どんなストーリーを“しるし”に込めるか?「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」第14回 受賞者対談2 / 2 [PR]
テーマを深く掘り下げるために
――第14回のSNDCで受賞したアイデアを応募するまでのプロセスを教えて下さい。
姫野:アイデア自体は、仕事から帰宅した後の時間で考えたり、昼休みに思いついたものを書き留めておいたりしました。模型制作まで含めて、実際に手を動かしたのは3~4日ですかね。
石川:僕もアイデアを考える時間は設けていなくて、身体を動かしているときの方が素直なアイデアが生まれます。それをスマホにメモしておいて、一旦寝かせて、良いと思ったアイデアはすぐにパネルにしてしまいます。そのプロセスも1時間くらいで終わるので、毎回SNDCには5つくらい応募しています。
コンペの場合は、ワンビジュアルで示せるのが理想なので、写真のインパクトで気を引くことを心がけています。まずは目を止めてもらわないと、テキストまで読んでもらえないので。
姫野:一番時間がかかるのは、テーマの内容を理解することかもしれません。
石川:わかります。前回も自分は何を「しるし」として認識しているのだろう?と分析するところから始めました。そうしたら、これもあれもしるしだなと。ハンコだけでなく、木の木目だってそうです。車だ、電車だ、とものを区別する特徴そのものがしるしなのかもしれない。
姫野:違いこそが「しるし」なのではないか、とか。なにかを示したり、跡が残ったりすることもしるしです。本当にいろいろなものにつながるけれど、では自分は何を取り上げるのか、なにをそこに込めるのか。そこがキーなのだと思います。
石川: 抽象的なテーマほど、具体的に一回咀嚼してから考えていくことにしています。テーマのテキストだけから考えると分からなくなってしまうので、それを世の中に具体的に当てはめるとどうなるだろう?って発想していきます。
姫野:僕は、しるしとして残すからには意味があるよね、という部分が肝心だなと。ハンコであれば、押した瞬間にどんな気持ちになるのか。押した後にどんな感情が残るのか。使う人の気持ちが乗ったり変わったりする瞬間を大事にしていて、そこへのアプローチを意識しています。
前回の作品については、自分は顔が濃くて、仕事でも顔で気持ちが伝わるとよく言われていたので、日常的に顔の持つ効果を体感していました。また、子供が大病をした時に医療費補助の公的制度を利用させていただいたんですが、「すごくありたがい」という気持ちで申請書類に判子を押した、その瞬間の感覚を残したかったんです。
でもこの大義名分と同時に、自分の顔をハンコにしたら面白いよね、という遊び感覚の気持ちもあって。日常でも特別なときにも使えるなと、自分の体験から広がりを感じ、シンプルだけれど「顔をハンコにする」というアイデアをぶつけてみました。
石川:姫野さんの作品は、すごく人間味を感じました。多くの文房具は使用頻度も高いから愛着がわきやすいけれど、印鑑は多くの人にとってはたまにしか使わないアイテム。それを顔の表情にすることで、愛着がわきやすいと思いました。こういう良いデザインって、やっぱりストーリーがありますよね。
姫野:第15回のテーマは「こころを感じるしるし」だけど、前回のテーマにあった「表す」と今回の「感じる」は何が違うんだろうね。
石川:僕も考えていました。表すって一方通行だけれど、感じるはたぶん相手がいるんですよね。自分はこういうつもりだったけれど、相手はこう感じてしまった、みたいなギャップも面白いかもしれない。
デザイナーであれば、コンペに出さない理由はない
――お二人にとって、コンペに出す意義はどこにありますか?
石川:僕にとっては、自分の自信を作るための一つのアプローチです。自分のアイデアが受け入れられたことが自信になって、発信のモチベーションにもなるし、なにより実績にもなります。会社にいると「これは自分がやりました」と言いにくい仕事が多いですが、コンペならば堂々と発表できます。
コンペって損することがないんですよ。大してお金もかからないし、ポートフォリオも増えるし、審査員からコメントももらえるかもしれないし、商品化の可能性もある。デザイナーであれば、出さない理由はないと思います。
姫野:一瞬で何かを伝えるような、コミュニケーションのトレーニングにもなると感じています。アイデア出しで頭も柔軟になるし、一枚の紙にまとめるための整理もうまくなる。仕事だと自分だけでは作りきれないものもありますが、コンペは自分でやりきらないといけないので、リソースマネジメントも必要です。
石川:会社の仕事は上流から下流まで分かれていますが、コンペは始めから最後まで自分に責任があります。自分で考えたものを形まで作れた、という自信もできます。また、去年の模型審査の際、僕は鉛筆会社の方に制作を依頼したのですが、その会社の方と仲良くなれました。いろいろなスキルが上がります。
姫野:それに、なによりやっぱりコンペは楽しいですよね。日々もやもやしていたものが明確になる瞬間や、通るか分からないけれどいろんなアイデアを出すことも。チームで参加したときは、メンバー同士でいろいろな話をして、良くする方法を考えるのも楽しかったです。
石川:なんなら、今回一緒に出します?
姫野:お、石川君とは出したことないもんね。いいかもしれない。チームでも一個出してみようよ。
石川:個人でも出すと思うので、これでどちらかが授賞式にいなかったら気まずいですが、何かの縁ですね(笑)。これも一つのストーリーかもしれません。
取材・文:角尾舞、編集:猪瀬香織(JDN)
●締切
2022年5月30日(月)12:00
●賞
グランプリ(1点) 賞金300万円
準グランプリ(2点) 賞金50万円
審査員賞(4点) 賞金20万円
特別審査員賞(1点) 賞金20万円
●募集内容
テーマ『こころを感じるしるし』に沿った未発表のオリジナル作品
※複数応募可
●審査員
中村勇吾、原研哉、深澤直人、三澤遥、舟橋正剛(特別審査員)
募集要項(登竜門)
https://compe.japandesign.ne.jp/15th-shachihata-new-product/
公式ホームページ
https://sndc.design/