都市のマンションを小さな美術館に。 学生限定の立体アートコンペ 「AAC2023」最終審査会レポート2 / 2 [PR]

AAC2023最終審査会レポート

最優秀賞は洪 詩楽「星群」に。空間との調和、生活への提案が決め手

同日夕方には賞の発表と授賞式が行われた。最優秀賞は洪さんの「星群」に決定し、賞金100万円が授与。優秀賞の杉森杏香さんと五十嵐俊治さんには賞金20万円が贈られた。

学生限定立体アートコンペAAC2023表彰式

前列左から服部会長、西澤審査員、杉森さん、洪さん、五十嵐さん、秋元審査員長、小山審査員。後列は入賞者

秋元審査員長は総評の中で「3人とも異なる技法で、見応えある作品ばかりでした。なかでも洪さんの作品は空間に非常にマッチし、美しく映えるだろうという審査員の意見が一致しました」と受賞の理由を語った。「作品のクオリティはもちろんですが、空間や環境をどう読み込んでいくか、作品を通して住人の生活にどんな提案していくかも大切」と今後の制作に向けたアドバイスも送った。

西澤さんは自らの建築の経験から「エントランスにどんなアート作品が置かれるか。そこには建築に対するコミュニケーション、応答の面白さがあると思います」と語る。さらに、審査を振り返りながら応募者への課題を投げかけた。

「杉森さんの彫刻作品にはいろいろな表情があり、日常の導線がほぼ固定化してしまうエントランスで作品の裏側も見る、角度を変えて見るといった、重心を変える機能と楽しみ方があるなと思いました。ただ、もう少し考えてほしかったのが『台』ですね。台座は作品と空間との間を仲介する役割なので、作品ばかりでなく台座についても今後の検討にして欲しいと思います」

学生限定立体アートコンペAAC2023 授賞式

授賞式で講評を行う西澤審査員

数回審査員を務めている小山さんは「今回もいろいろな方法が出てきて面白く感じました。五十嵐さんは美術大学ではなく東大の学生です。彫刻の概念も変わっていくでしょうし、今後も彫刻だけでなく、工芸・建築・デザインなど多様な分野からもぜひ参加していただければと思います」と期待を寄せた。

続いて最優秀賞を受賞した洪さんが感謝の言葉を述べた。「まさか選ばれるとは思っていなかったので非常に嬉しく思います。このたびの制作ではいろいろな素材の組み合わせを試すことができました。皆さんの助けもお借りしました。この貴重な経験を大切にして今後も制作を続けていきたいと思います」。

授賞式の後、洪さんに今後の抱負を尋ねると「今後は大学院に進む準備をし、ガラスによる表現をまだまだ探究していきたい」と晴れやかな表情を見せていた。ちなみに、大学に掲示されていたポスターでこのコンペを知った洪さんは、ガラス制作の先輩であり、AAC20212022優秀賞作家でもある袁方洲さんにも相談し、「ぜひ応募してみて」と勧められて参加したという。

学生限定立体アートコンペAAC2023  授賞式・懇親会風景

授賞式後の懇親会で、審査員と談笑する洪さん(中央)と袁さん(左)

コンペ初挑戦となった杉森さんは、今年10月の京都市立芸術大学の移転のために学内スタジオが使えず、岐阜県不破郡関ケ原町の石材店にある工房でスペースを借りて制作を行った。現地でAACの過去受賞者に会う機会もあったという。

「関ケ原での工房の日々は刺激にあふれ、見聞きしたことや実際に制作に取り入れた方法が今後に活かされていくと思います。同時にこれまで自分のいた環境に対しても離れて実感したありがたみがありました。制作全体はもちろん石彫作品の搬入や設置など、重量物を扱うからこそ、助言をくださる方や協力者が身の周りにいてくださることにも心を支えられていたと思います」。

立体作品は、規模が大きくなれば制作人員やスペース、設備が必要になってくる。逆境から得た縁や経験を今後の強みとしてほしい。

また、科学分野の研究者である五十嵐さんの挑戦はAACの新たな風となった。変数を基準として寸法や形状を変える「パラメトリックデザイン」を行ってきたという五十嵐さんは、FRP樹脂から鋳金へ変更し作品を仕上げたことで、「伝統技法のなかにアートとサイエンスを融合した別の文脈を取り入れることができるかもしれない」と新たな展開へのヒントがあったようだ。今後もより主体的に制作を行っていきたいと意欲を明らかにした。

学生限定立体アートコンペAAC2023 懇親会風景

杉森さんは学校の工房が使えないピンチを、制作補助金を使って関ケ原まで通うことで乗り越えた

学生限定立体アートコンペAAC2023 懇親会風景

最先端の科学研究に邁進する五十嵐さんにとって、AACへの挑戦は貴重な気づきと経験の機会になった

AACを毎年取材し、今回改めて考えさせられたのは、まだ完成していないエントランス空間に置く立体を制作する難しさだ。募集開始時点でマンションは建設中で、応募者に与えられるのはCGパースなどの書類資料のみ。洪さんは「空間のCGパースを見て色の選択が先に決まり、星でありながらも星に見えすぎないシンプルな形を探して、最終的にこの形になった」と空間と一体で作品を考えていた。秋元審査員長の言葉通り、AACは空間の読み取りも含めてプロの仕事に近づく貴重な経験を提供しているのだろう。

制作について振り返ると、制作補助金があるおかげで新しい素材や3Dプリンターなどのテクノロジーを使ったり、制作場所を確保できたりしていた。いずれも工程が多く場所と時間を要する作業を、2か月というタイトなスケジュールの中、全力でやり遂げた。

また、毎回AACを募集告知するポスターデザインもコンペを通じて制作されているが、「AAC ポスターコンペ2023」では、多摩美術大学 美術学部 グラフィックデザイン学科2年(応募当時)の松井寛太さんによる『試行錯誤』が最優秀賞を受賞した。

審査員は、アートディレクター・グラフィックデザイナーの上西祐理さん、キュレーター・東京藝術大学准教授の宮本武典さん、服部会長が務めた。金属をモチーフとした受賞ポスターは、上西さんとの打ち合わせを経てブラッシュアップされ、実際にAACの告知ポスターやリーフレットとして全国の学校や駅、美術館などに掲示された。

AAC2023ポスター

ポスターコンペ最優秀作品(左)、ブラッシュアップされ使用されたポスターデザイン(右)

AAC2023授賞式・懇親会

AACポスターコンペ審査員と受賞者。授賞式後の懇親会では審査員の上西祐理さんが、学生のポートフォリオを手に熱の入ったアドバイスをしていた

今回の授賞式には過去の受賞者も招かれ、世代を超えた対話が交わされていた。アーバネットコーポレーションではコンペ中の制作支援だけでなく、終了後も入賞者に作品制作を依頼する機会を設けている。23年の長きにわたり若手作家の発掘と支援が続くなか、参加学生の技術も向上している。AACの存在がより広く知られ、さまざまな地域や分野から挑戦する学生が現れるとさらに多様性のあるコンペになりそうだ。同時に、住空間にアートのある豊かさも浸透していくことを願う。

文:白坂由里 写真:アーバネットコーポレーション提供 編集:猪瀬香織(JDN)

公式ホームページ
https://aac.urbanet.jp/

AAC2024ポスターコンペ 作品募集中!

2024年に開催する学生限定立体アートコンペ・AAC2024の募集告知ポスターデザイン募集が開始しています。対象は全国の大学・専門学校・高校などで、美術・デザインなどを学んでいる学生で、最優秀賞に選ばれた方には賞金20万円を贈呈。最優秀作品はデザイナー・佐々木俊さんによる作品ブラッシュアップの上、AAC2024募集告知ポスター等として使用します。

●募集要項
https://compe.japandesign.ne.jp/aac-poster-2024/

ぜひご応募ください!

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