公共の住空間にアートを。学生のための立体アートコンペ「AAC2022」最終審査会レポート2 / 2 [PR]
最優秀賞は平尾祐里菜『千種万花』に。エールを受け、将来像をイメージする大きなステップ
同日、錦糸町の東武ホテルレバント東京で授賞式が行われた。最優秀賞は、白熱した議論の末、平尾祐里菜さんの『千種万花』に決定し、賞金100万円が授与された。
保坂審査員長は総評の中で「平尾さんは東京23区の花を調べてひとつのオブジェにまとめ上げ、さまざまな技法を生かしながら、現実にはありえない美しい造形を追求しています。東京の花と木に関心を寄せ、見る角度によって違いを楽しめるといった生活との緩やかなつながりを持たせ、いつでもそっとそこにあるという佇まいを含めて最優秀賞に選ばれました。居住者の方に愛される作品になれば私たちも嬉しく思います」と作品設置後の景色も想像させる受賞理由を語った。
2011年、2014年にも審査をしている岩渕さんは「以前よりメディアのバリエーションが豊かになった」と今回の特徴を挙げ、「工芸や彫刻は制作に時間がかかる芸術であり、3人とも一次審査を通ってから短い期間で自分のできることをやり切ったと感じられました。中居さんも袁さんも今回の新しい挑戦をさらに突き進めていただければと思います」と健闘を称えた。
大竹さんは「平尾さんはマンションが建つ場所を取材されて、制約のなかでできる限りのことを精一杯された姿勢が作品からもよく伝わりました。中居さんの作品には技術が凝縮され、さまざまな表情が見てとれたのですが、モチーフの選び方にもう一歩独自の視点が加わってくると作家性が深まるのではないかと思います。袁さんはシンプルな形状でいて迫力のある作品でしたが、安全面に不安が残りました」と選考理由を述べたあと、同じ彫刻家として「皆さん甲乙つけがたく、今後の作家活動も頑張っていただきたいです」とエールを送った。
最優秀賞に輝いた平尾さんは、2016年に大学の先輩である古川千夏さんが最優秀賞を受賞したことが応募のきっかけだったという。「憧れのAACで最優秀賞をいただけて光栄です。常設という先のことも考えながら制作するのは初めてでしたが、とてもよい経験になりました。マンションで暮らす方々が、この作品から元気を得ていただければ嬉しく思います」と受賞の喜びを述べた。
また制作を振り返り、「制作費が支給されたことで、今まで高価で手が出なかった念願の金(きん)に挑戦でき、さらに鉄を扱う経験が積めたことで作品の幅が広がりました。今後も、時間経過で現れる美を愛する日本文化の感性を大切に制作していきたい」とも語っていた。
2度目の挑戦となった袁さんは「AACのために制作することで自分の作品も進化して、とてもいい経験になりました。これからもアーティストとして活動していきたいと思います」と抱負を述べた。昨年はサイズが小さかったので今年はインパクトのある大きさにし、自作でも最大となった一方、安全面で課題が残った。シリーズ化して今後も研究を続けたいという。
中居さんも「構造や設置も考えなければいけないことが勉強になり、いろいろな新しい挑戦をさせていただきました」と感謝を述べた。「ただの置物ではなく、色の美しさ、自分の作品らしさを詰め込んだフクロウにしたい」と思い、「蒔絵を前面に出すのも初めてのことで、技術的に難しく失敗もたくさんしたのですが、制作費をいただけたので挑戦できた」と語る。「失敗した分だけ次につながり、できることが増えました」とポジティブに捉えていた。
なお、AACを募集告知するポスターのデザインも、学生向けコンペ「AAC 2022 ポスターコンペ」を通じて制作されている。審査員を「6次元」主宰・映像ディレクターのナカムラクニオさん、アートディレクター・グラフィックデザイナーの上西祐里さん、服部会長が務め、多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科1年(※応募当時)、鮎川裕之伸さんの「作る」が最優秀賞を受賞した。上西さんから文字組や印刷様式のアドバイスを得て完成した作品は、実物のポスターやリーフレットになり、全国の学校や駅、美術館などに掲示・配布された。
登竜門では毎年AACを取材しているが、一級建築士である服部会長自ら審査に加わり検討する親身な姿が印象に残る。コンペ中の制作支援だけでなく、コンペが終わってからも入賞者に制作を依頼するなど、若手アーティストの発掘・支援・育成を継続して行っている。
学外で作品を展示して評価を得る機会となり、将来像をイメージする上で大きなステップにもなるAACにぜひ注目してほしい。
文:白坂由里 写真:アーバネットコーポレーション提供 編集:猪瀬香織(JDN)
公式ホームページ
https://aac.urbanet.jp/