづくりの道に進みたいという思いがあったんです。
実は僕も大学に入学するまでは、建築ってバリバリ図面を引いてとにかく立体物をつくるイメージでした。でも今はそうではない領域に携わっていて、当初思い描いていたことと少し違うことをやっていますが、これはこれですごくおもしろいですね。
――今回、CSデザイン賞に応募しようと思ったのはなぜですか?
僕は昨年大学を休学し、以前から興味のあった活動にチャレンジしました。一つは、和歌山県の海南市にある冷水浦(しみずうら)という集落で、半年間にわたって大工の方々と一緒に空き家の再生プロジェクトに参加させてもらいました。もう一つは、フィリピンのセブ島にあるスラム街で、2週間ほどボランティア活動に携わりました。

セブ島でのボランティア活動の様子
学生向けのコンペは、学生が持っている感性や技術をどう社会に提案するのかが評価される場だと思っています。僕が休学中に経験したことを建築にどう結びつけるかと考えた時に、コンペに応募してみようと思ったんです。そのうちの一つがCSデザイン賞でした。
――とてもアクティブに行動されていますね。それらの活動が、発想のヒントになったということですか?
そうですね。今回金賞をいただいた「キリトリノコサレ」は、ものづくりの過程で出る“切れ端”をテーマにしています。空き家は解体する過程で廃材がたくさん出ますが、それらは別の建築資材にもなり得ます。また、スラムの子どもたちは貧困でおもちゃが買えないので、ゴミや廃材をおもちゃ代わりにして遊ぶ光景をよく見かけました。
そのような現状を見ていると、本来ゴミとして捨てられるようなものにも、可能性や価値を見出せるのではないかと感じたんです。そこからインスピレーションを得て、今回のCSデザイン賞のテーマと照らし合わせながら、発想を膨らませていきました。

実際に施工された受賞作品「キリトリノコサレ」
端材に見立て、無機質な壁面を“いろどる”
――これまでにカッティングシートを使ったことはあったのでしょうか?
使ったのは今回が初めてです。ただ、祖父が美容院の内装にカッティングシートを使っているのを見たことがあったので、カッティングシートの見本帳を見せてもらい、基本的な使い方もひと通り教わりました。

カッティングシートの見本帳
その際、切り取られて余った部分=“切れ端”がふと気になり、「これって何かに使うん?」と祖父に聞いたところ、「そんなん使い道ないわ(笑)」と言われて、一般的にはそういう認識なんだなと。そこで、これをあえてテーマにできるかもしれないと考えました。
――今回、MATERIO baseの外壁へのデザイン提案が課題でした。それによって、「デザイン可能範囲を想定壁面の30%以内とする」という東京都屋外広告物条例の基準を満たす必要があるのが、過去のCSデザイン賞との大きな違いだったと思います。その点で特に意識したことはありますか?
自由にデザインできるのかと思っていたので、初めて知った時は正直びっくりしました(笑)。でもそこはしっかり計算した上で、「図」と「地」の関係を反転させることを意識しました。今回の作品は、モルタルの壁面を「図(=70%)」として活かし、その周りの「地(=30%)」に切れ端をイメージしたカラフルな色を配色することで、「いろどる」という文字を浮かび上がらせています。

モルタル壁面の部分を見ると「いろどる」の文字が浮かぶ上がる
文字も、よく見ると「いろどる」なんですが、なんとなくそれっぽいニュアンスを伝えるというか、「ちょっとわかるかな」くらいを狙っています。僕もそうなんですが、人は見上げた時に一目で認識できるよりも、よくよく見て理解できた時の方が感動が大きいと思っているので、その辺りも意識してデザインしました。
――ちなみに、文字を「いろどる」にした理由は何かあったのでしょうか?
作品に込めたサブテーマでもあるのですが、今の社会がどうしてもモノクロに見えてしまって、もっと彩りのある明るい社会になってほしいという願いを込めました。
――実際に仕上がった作品を目にしてみていかがでしたか?
僕自身、今日この取材を受ける直前に初めて見ました(笑)。この発色のいい素材が、モルタルの壁面にちゃんと馴染んでいるかドキドキしながら来たのですが、実物を見て安心しました。
これまでの僕の作品は木材が中心で、色味のある素材は使ってこなかったので、色にこだわったことがあまりなかったんです。でも、ある種地味なモルタルの壁面にカッティングシートが彩りを与えていて、最初に目に入った時は感動しました。

これも今日実際に見て感じたことですが、MATERIO baseのビルの形が均一な四面体ではなく、台形になっているのもよかったですね。正面から見ても側面の壁が少し見えることで、ビル全体をカッティングシートが覆っている印象ではなく、切れ端が貼られている感じがしっかり強調されていて、作品のコンセプトがより活きている印象を受けました。
学部での学びを活かし、カッティングシートの可能性を追求
――今回の作品を制作する中で、特に難しかった点などはありますか?
僕は普段生活しているのが関西なので、実際のビルやまわりの環境、街の雰囲気などを事前に見に来ることができなかったんです。そのため、Googleのストリートビューなどを見ながら制作を進めていったのですが、その点が少し難しかったですね。
――確かにそうですよね。周辺環境や街との馴染み方は実際に現場を見ないと掴みにくい部分もあると思いますが、そこはどのようにカバーし、アウトプットのイメージを具体化されたのでしょうか?
ストリートビューを見ていると、MATERIO baseがあるエリアには服屋や雑貨屋が多く、店先を見ると彩り豊かなものが置いてある印象を受けたんです。建築自体はシンプルですが、置かれてあるものに彩りがあったので、カラフルな色合いが街に馴染むんじゃないかというのは、最初から感じていたことでした。
また、都市環境の観点で考えると、今の時代は建物の階高やピッチがだいたい決められた寸法で建てられていると思うので、どんなデザインにすれば周辺の建物や環境に馴染むかというのも、ある程度イメージすることはできました。こうした視点は、自分がこれまで環境都市工学部で学んできたことと直結するので、学びが活かせた部分でもあります。
――制作の過程で特に大切にされたのはどんな部分ですか?
最初に構想を練っている段階では、カッティングシートを重ねて立体感を出そうと考えていました。過去の受賞作品を見ても重ねているものがありますし、その方が見栄えもよくて、かっこいいんじゃないかと思い込んでいたんですよね。そのため、カッティングシートを重ねてたくさん試作してみたのですが、どうもこのモルタルの壁面や周囲の環境に馴染む感覚がなくて、しっくりこなかったんです。

そこで、カッティングシートの特徴は何だろうと改めて考えてみると、何より平面であることと、鮮やかで温かみのある発色、触った時のツルッとした感触などがあげられると思い、今回はその特徴を最大限に活かそうと考え直しました。
最終的にはカッティングシートで立体感を出すことはやめて、あくまで人が服を着るように、硬くて重い立方体に、平面的な布をまとわせるようなイメージを大切にしながらデザインしました。
――試行錯誤を重ねた上での形なのですね。色もとてもカラフルですが、色味へのこだわりなどはいかがですか?
クールな色味でかっこよく仕上げると、少し威圧感が出てしまいそうだったので、あえて人目につくような原色の鮮やかな色を選びました。
というのも、最初にカッティングシートはどういう用途で使われるんだろうと調べていた時に、子どもの工作の道具として使われることも多いと知りました。それもあって、なんとなく子どものおもちゃを連想させるようなかわいらしい色味にした方が、見る人に愛着や親しみやすさを持ってもらえるんじゃないかと思ったんです。
小学生が工作で作った作品を見ていると、ハサミで切った断面などはガタついていたりするのですが、手づくり感や温かみが感じられて、すごくいいなと思うんですよね。いくらAI技術が発達しても、人の手仕事の痕跡のようなものはやっぱりなくなってほしくないので、そんな思いも込めて、子どもが切れ端を持っているようなピクトをプレゼンシートの右下にさりげなく入れました。

後藤さんが提出したプレゼンシート。子どもが切れ端を持ってくるイメージが右下に描かれている
作品を通して社会課題にアプローチしていきたい
――最後に、今回の受賞をきっかけに改めて感じたことや、今後目指すことなど教えてください。
今回、自分の技術や感性を建築にどう落とし込むかという模索の一環で応募したコンペで、金賞をいただくことができました。CSデザイン賞のテーマも、「職人」や「手仕事」といった僕が普段から考えていることととてもマッチしていたので、より思いを込めて作品制作に臨めました。自分自身が集落やスラムで経験したこと、そしてこれからのものづくりに対する思いを形として社会に残せたことは、本当にいい経験だったと感じています。
卒業後は、今学んでいることをより突き詰めるために大学院に行く予定です。また、4年生なのでこれから卒業設計を控えているのですが、そこでも自分はやはり、現代社会が持つ課題や問題に対してアプローチしていきたいと改めて思いました。今回の受賞を将来にしっかりつなげていきたいですね。

https://www.cs-designaward.jp
■第24回CSデザイン賞関連企画「廣村正彰+色部義昭 トークイベント」
登壇者:廣村正彰、色部義昭
日時:2026年10月17日(土)14:30〜16:00
場所:中川ケミカル本社5F(〒103-0004 東京都中央区東日本橋2-1-6 岩田屋ビル)
入場料:無料/予約制(申し込み多数の場合は抽選)
https://www.cs-designaward.jp/news/specialtalk_20261017.html
文:開洋美 撮影:加藤麻希 取材・編集:岩渕真理子(JDN)



