第20回ザッカデザイン画コンペティションで、大賞を受賞され、現在はTHE PARLR(株式会社オンワード樫山)のアシスタントデザイナーとして勤務されている、土井槙子さんに、受賞された当時のことを振り返り、お話し頂きました。
在学期間を通して、レディースアパレルのデザイナーに、なれればいいな、というよりは、なんとしてでもなる覚悟でいました。具体的な就職先としては、大手企業というより、自分の世界観に合いそうなブランドを展開している中小企業を志望していました。ですが、どんな形であれ、まずはデザイナーとして就職することを第一に考えていました。
学校の課題制作においては、自分の作品全ての根底に流れる一貫したコンセプトと、その作品ごとのテーマを表現することを常に求められていました。それを研ぎ澄ませていくことを、日常的に指導されていました。それは、私個人の特別な努力というよりは、学校の仲間と一緒にしていたことです。
なので、コンペ作品においても、特別普段と違うことをしていたわけではありません。
ただ、私は自分自身の表現を模索している最中だったので、作品に対して、先生や同級生から“私らしさが出ている”と評価されたことが嬉しかったのを憶えています。
コンセプトやテーマというのは、私がデザイナーとして仕事を続けていく以上、常に目の前にあります。ブランドにもそれぞれのコンセプトやテーマが存在するからです。入社以後配属されているブランドのコンセプトは、学生時代にしていた自分の表現とは全く異なるものですが、それを理解して自分のフィルターを通した表現ができるよう、努力しているところです。
私はファッションとは関係のない大学を卒業した後、無理を言って進学させてもらっていたので、両親にはデザイナーを目指すことを反対され、2年で卒業すると約束していました。ですが、学べば学ぶほど、心の中ではデザイナーとしてよりレベルアップするために進学を望む気持ちが強まっていました。
このコンテストに応募したのはちょうどその頃だったのですが、なんとか賞を取って客観的な評価を得ることで、デザイナーとしての自分の将来性を両親に認めて欲しい、と思っていました。
先生から受賞の知らせを受けたときには信じられない気持ちでいっぱいでしたが、すぐに、「これで両親に、進学したい気持ちを打ち明けられる!」という思いに変わりました。
最終的に進学を許してもらえたのは、デザイナーとして、厳しい世界でやっていけるのか心配していた両親に対して、受賞という結果が言葉以上の説得力を持っていたのだと思います。
展示されていた私の作品を見た舞台関係の方から、衣装デザインをしてみないかと声をかけられました。結果的には、レディースアパレルのデザイナーとして就職しましたが、それまで衣装デザインという道は考えたことがなかったため、就職活動を行う上で視野が広がりました。また、受賞歴は履歴書に書くことができるので、就職活動にはいくらか自信を持って臨むことができたと思います。
自分にとっては想定外の大企業に就職することになり、素晴らしい先輩デザイナーが周りにたくさんいる環境にあって、コンテストで受賞したぐらいでは、と自信を失うことがあります。でも、私にとっては、大きな分岐点となるコンテストでした。このコンテストがきっかけで両親に進学を許可してもらうことができ、デザイナーとして就職する道が開けたからです。自分も将来ああなれるだろうか、と自信を失わせるような先輩デザイナーに囲まれて仕事ができているのもそのおかげです。関係者の方々には本当に感謝しています。
台東区ザッカデザイン画コンペティションの特色は、デザイン画を自分で製作する他の多くのコンペとは違い、受賞すると台東区でmade in Japanのものづくりをしていらっしゃる職人さんたちに製作していただけることです。
私はツダ製靴さんとやりとりをして、現場にお邪魔させていただき、自分の作品をどうやって人に伝え、作り上げるのか、就職前に体験させていただくことができました。学生である自分のアイディアを実現するためにその道のプロの方々が仕事をしてくださった体験は、強い感動として自分の中に残っており、思い出す度に、今一緒に仕事をしているパタンナーさんや工場さんへの感謝の気持ちに駆られます。
コンテストは、賞を取れなければ意味がない、というものではないと思います。
第一線で仕事をされている先輩方に審査員として、自分の作品を見て、評価していただく大きなチャンスです。たとえ自分が受賞できなくても、それはいい作品でないとか、才能がないということの答えではありません。受賞作品と自分の作品を客観的に見比べることで、現場目線の評価で自分の作品を見直すきっかけにもなると思います。
デザイナーは、常に人からの評価を受ける仕事です。そのような客観性は、就職してからも、大いに役に立ちます。
学生のみなさんにとっては課題で忙しい中、コンテストにかける労力を割くことは容易なことではないかもしれませんが、それだけの価値はきっとあるはずです。
皆さんそれぞれに、夢への道が開けることを願っています。
北海道出身。
北海道大学文学部卒業後、ファッションを学ぶため、上京。
2011年ESMODJAPON東京校を卒業し、同年株式会社オンワード樫山に入社。
現在THE PARLRのアシスタントデザイナーとして勤務。