たどってきた印象のかけらを内包したコラージュ、「Idemitsu Art Award 2024」グランプリ 笹本明日香2 / 2 [PR]
手からこぼれ落ちる喪失感と、すでにそこにいるという両義性
――作品タイトルは「アクセス」。情報の渦に手を伸ばしているようにも見えますね。
そうですね。スペースデブリ(宇宙ゴミ)のようなものをイメージしています。自分が活用できなかったものや生活の垢、不純物や排泄物のようなものです。
年齢を重ねるごとに、あらゆる出来事が刹那的だと強く意識し、喪失感を抱くようにもなりました。時間の流れが早く、自分が風化してしまうような感覚も生まれ、忘れたくない、失いたくないものを掴もうとしても、この手から消えていくどうしようもなさみたいな……。
その一方で、自分が執着しているものは一体どこから来てどこへ行くのか。と考えた時に、自分の抱いてきた感覚や印象がもし実体化して蓄積したら計り知れない量になると想像し、失ったのではなく膨大にたまり続けた大きなデータベースに包まれているようにも感じられたのです。その大きな“水溶液”に自分が浸っているとも考えられるのではないかと。
――ネガティブなだけでなく、ポジティブでもあるという感じですか?
はい。いろいろな性質が同時に起きていて、掴もうとする執着や喪失感と、実は外側に消えたのではなく自分の内に保有している、自分の一部であるという両義性を表現したいと思いました。自分の抱いた感覚や印象は、近づいたり遠くなったりしているけれど、意識するたびに誰でも感じ取れるという思いを込めています。
――作品を見る人々が、個々のコラージュからストーリーを作り出したら面白そうですね。白い背景が、見る人に想像させる余白のようにも感じられました。
そうですね。この白は無の空間、絶望的で計り知れない広がりを表しています。宇宙空間やパソコン内の膨大なデータベースなど、実体があるようでないようなものになぞらえています。実物の作品を見てくださった方には、自由にイメージを重ねていただけたら嬉しく思います。
――小さなコラージュでこのような大きな作品はあまりないのではないでしょうか?
当初は、絵の具の色の重なりで表現するようなことをすべてコラージュで描画しようかと想定していました。けれど、実際に貼っていくと隙や余白が活きて、大きい画面に対して小さな細かいコラージュというアンバランスさも想定を超える面白さになりました。自分の中のコラージュ作品への固定観念を逸脱できたかなと思います。
展覧会では、一つひとつのかけらを実際に目で見ていただいて、普段無意識に切り取っているような、その人の頭の中に浮かぶイメージと混じり合ったら嬉しいなと思います。
――今後はどのように活動していきたいですか?
楽しみながらいろいろな素材を選んで作っていきたいです。卒業後は平面作品と並行して、立体やデジタルコラージュから派生した映像などのインスタレーションも手がけてきました。これからもさまざまな媒体で制作し、発信していきたいと思っています。
――今回の審査員の講評では、写真や版画、そのほかのメディウムを効果的に用いた作品など、従来の絵画にとどまらない平面作品を望む声もありました。そうした審査員の目を、過去にたどったものなどを集散したコラージュという手法で、絵画への批評性も兼ね備えた笹本さんの作品が捉えたのかもしれませんね。
ありがとうございます。これまでの受賞作品がペインタリーで、絵の具の色彩の重なりを展開させるものが選ばれることが多い印象があったので、自分のようなアプローチを面白く感じてくださったことが嬉しかったです。
――これからIdemitsu Art Awardに応募される方にメッセージをお願いします。
自分の作品の方が面白いという確信を持つことは、作品作りの要の一つだと思います。もし入選できなくても、一つの結果を自分の制作の材料にして、次につながる収穫になる場合もあります。そのためにも、自分にとって面白いと思うことに実直に徹底して作ることが大切だと実感できました。
アートの最前線を見つめるキュレーターや、作り手であるアーティストが審査員にいることもIdemitsu Art Awardの魅力です。新しい景色が見えるような作品をぶつけ合うことでアートシーンの活性化にもつながるのではないかとも思います。
取材・文:白坂由里 写真:加藤雄太 編集:岩渕真理子(JDN)
「Idemitsu Art Award展 2024」概要
- 展示内容
Idemitsu Art Award 2024 受賞・入選作品
Idemitsu Art Award アーティスト・セレクション 2024 作品 - 会期
2024年12月11日(水)~12月23日(月)10:00~18:00(入場は17:30まで)
※12月17日(火)休館
※12月13日(金)・20日(金)は20:00まで(入場は19:30まで)
※12月23日(月)は16:00まで(入場は15:30まで) - 会場
国立新美術館 1階展示室1B(東京都港区六本木7-22-2) - 入場料
一般400円
※学生、70歳以上の方、障がい者手帳をお持ちの方および付添者1名まで無料
※会場にて、Idemitsu Art Award公式ホームページトップページのスマホ画像または印刷物の提示で入場料が100円割引