受賞者インタビュー
2026/10/19 12:00

空と地面が反転する“恐怖”から生まれた絵—アイフル主催「Muninova Artist Award」最優秀賞・山名青汰 [PR]

空と地面が反転する“恐怖”から生まれた絵—アイフル主催「Muninova Artist Award」最優秀賞・山名青汰

「誰もが自分らしく輝ける社会の実現」を目指すアイフルが、初めて開催した公募展「Muninova Artist Award」。年齢や経歴を問わず自由に表現できる場を設けることで、社会全体の文化的発展に寄与することを目的としている。審査には、作家の原田マハさん、滋賀県立美術館ディレクターの保坂健二朗さんをはじめ、美術館や大学、企業など幅広い領域で活躍する6名があたった。

第1回となる今回、最優秀賞に選ばれたのは、京都の芸術大学に通う山名青汰さんの「又は落つ」。保坂さんは講評で「一見するとシンプルな緑の風景画ですが、その内側には複雑な空間認識と視点の揺らぎが巧みに織り込まれている」と評した。受賞作品は、2026年8月29日から9月6日まで、京都市美術館別館で展示された。

授賞式の様子

本インタビューでは、山名さんが絵を描き始めたきっかけから、受賞作品に込めた思い、そして受賞を経た現在の心境までをうかがった。

「とりあえず描いてみる」から始まった制作、考え抜いた画面比率

——まずは、山名さんが絵を描き始めたきっかけを教えてください。

本格的に絵を描き始めたのは、現在通っている大学の受験を決めてからです。それまでも絵を描くことは好きでしたが、思いついたものをそのまま描く程度でした。何をどのように描くかを論理的に組み立てるようになったのは、受験がきっかけです。

僕の作品は、描きたい風景などのイメージが浮かぶところから始まります。まずはそのイメージを描いてみて、移動中などに考えを巡らせるうちに、描いたものと日頃考えていることが自然と結びついていきます。描くことと考えることが、ほぼ同時に交互に進む感覚です。大学のゼミで「とりあえず描いてみる」という方針に触れ、それを実践するうちに、この進め方が身に付きました。

山名青汰 2023年に京都市立芸術大学入学、2026年現在在籍。視覚的関心に即した出力を起点とし、複数のテーマや構造を横断する絵画作品群を主として制作している

イメージの源として大きいのは映画です。もともとはマーベル作品のようなハリウッド映画をよく見ていました。ここ数年は映画館に通う機会が増え、特に濱口竜介監督の作品が好きで、特集上映では14本ほど見たこともあります。物語とは関係なく、画面の一部の映像に心を惹かれることがよくあり、そうした断片が描きたいイメージにつながっていきます。

——現在の制作で大切にしている軸はありますか?

題材について調べ、自分なりの考えを組み立ててから描くことは大事だと考えています。ただ、理屈に寄りすぎると絵が硬くなってしまいます。一方で、「こういうものを描きたい」という思いは、柔らかいまま絵に落とし込めている実感があります。頭の中にある図像を、そのまま形にしたい。その欲求を何より大切にしています。

——「又は落つ」は縦長の画面が印象的な作品です。なぜ縦構図にしたのでしょうか?

以前は同じような題材を、映画の影響からシネマスコープやビスタサイズといった横長の比率で描いていました。しかし、それはリアルではないと感じるようになりました。

たとえば眼鏡をかけると視界は横長に切り取られますし、パソコンをはじめ、身の回りは横長の画面であふれています。ものの見方そのものが偏っているのではないかと考え、寝そべったり、眼鏡を外して布団に潜ったりしてみたところ、縦長のほうが本来の視点に近いのではないかと思うようになりました。美しいとされる黄金比のような比率とも、意識的に距離を置いています。

最優秀賞作品「又は落つ」

これまでの作品を振り返ると、画面構成はできるだけシンプルにし、見た目は単純な図像の内側に複雑なものを内包させている。その組み立て方は、自分の中で変わらないものだと考えています。

偶然が重なって生まれた「又は落つ」、恐怖という核とタイトルの意味

——Muninova Artist Awardに応募した経緯を教えてください。

友人が出品すると聞き、このアワードを知りました。作品サイズが描きたい大きさと重なっていたことに加え、「又は落つ」と同じテーマの作品を描き直したいと考えていました。こうした偶然が重なり、応募を決めました。

公募展には、これまで3回ほど応募していますが、学外の人の目にどう映るのかを知りたいと思ったのが始まりです。Muninova Artist Awardは第1回目でしたし、正直、どのようなアワードか想像がつきませんでしたが、ものは試しとチャレンジしてみました。

——受賞作「又は落つ」のコンセプトを教えてください。

作品の核になっているのは、恐怖や畏怖です。発想のきっかけは海洋恐怖症でした。広大な海を怖いと感じる人がいるように、僕は空に対して同じ感覚を抱きます。

都会では横を向くと建物で空がさえぎられますが、大阪・関西万博の会場となった夢洲のような埋め立て地では、斜めや横にも空が大きく広がります。そうした場所に立つと、もし空と地面が反転したら、自分は空へ落ちていくのではないか。その想像が、ずっと頭から離れませんでした。

以前は空に落ちる恐怖そのものを描こうとしていましたが、思うような作品にはなりませんでした。考えるうちに、足が地面に接していること自体が重要だと気付きました。安定して立っている実感があるからこそ、落ちることへの恐怖が生まれるのだと思います。そこで今回は、地面に立つ自分の視点を画面に描き込みました。

——「又は落つ」というタイトル自体も印象的です。タイトルにはどんな意味が込められているのでしょうか?

「落つ」は、空に落ちるという意味です。「自分が落ちる」から文字数を削り、冒頭に「又は」という接続詞を置くことで、「今は地面に立っている」という前提を、あえて言葉の外に隠しています。

今回の応募では、作品名の英訳も求められたので、日本語では省いた主語を、英訳(or I fallt)にだけ「I(私)」として加えました。日本語と英語を並べたときに、ちょうどよい説明になると考えています。

想像していなかった色、今も実感の湧かない受賞

——「又は落つ」はどのように制作していったのでしょうか。制作期間もあわせて教えてください。

構想自体は以前から続いていましたが、制作期間は1カ月半ほどです。アブソルバンという吸収性の下地材と地塗りを混ぜてキャンバスに塗り、平らな面をつくりました。その上に、揮発性の油を多めに混ぜた絵具で薄い膜を塗り重ねていきました。

——作品を見る人には、どこを見てほしいですか?

地面と空が重要な要素なので、画面の中でそれぞれが占める比率を見てほしいです。授賞式では「視点が定まらない」という感想もいただきましたが、画面の中の視点はわざとずらしています。

風景の切り取り方を工夫し、少ない要素でできるだけ多くを語りたいと考えました。深読みしてほしいわけではありませんが、作品を見た人それぞれに何かを感じ取ってもらえたらうれしいです。海洋恐怖症のような感覚は、程度の差こそあれ、誰もが根底に持っているものではないでしょうか。その感覚を抽象化し、共感できる画面をつくることに力を注ぎました。

想定外だったのは色です。緑を画面の主役にしたのは初めてで、自分が美しいと思える緑を探しながら、赤を意識的に混ぜて塗り重ねました。それが空の色と合わさり、想像していなかった不思議な色合いが生まれています。

——受賞の連絡を受けたときは、どのように感じましたか?

事務局からのメールで受賞を知ったときが一番驚いたのですが、電話で詳しい説明を受けたときも、まだ気持ちが追いついていない状態でした。自分の絵が最優秀賞に選ばれたことが、いまだに信じられないような思いです。

審査員の保坂さんは、「多彩な色彩を重ねながら独特の静けさを生み出し、鑑賞者の視点を探るうちに作品世界へと引き込まれていく」と評してくださったのですが、「又は落つ」制作後から、この展覧会まで続けてきた制作とつながる部分もあって驚きました。

授賞式のあとには全体講評があり、審査員の選定意図や受賞者の想いなどが語られた。合間には受賞者同士で互いの作品について話す機会もあり、貴重な機会だったと山名さんは話した

授賞式の講評でも絵の具体的な要素に触れていただき、自分では意識していなかった点に気付いたり、自身の制作を再認識する機会となり、大きな自信につながりました。

自分なりの「派生図」を描き続ける、開かれたアワードで得た自信

——受賞を経て、気持ちや作風に変化はありましたか?

受賞は初めてだったので、授賞式まではとにかく浮かれないように自分を戒めていました。授賞式を終えて気持ちの整理がついた今は、受賞が自信につながっていると感じます。確固たるものではありませんが、これまでとは違う、安心感に近い自信です。

ただ、制作そのものは変わらないと思います。「又は落つ」については、受賞を知る前から自分なりに振り返り、次の作品へとつなげていました。受賞したからといって、この作品だけが特別な位置を占めるわけではありません。これまでの作品から次の作品が枝分かれしていく、いわば自分なりの「派生図」を意識しながら、制作を続けていくつもりです。

作風が今後どう変わるかは、正直なところ予測できません。興味の移り変わりが激しく、理由もなくそれまでの表現から離れたくなることもあるからです。ただ最近は、過去の作品を見返し、そのときの自分が何を考えていたのかを確かめるようになりました。そこで見えてきた自分の癖は、これからも変わらないと思います。そうした点にも注目しながら、今後の作品を見ていただけたらうれしいです。

——最後に、今後Muninova Artist Awardへの応募を考えている人にメッセージをお願いします。

受賞作が並ぶ展覧会を見て、Muninova Artist Awardは多様な表現を受け止める、開かれたアワードだと思いました。審査員の方々がさまざまな分野から集まっていることが、そのまま選考に反映されていると感じます。

現在の美術は、さまざまな表現が並び立っている状況だと捉えています。その中で、自分なりの表現を突き詰めている人は少なくありません。僕自身、応募する前はどんなアワードなのか想像がつきませんでしたが、挑んでみて良かったと感じています。同じように迷っている人にこそ、挑戦してみてほしいです。

Muninova Artist Award 公式サイト
https://www.muninova.co.jp/news/muninova_artist_award/

執筆:南野義哉 撮影:牛久保賢二 取材・編集:石田織座(JDN)

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