東京の美しい伝統技術をチームで世界に届ける。「東京手仕事」商品開発プロジェクト受賞者インタビュー2 / 2 [PR]

検証に検証を重ね、三者で駆け抜けた商品開発
――マッチング後、商品開発まではどのように進めていったのでしょうか?
まずは、柿沼人形さんと私、そしてプロジェクト事務局に所属する商品開発アドバイザーの三者で仕様を詰めていきました。
特に焦点となったのは、木目込技術を用いて薄い商品をどうつくるかという点です。先ほど話したように、お面は人形とは違って実際に身につける道具でもあります。そのため、できる限り軽くして薄く仕上げる必要がある。柿沼人形さんもここまで薄い商品はつくったことがないとのことで、3Dで何度も検証しました。
さらに頭を悩ませたのは、木目込むための溝をどう入れるかです。溝の間隔が狭すぎると布が入り込まなくなってしまうし、広すぎると布がピンと張らなくなってしまいます。また、基本的に木目込技術は膨らんでいるものに布を貼り付ける技術のため、反り返っていたり凹んでいたりする部分に貼るのは非常に難しい。例えば白狐のお面では、鼻筋が反り返っているため木目込みの溝を細かく調整しなければなりません。
こうした一つひとつの仕様を何時間もかけて話し合い、手を動かし、時には一からやり直しながら進めていきました。
――商品開発アドバイザーとはどのように連携したのでしょうか?
職人さんとの認識のすり合わせから、製作スケジュールの管理、開発のサポート、市場調査など、何から何まで伴走してもらいました。
「東京手仕事」商品開発プロジェクトに慣れている方がアドバイザーとしてついてくれたおかげで、計画書や報告書のつくり方まで細かくアドバイスしてもらい、とても助かったのを覚えています。
特に支えになったのは、サンプル商品を提出する際のこと。ギリギリまで調整を重ねていた関係で、私の手持ちの3Dプリンタでは提出期限に間に合わないかもしれないという状況でした。そのとき、アドバイザーの方が最新の大型3Dプリンタを扱う東京都立産業技術研究センターの活用を提案してくれたおかげで、無事に間に合わせることができたんです。
細部までこだわること、個の枠にとらわれないこと
――何度も検証を重ねた後、東京都知事賞を受賞した瞬間はどのようなお気持ちでしたか?
名前が呼ばれた瞬間は、あまりの嬉しさと驚きで柿沼人形さんとハイタッチしてしまいました(笑)。東京都知事賞を受賞することができたのは、三者で何度も話し合い、妥協せずに検証し続けた結果だと思います。面紐の素材からリーフレット、パッケージのデザインまで含め、細部までとことんこだわったことが評価につながったのではないでしょうか。
特に嬉しかったのは、取引先のお客様から「この記事に載っているのって板倉さんだよね?おめでとう!」と連絡をいただいたことです。このプロジェクトに応募する前は、自分から発信しなければ見てもらえないと焦っていましたが、そんなことをせずともいろいろな人が見ていてくださっているんだと気づきました。
同時に、「東京手仕事」商品開発プロジェクトの影響力に驚かされましたね。受賞したことで、いままで以上に多くの方からご相談をいただくことが増えました。さらには、東京都中小企業振興公社が手がけられている「事業化チャレンジ道場」のデザインインストラクターを務める機会をいただくなど、仕事の幅そのものが広がりはじめています。
――海外への展開という点では、何か効果はありましたか?
パリでおこなわれたデザイン見本市の「メゾン・エ・オブジェ・パリ」に出展し、多くの注目を集めたそうです。私は都合がつかず行けなかったのですが、海外の方々が『木目込神楽』を身につけている写真を拝見して、「本当に届いたんだ……!」と感動しました。お面のアイデアを思いついたときから、絶対海外の方の興味を引くはずだと信じて進めてきたのでとても感慨深かったですね。これで満足せず、今後も多くの方々に届けられたら良いなと考えています。

「メゾン・エ・オブジェ・パリ」出展の様子
素晴らしい技術を持つ職人さんと共に商品開発ができるのはもちろん、商品開発アドバイザーの方の手厚いサポートもあり、普及促進支援商品に選定された暁には国内外の展示会に出展することもできる。そして参加したデザイナーにとっては、こうしてキャリアの幅を広げることにもつながっていく。改めて素晴らしいプロジェクトだと思いますね。
――プロジェクトを振り返ってみて、どのような点が今回の結果に結びついたと思いますか?
やはり、納得がいくまで三者で話し合い、何度も試作を重ね、妥協せずに細部までとことんこだわったことが今回の結果に結びついたのではないかと思っています。そして課題が生じたとしても、簡単にNOと言わずにまずはやってみる。
私がどんな提案をしても、柿沼人形さんが嫌な顔ひとつせずに耳を傾けてくださったのがとてもありがたかったですね。お面の裏面に布を貼るという提案をした際も「難しいかもしれないけど、まずはやってみましょう!」と前向きに取り組んでいただきました。その結果、お面の両面に木目込技術を用いることが可能となり、肌当たりの良い商品にすることができました。
一番大切なことは、リスペクトを持ったコミュニケーション
――最後に、本プロジェクトへの参加を検討しているデザイナーの方にメッセージをお願いします。
当たり前ではありますが、チームで何かに取り組む上で必要なのは綿密なコミュニケーションを取ることだと思います。もっと言えば、お互いをリスペクトした上でコミュニケーションを取ることが重要だと。
特に本プロジェクトのように伝統技術を用いる場合、職人さんの想いも強いため意見が食い違うこともあります。そんなときに私たちデザイナーは、長い歴史の中で大切に継承されてきた技術を前にしていること、そしてそれを長年扱ってきた方の意見に耳を傾けるということを忘れてはいけないと思います。
逆に言えば、すべて自分で最適解を出さなくてはと焦らずに、その技術のプロである職人さんを頼ることが解決の糸口になることも多いです。実際私も、何度も何度も柿沼人形さんに細かな質問をしていました。きっとしつこいぐらいだったと思います(笑)。けれど、その熱量は必ず伝わるはずです。「東京手仕事」商品開発プロジェクトへの参加を検討している方は、あまり難しく考えず、熱量を大切にして挑んでいただければ幸いです。
■「東京手仕事」商品開発プロジェクト ビジネスパートナー(デザイナー等)募集
《応募期間》
2025年6月2日(月)~6月20日(金)※当日必着(締切17:00まで)
《募集内容》
「東京手仕事」商品開発プロジェクト ビジネスパートナー(デザイナー等)
※詳細は公式サイトを参照
《賞》
〈報酬〉
・「商品開発計画書」を主催者に提出したとき:委託料33万円を支給
・「試作品・試作報告書」を主催者に提出したとき:委託料33万円を支給
・「完成品・商品開発完了報告書」を主催者が認定したとき:委託料33万円を支給
※金額は税込表記
《参加方法》
1. プレエントリー
公式サイトよりプレエントリーすることで事業者紹介動画を閲覧することが可能に
2. 本申込み
専用サイトより第3希望までマッチングを希望する事業者を選択してPRシートを提出
※参加費は無料
※詳細は、下記公式サイトを参照ください
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/dento/teshigoto/kaihatsu/index.html

①プレエントリー
公式サイトよりプレエントリーすることで事業者紹介動画を閲覧することが可能に
②本申込み
専用サイトより第3希望までマッチングを希望する事業者を選択してPRシートを提出
文:望月さやか(ランニングホームラン) 撮影:高比良美樹 取材・編集:萩原あとり(JDN)
初出:デザイン情報サイト[JDN]
https://www.japandesign.ne.jp/interview/tokyo-craft-kimekomikagura-1//