Idemitsu Art Award 2025
【後援】
株式会社朝日新聞社

——絵はいつ頃から描き始めたのですか?
地元の静岡で、小学校低学年の頃にアトリエ教室に通っていました。技法を教わるのではなく、拾った落ち葉に絵を描いたり、段ボール箱で自分の世界をつくるような工作があったり、つくりたいものをつくる場所でした。わからないことがあったらアドバイスをもらうぐらい。
コラージュも制作していたので、いまの、モチーフをポンポンと配置するような描き方につながっているかもしれません。絵を描くことが自分にとって特別なことだと感じたのはその頃です。
——そこからアーティストになりたいと思うようになったのはいつ頃ですか?
地方にいたので、美術を仕事にしている人は選ばれし者のように思っていたし、僕自身は仕事にならなくても生活の中で絵は描けるので、作品が世の中に出なくてもいいと思っていた時期もありました。それで税理士事務所の家業を継ぐために大学院まで行ったのですが、修了する前年に知人に背中を押されて、会計士の道に進まずに作家になろうと決意しました。

——作品を発表したことはありますか?
2022年にインスタグラムで絵を発表し始めて、作家として欲が出てきた頃に茨城県つくば市の「千年一日珈琲焙煎所」というカフェギャラリーにお声がけいただき、展示と販売をおこないました。
1枚売れたらすごいと思っていたのですが、びっくりするぐらい売れたんですよ。それまではやりたい仕事がないという気持ちを抱えながら生きていたこともあり、作品を良いと思って購入してくださる方がいたことがありがたかったですし、自分で稼いだお金なんだという手応えもあり、もっとしっかり作家活動をしていこうと気合が入りました。
——それは励みになりますね。インスタグラムはどのように始めたのですか?
絵は独学で、つてもなくアピールも苦手ですが、何か発信しないといけないなと思って始めました。
展示も発信方法のひとつですが、自分でお金を払って場所を借りることはせずに、求められた時に自分が納得できる場所でするようにしています。
また、作品集も2冊、自主出版しています。鳥と魚を毎日描いてまとめた『TORITOSAKANA』 と、2年間「Barisan」という架空の人物の絵日記として描いた『Works by RyoEndo 26th November, 2022 to 25th March, 2024』。後者は600枚ほど毎日描いた中から350ページくらいにまとめました。

『TORITOSAKANA』52ページ、2024年、自費出版

『Works by RyoEndo 26th November, 2022 to 25th March, 2024』344ページ、2025年、自費出版、ブックデザイン:米山菜津子、撮影:有本怜生

絵日記は日を追うごとに描き方に変化がみられる
——受賞作とはまた作風が違っていて、こちらも良いですね。
ありがとうございます。フォントが好きなので、架空の絵日記は英語と絵を一つの絵に組み合わせて、言いたいことを主人公に言わせています(笑)。受賞作もそうですが、 自分が素直に描いているものは一貫してユーモアを大事にしています。ブラックジョークみたいな、シリアスにならずちょっとふざける感覚は昔から変わってないですね。
——受賞コメントに「作品一つひとつに明確に伝えたいことがあるというよりは、僕の描くものすべてに一貫したメッセージがある」と書かれていました。どんなメッセージなのか、その中で受賞作はどのような関連があるのか教えていただけますか?
「メッセージ」と書いてしまってちょっと後悔しています(笑)。例えば、大雨の翌日の川が濁流だったとして、遠くから眺める分には綺麗なんですけど、実際そこに人間が足を踏み入れたら生存できない、人間にとってはかなわない存在としての自然がある。

綺麗な部分だけを描くんじゃなくて、そういうかなわない部分や不可抗力、暴力的な部分なども一枚の画面に共存しているように描きたいという思いがあります。(グランプリ受賞作「結婚」にも描いた)噴火する火山は、人間にとっては災害をもたらすものでも自然界にとってはエネルギーでもある、そういう良い面も悪い面もあって世界は美しいし楽しいと思えるのではないかと。
僕が鑑賞者としていいなと思う絵は、意識して見なくても、自分の深いところの感覚に一瞬で入ってくるような絵です。そんな作品が描けたらいいなと思っています。
——「Idemitsu Art Award展2025」で作品が展示されます。来場者に特に見てほしいところはありますか?
絵を見る距離を変えるとまた見えてくるものも違うと思いますので、近づいたり離れたりしながら見ていただければ嬉しいです。絵を描いたら、その作品は自分から離れていきますので、見る方それぞれの受け取り方で楽しんでいただければと思います。絵を前に、僕も鑑賞者になって一緒に考えるような感覚です。
——今後、挑戦してみたいことはありますか?
ホワイトキューブのギャラリーで自分の作品はどう見えるのか、展示してみたいです。
——来年の「Idemitsu Art Award」への応募を考えている人にメッセージをお願いします。
こういった公募展には美術大学でアカデミックに学んでいる方からの応募が多いとは思うのですが、僕のように専門的な美術教育を受けてない人にも、ぜひ気後れせず挑戦してほしいです。
——「Idemitsu Art Award」としても裾野が広がることでさらに多様性や活気が生まれそうですね。遠藤さんのご活躍も期待しています。本日はありがとうございました。

文:白坂由里 写真:石垣星児 編集:萩原あとり(JDN)

シェル美術賞から「Idemitsu Art Award」となり、ロゴも刷新。キャンバスを満たしていくエネルギーがモチーフとなったデザインで、「キャンバスから、人へ、未来へ。若き才能が放つエネルギーを、社会のエネルギーへ」と、シェル美術賞から継続して若手に期待し、若手を支援する出光興産の思いが込められている。
公式ホームページ
https://www.idemitsu.com/jp/fun/art/index.html
公式Instagram
https://www.instagram.com/idemitsu_art_award.official/