大賞決定の準備
新人賞が決定後に残りの作品をすべて並べ、投票によって、まず上位5点が選ばれました。
「心理的に、投票数を見るとそれに左右されてしまうことがある」 ため、付箋を一度はがしてさらに投票が行われました。
最終審査に残った作品は、以下の4点です。
【 コウチ・マーケット 】/第1部 物販店舗部門作品。
【 KURA-KURA 】/第2部 飲食店舗部門作品。
名古屋にあるバー。バーテンが自らデザインしている。
【 ブルームバーグICE 】/第6部 その他の部門作品
丸ビルの一階にある、参加型のインスタレーション作品。
【 福砂屋 松が枝店 】/第1部 物販店舗部門作品。
老舗のカステラ店。
作品が4点に絞られたところで、自分が投票した作品、その他の作品について、審査員の方々に一人ずつ意見を述べていただきます。
● 青木… 【 コウチ・マーケット 】 に投票。
「 【 コウチ・マーケット 】 (以下コウチ)は昔からの店の軒を並べていて、そこではなかなか新しいことはできないのに、実行している。固定されたステージが一番シンプルな形で表現できている作品だと思う。
僕が興味があるのは、“商空間”あるいはエクステリアというと、インテリアに集約されてしまいがちですが、この作品はインテリアでもエクステリアでもない、そこがおもしろい。」
● 近藤… 【 コウチ・マーケット 】 に投票。
「僕は2回目の審査あたりから 【 コウチ 】 しかないんじゃないかな、と思っていました。天井、床、壁、什器すべてが建物に溶け込んでいて、流出する内部みたいなものがうまく表現されている。」
● 飯島… 【 ブルームバーグICE 】 に投票。
「僕は、【 コウチ 】 は嫌いじゃない。ただ、造形の手法が全く100%新しい点に懸念しています。このような建築の、外観と内部を仕切る手法については、ほぼ出尽くした感じがあります。
【 ブルームバーグICE 】 (以下ブルームバーグ)には,実際に行ったことがあります。室内に入って、人が参加しながら、ある状況で変化するというこの方法は、いろいろなこれからのデザインの考え方の中で、ひとつあるべき姿だと思います。
バーは、正攻法のデザインで、杉本さん好みなんじゃないかな、と思いました。」
● 杉本… 【 KURA-KURA 】 に投票。
「僕は2年ほど前、改装前ですが偶然このバーに行ったことがあります。自分がここ数年見てきた空間の中では、ベストワークのうちのひとつです。
僕はこの2点で作品をみています。
1.感動しているかどうか
2.次の世代にどれだけ影響を及ぼすかどうか
僕はこの店に行ったとき、本当に感動しました。他の作品もいいけれど、“僕は”感動していません。バーテンをする人が自分でデザインしている。こつこつ直して創りあげていく。多分このバーテンはこのような空間を創るために、自分の生活のほとんど全てをかけていて、そのためにバーテンをしているように見えました。考え方としても影響を持つと思います。時間と共に変わっていく、店舗のひとつの究極のありかたではないでしょうか。」
● 糸井… 【 福砂屋 松が枝店 】 に投票。
「どの作品も、それなりに理由があってここまできて、実際町の中で機能していることが大事であって、どの作品が大賞に決まっても問題ないと思います。
僕は“服”あるいは“茶髪”に近い発想で考えています。例えばお金を出してデザイナーに服を頼む、あるいは選んでもらうとします。茶髪にする時、「茶髪として生きていこう」 と、自分の気持ちが変化して一歩を踏み出していくわけです。
【 ブルームバーグ 】 は素敵なコサージュをつけているように思えました。「いいでしょ」 と言われて「いいです」と言うだけで、生き方は変わらないんじゃないかな、と。自分がどんな服を着ているのか、わからない人に見えました。
【 コウチ 】 は、「きれいになったね、あの辺の店は」 と言われて終わったら、考え方というところまでつながらない。
【 KURA-KURA 】 はすてきだなあ、と思うけれど、良すぎるというか、汚せないなあという感じ。一歩踏み出したのはいいけれど、冒険的過ぎかなあ」
「【 福砂屋 】 のカステラはもともと好きで、自分が社長だったら、あ、ちょうどいいな、と。つまり、カステラがおいしそうに見えて、伝統を断ち切ることなく、もっとやる気になって、カステラ喰いまっせ、と言っているように見えて「いい服を新調できたな」という感じ。腑に落ちる服、ということで、この作品を選びました。」
● 橋爪…
「杉本氏の、バーの話を聞いて感動しています。
「4作品全く違うタイプで、どれが大賞になってもいいかな。
丸ビルのようなインタラクティブな表現は、まだまだこれから、進化しそうな感じがする。実験的すぎて、まだ、まだ、どうかな?先があるだろう?という。」
「 【 コウチ 】 が今年の大賞なのでは、と思っていました。ここ何年か数多く出ている『古い建物をリニューアルして現代的にする』作品の中では最も優れていて、美しくまとめていると思います。ただ、建物の中央の柱の処理が気になります。ガラス戸を閉めた時の処理はきれいですね。」
ひととおり、審査員の方々に意見を述べていただいたところで、糸井氏が 【 コウチ・マーケット 】 について、もう少し説明して欲しいという要望があり、青木氏が作品について解説をされました。
今年の作品は、昨年度の日産のショールームのように、ズバリのものがなく、説得性がとぼしいと、審査員の全員が感じたようです。
議論が続くうち、【 コウチ・マーケット 】 と 【 KURA-KURA 】 の2点の作品に的が絞られていきます。ここからも長い議論が展開されました。
「 【 コウチ 】 は、奥が深い。奥行きが他と全くちがう感じがする。中外がない空間の作り方がよい。中まで行きたくないという気持ちを変えた (青木)」
「ここにデザインが入っていくといろいろできそう」 (近藤)
「【 KURA-KURA 】 は、時間と共に変わっていく空間極めて素晴らしい店舗のありかた。店舗のひとつの、究極のありかただと思う」 (杉本)
「【 KURA-KURA 】 は、写真ではわからない空気感があると思います。実際に見たり行ったりした空間は想いが強いの (強くなるもの) で、良い方向にも悪い方向にも傾きます」 (飯島)
「【 KURA-KURA 】 に行ってみたい。気持ちが変わると思う。ただ、行ったことがない立場としては緊張してしまう・・・どうかな、と」 (青木)
議論が一息ついた時点で飯島氏が、「そろそろ大賞の決定を・・・」と審査員を促します。
ここでも 「心理的なものが働くから」 と、それぞれの作品をグーとチョキに決めた一斉挙手の多数決が行われました。
結果、【 コウチ・マーケット 】 が4票、【 KURA-KURA 】 が2票で、2003年度のJCDデザイン大賞は、【 コウチ・マーケット 】 に決定しました。
最後に糸井重里賞が決定
大賞決定の後、糸井重里賞の選定にはいります。
糸井氏は最後まで、作品の決定に迷っていたようです。
「バーテンの想いと言わせる位のなにかを与えたっていう、そういうものが増えてきたらおもしろいと思うんです。築地の方向だけで足りない部分を、もうひとつ、自分の名前で賞が付けられるんだったら、大賞と争った、バーに」
ということで、【 KURA-KURA 】 が糸井重里賞に決定しました。会場には拍手があがり、とても良い雰囲気で選定が終了しました。