自分の視点を、鑑賞者が追体験できるような絵画を描きたい – シェル美術賞2021(現 Idemitsu Art Award)グランプリ 福原優太2 / 2 [PR]
絵が描けなくなっていた自分を再始動させるために応募した
──油絵を始めたのはいつ頃からですか?
高校1年生から美大受験予備校でデッサンをし、3年生で油絵を始めました。初めはデザイン科志望だったんですが、最初にやった平面構成がマチエール盛り盛りで油絵でしかなく、講師からもデザインより油絵のほうが向いていると言われて(笑)。そこから1年間ひたすら油絵を描いて、自分がやりたいこと、やれることを理解して向き合うことを教わりました。美大に入学してからもずっと描き続けていたんですが、卒業してから1年くらい絵が描けなくなったんです。
──どんな理由で描けなくなっていたのでしょうか?
大学2年の時に周りの同級生たちの絵に強く惹かれてしまって、その影響で自分自身を見失ってしまっていたんですよ。それでも大学4年間はもがきつつ絵をメインにやっていたんですけど、卒業後は同級生の作家たちを応援する側になろうと、ギャラリー&バーをやりたいとまで考えていました。
──そんな中で、シェル美術賞に応募されたのはなぜですか?
この1年、コロナ禍でバイトにもあまり入れなくなって無為な時間を過ごしていたら、一緒にアトリエを借りている友人が「目標を持って生きろ」と本気で怒ってくれて。「シェルに応募してみたら」と勧めてくれたんです。だから受賞した時には同級生が驚いていました。同級生のほとんどは、僕が絵を続けていないと思っていたでしょう。家族も理解してくれていましたし、僕一人の力ではこの結果にたどり着かなかったと思います。
──再始動されて、今は画家としての活動を続けているのですね。
はい。これから画家として食べていくことを考えていくと、ある程度のスピードで作品を作っていかないとと思って制作を続けています。日本で売れている作家で言うと井田幸昌さんなどは描くのが速そうなんですよ。僕は今、祖母宅の3階で制作をしているんですが、10枚近くの絵を独立して同時進行で制作していて、下地をつくって乾き待ちの間に別の絵に行くとか、別な絵を描いていて余った絵具で描くこともあります。この柔軟さは自分の強みになるのかなと思っていますね。
──制作では、どのようなテーマで描かれているのでしょうか。ポートフォリオを拝見すると、静物、風景、人物、半具象、抽象などさまざまな絵を描いているんですね。
受賞作は人を描きたいという画欲で人物を描きこんだんですが、本当は油絵で人を描くにはまだ力が足りないと思っていて、上空から見た町の風景など、視点を変えて描いています。最近は、自分の視点を追体験させたい、自分の視点に鑑賞者が立てるような作品を描きたいと思っています。
また、最近はスマホでドローイングしているんです。(スマホのギャラリーを見せながら)これは首都高をドライブしながら見た夜景から建物の輪郭と空の輪郭がぼやける瞬間を捉えたり、あと、ビルに映った雲をどうやってキャンバスに描くかというイメージを持ちながらドローイングしたりもしました。油絵で人を描かない分、ドローイングでは寝ている友人や、電車で目の前にいた人を描いたりもしています。訓練という面もありますし、自分は飽きやすいタイプだと思うので、熱を覚まさないように駆動させている面もありますね。
様々なアーティストの作品を「見ること」から吸収したい
──話は変わりますが、公式サイトの受賞コメントで「今まで私は作家ではなくコレクターになる人間だと思っていました」とありました。他の方の絵を見るのはお好きなんですか?
はい。時代はバラバラで、好きな作家がたくさんいます。画家になりたい人は特にいろいろな作家を知って、たくさんの絵に触れることが大事だと思っています。
「ゴッホ展 響き合う魂ヘレーネとフィンセント」は2回行って、友人が注意してくれなかったら2階に上がるのを忘れていたくらい、1枚に時間をかけて見ました。昨年の「ピーター・ドイグ展」も朝から行って1日中いても見足りなくて3回行きましたね。吸収しようと思って長時間一枚の絵を見続けています。友人と渋谷あたりで自転車を借りて2日間で20軒くらいギャラリーを回ったり、あるいは一人か二人で一日を一つの美術館に捧げたり、インプットはまとめて行うようにしていて。金沢21世紀美術館で開催されたミヒャエル・ボレマンスとマーク・マンダースの2人展は、夜行バスで行って丸一日いました。会場を出たのは閉館時刻で、金沢の市場も閉まっていて何も食べられなかった(笑)。ボレマンスはお腹いっぱいでした(笑)
──最終的には吸収したものを自分の絵に落とし込みたい?
はい。自分でもそこから学んでいるんだと思います。受賞作も、草原の緑の手前に赤を入れるのは以前に見たミリアム・カーン、シルエットぽいところはヴィルヘルム・サスナルの影響を受けています。描いている最中は何色を置いたら面白いかなと感覚的に選んでいますが、後から、以前に見た作家の作品から引っ張られてきたんだなと気づくようなことはあります。絵の文脈や時代背景なども学びたくて、最近はデイヴィッド・ホックニーが画像の歴史を書いた『絵画の歴史、洞窟壁画からipadまで』などを読んでいます。
──さまざまな時代のさまざまな作品に触れた上で、ご自身が今この時代に絵画を描いている意味を、どう考えていますか?
ゴッホやモネなど先人の作品は、その時代の空気感や画家が見ていた風景、さらには匂いを感じさせます。それが絵画の良さだと思っています。現代アートにはいろいろな手法があり、僕自身も現代アートを鑑賞することは好きですが、あくまでも画家として生き、制作するのは絵画でありたいです。
──今後の活動のご予定をお教えください。
2022年春、夏、秋と3回の個展が決まっています。今すでに作品が50点近く溜まっているので、どんどん発表していきたいです。
──最後に、今後シェル美術賞に応募しようと思っている方にメッセージはありますか?
僕は、公募展に出すというのは他人と比較され、落選・入選があるという点で、勝負だと思っています。もちろん絵なので直接的な勝ち負けではないですし、その年の審査員の方との相性や時の運もあるので一概には言えませんが……。だからこそ、シェル美術賞に限らず、公募展に出すのは過程が大事だとお伝えしたいです。
今回のシェル美術賞には、多くの同期の友達が出品するということを事前に聞いていたので、誰にも負けたくないという気持ちで取り組みました。その結果、モチベーションが上がって絵を描くこと自体が楽しくなりました。ライバルや仲間って大事な存在だと思いましたし、応募すると決めてその過程で頑張れた、楽しめたことがよかったです。
これから応募を検討されている方には、制作して出品する過程を楽しんで、描いて、描いて、描きまくって欲しいです!次回のシェル美術賞、誠に勝手ながら力作に出会うのを楽しみにしています。
シェル美術賞 公式ホームページ
https://www.idemitsu.com/jp/enjoy/culture_art/art/
※本記事の取材は2021年12月10日に実施しました
文:白坂由里 写真:加藤麻希 編集:猪瀬香織(JDN)
日程:2022年4月1日~5月8日 13:00~19:00
※休業日 火・水・木曜日(GWは変則スケジュールとなり5月2日・6日が休業)
会場:下北沢アーツ(東京都世田谷区北沢1-40-9 1階)
日程:2022年月8月
会場:マキイマサルファインアーツ(東京都台東区浅草橋1-7-7)
※詳細は決定次第福原さんTwitter、Instagramにて発信
https://twitter.com/pocari666cyuta
https://www.instagram.com/fukuhara_painting/