日々の積み重ねが気配として作品からにじみ出てくる―デザイナー秋山かおりに聞くコンペの必勝法2 / 2

日々の積み重ねが気配として作品からにじみ出てくる―デザイナー秋山かおりに聞くコンペの必勝法

コンペをきっかけにつながる“縁”

──本当に様々なコンペに参加されていたんですね。ちなみに、秋山さんは現在「富山デザインコンペティション」の審査員を務められていますよね。

はい。本当に、ありがたい話だなと思います。実は「富山デザインコンペティション」で私が応募したときの審査員の方々とは、コンペをきっかけにご縁ができて。コンペに通ると、そういうつながりも生まれるんですよね。一方で、入賞者の若いデザイナーとの交流も大事だと思っています。

──人とのつながりも、コンペに挑戦して得られるメリットなのですね。

その通りです。展示会はその場でネットワークをつくるのに適していますが、コンペは入選や受賞をすると名前が残りますよね。そうすると後々になって、思ってもみなかった人から、「あのとき見てたよ」と言われ、それが新しい仕事に繋がったりすることがあるんです。

また、富山デザインコンペをはじめ、商品化に向けてバックアップしてくれるところも多いので、それも大きなメリットだと思います。突然、企業の門戸を叩いて、「この提案どうでしょう」といっても、なかなか相手にしてもらえませんから。企業がデザイナーに新しい発想を求める一方で、デザイナー側にとって制作する上で難しい部分は、企業がサポートしてくれる。そこがうまくマッチするのが、コンペのいいところだと思います。

2018年に三菱エンジニアリングプラスチックスが開発した新素材「高意匠性ポリカーボネート樹脂」の素材の魅力を伝えるためのコミュニケーションツール「KONOHA」。秋山さんのスタジオにも飾られている。German Design Award(ドイツ)、DFA Award(香港)、グッドデザイン賞受賞。

日々の積み重ねが、コンペ作品に“にじみ出る”

──コンペの選び方にコツはありますか?

富山デザインコンペをはじめ、名だたるコンペがいくつか日本にはありますが、やはり歴史が長く実績のあるコンペは過去の記録が残り評価され続けます。そして、これは審査側を経験するようになって感じることですが、コンペは「人」が審査することなので審査員が誰かというポイントで選ぶことも実はとても大事です。

「この人だったら、自分の作品を理解してくれそう」とか、「この人に、自分の発想を知ってもらいたい!」と思える審査員のいるコンペを選ぶことは一つのコツなのではないかと思います。審査員のことを知らない場合も、その人が過去にどんな仕事をしていて、どういうところに価値を見出す人かリサーチしておくと、アプローチの仕方も変わってくると思います。

あと、私自身も反省していることとして、コンペだけを目指してものづくりをすると、どうしても付け焼き刃のようになってしまうんですよね。それよりも、自分がライフワークのように行ってきたアウトプットが合うコンペを見つけて、自分にしかない強い視点や発想をコンペのテーマにチューニングさせて提案するくらいの意気込みで取り組む必要があると思います。

「色や素材、加工の魅力を伝える」という意識の中で生まれた「GRIP on the color」
https://experimental-creations.com/ja/grip-on-the-color/

──秋山さんが思う、コンペの必勝法があればぜひ教えてください。

とても基本的なことではありますが、審査する側は相当な数の応募作品を見るので、瞬時にグッと心を掴む「気配」のようなものが作品には必要だと思います。あとは「わかりやすさ」も大切ですね。スッと理解できるものは記憶にも残りますし、コンペの場では審査員同士で共感できることも大事です。何を伝えたいか、受け手側の視点に立って表現してもらえると良いなと思います。

それと「こんな人にもあんな人にもいい」というアピールの仕方よりも、「コアだけど、こういう人のためにつくりました」というもののほうが、くすぐられると思います。私も「cassico」を手がけたときに、あれもこれもできますと欲張って万人に向けてつくったものは、万人にぼんやりとしか伝わらないものになってしまうけれど、相手をきちんと見据えて丁寧につくったものは、長く大事に使ってもらえるものになることを実感しました。そうしたターゲットを絞ったものづくりは、今の時代こそ必要なことだと思います。

──審査員の立場となり、コンペの見方は変わりましたか。

審査する側になって思ったことは、「コンペは作品を通して人を見ている」ということです。日頃から考えていることや、その人ならではのユニークな視点って、作品からにじみ出てくるもので、審査員はそれを感じるんですよね。

だから、デザイナーを目指すのであれば、今という時代にいっぱいアンテナを張って、自分に何ができるのか、普段の生活から意識して考えていることがやっぱり大切。急がば回れというけれど、日々を積み重ねていくことが、結局は近道になるんだと思います。

──大切なことは、日常にあるのですね。

はい。それと、とても大事なことは諦めないことです。クライアントワークでも、こちらの提案が様々な事情で実現できないケースはよくあります。ただ、今は無理かもしれないと思うことでも提案して議論して、それによって拓ける未来を見せることが、デザイナーの役割だと思うんですね。だから私は提案が通らないときは、諦めるのではなく、保留にします。今は進められないけど、状況や人が変わって、「今ならできる」という時が来ます。実際いくつかの仕事がそうして実を結んでいます。その時のために、諦めちゃいけないと思っています。

──最後に、これからコンペに挑戦しようとしている方に、メッセージをお願いします!

まず応募することが大事です。魅力的な発想があっても、動かなければ届かないので。特に日本人は受け身でいる人が多い傾向にありますが、それだといつまでも機会は巡ってきません。通らなかったアイデアが別のところで生きる機会もあるし、そのとき考えたことは自分の引き出しにもなります。とにかく、宝くじよりは当たりますから(笑)。落ちることを怖がらないで、まずは一歩を踏み出してほしいなと思います。

STUDIO BYCOLOR
https://studiobycolor.com/

文:矢部智子 撮影:川瀬一絵 聞き手・編集:石田織座(JDN)

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