受賞者インタビュー
2022/04/01 10:00

どんなストーリーを“しるし”に込めるか?「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」第14回 受賞者対談1 / 2 [PR]

どんなストーリーを“しるし”に込めるか?「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」第14回 受賞者対談左:第14回グランプリ「My Face Stamp」姫野剛 右:同回 審査員賞 原賞「筆跡えんぴつ」石川和也
今年で第15回となる「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)」の作品募集が、2022年4月1日から始まった。

昨年の第14回は『「  」を表すしるし』をテーマに作品を募集し、1,206作品が集まった。グランプリに選ばれたのは、デザイナーの姫野剛さんによる、自分自身の顔をデジタル印として用いる「My Face Stamp」。そしてもう一人、デザイナーの石川和也さんは「筆跡えんぴつ」で審査員賞を獲得し、なんと今回で3年連続の受賞を果たした。実は二人は、母校の千葉工業大学工学部で先輩後輩関係で、第14回の授賞式会場で偶然再会したという。

今回「登竜門」ではお二人に、コンペに出す際のアイデアの出し方から、提案へ仕上げるプロセス、さらにはコンペに出す意義などを対談形式で伺った。

※取材は2022年3月にリモートにて行いました

学生時代から変わらない、コンペの先輩後輩関係

――お二人は大学の先輩後輩なのですね。記憶に残っているエピソードはありますか?

姫野剛さん(以下、姫野):石川君は、かわいい後輩……かわいいというか、もはやうるさい後輩でしたね(笑)。「姫野さん!これ面白くないですか!?」って言い続けてくる。その感じは今も変わらないかもしれません。

14th SHACHIHATA New Product Design Competition(第14回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザインコンペティション)グランプリ 姫野剛さん

姫野 剛(ひめの つよし) 千葉工業大学大学院工学研究科デザイン科学専攻を修了、電機メーカーでプロダクトデザイナー(ID/GUI)として勤務。主な受賞歴に香十香皿デザインコンテスト2019最優秀賞、ジェームズダイソンアワード2011国内4位、LG Mobile Design Competition 2008ブロンズ賞など。

石川和也さん(以下、石川):僕、承認欲求のかたまりなんですよね。でも特に、学生時代から姫野さんに認めてもらいたい気持ちは強かったんです。大学に入ってすぐに応募したコンペでファイナリストに選ばれた時に、プロジェクトの運営側にいた姫野さんと出会い、すごい人だなと思って。同じ研究室に入ることも決めたんです。

また、姫野さんがよくコンペに応募していたので、僕も同じように取り組みました。アイデアを考えるたびに姫野さんに意見を聞いていたのですが、全然納得してくれないから、この人を頷かせよう!という気持ちでやっていましたね。

姫野:石川君はアイデアの数がすごすぎてね、大変だったよ(笑)。当時、大学の授業に余裕があるときは、力試しのような感じでコンペに出していました。就職してからしばらくは応募していなかったのですが、社内の部署異動がきっかけで、また出すようになりました。UIの担当になり、いわゆるプロダクトデザインの仕事ではなくなったので、モノのデザインからも離れないようにしようと思って。

石川:僕は2016年に社会人になり、数年間は会社の仕事に集中していました。でも会社が副業を推奨するようになり、業務以外の取り組みをする人が増えたので、僕もコンペの応募などを始めました。

14th SHACHIHATA New Product Design Competition(第14回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザインコンペティション) 審査員賞 原賞 石川和也さん

石川和也(いしかわ かずや) 千葉工業大学工学部デザイン科学科を卒業、大手IT企業でデザイナーとして勤務。主な受賞歴にコクヨデザインアワード2020ファイナリスト、サンスター文具文房具アイデアコンテスト(第25回グランプリ、第24回審査員特別賞)、SNDC(第12回・第13回準グランプリ)など。

姫野:学生のときよりもアイデアの納得感が増したし、研ぎ澄まされたよね。

石川:もうその言葉だけでお腹いっぱいです!昔は独りよがりで、共感されないアイデアが多かったと思います。これいいじゃん!という勢いだけで作っていたので。でも最近は客観的に、そのアイデアがどう見られるかを気にするようになりました。思いついた後に一日寝かして、厳しく見る。自分で自分を評価するようにしてから、需要のあるデザインが生まれやすくなったと思います。

姫野:いやー、すごく大人になりましたよね。実は僕も、SNDCの第12回と第13回も模型審査までは行ったのですが受賞を逃していたので、石川君が連続で賞を獲っているのを見て悔しい気持ちでした。だから、前回は絶対にグランプリ獲るぞという気持ちで臨んでいました。

重要なのは付随するストーリー。アイデアがデザイン提案に育つまで

――コンペに応募する際はどのようにアイデアを出しますか?

石川:昔からコンペに応募したり、アイデアを出したりする習慣がついているので「このテーマについて考えよう」と気を張ってはいません。日々メモしているアイデアをどこかのコンペに出せないかなと探すことも多いです。

姫野:僕の場合はネタ帳にコンペのテーマを書いておいて、それに関することを漠然と書き連ねています。前回の作品を出したときは、過去の受賞作品を見比べて、王道だけれど展開性のあるものを意識してデザインしました。

石川:僕のなかでも王道を攻めるパターンと、あえて離れて考えるパターンがあります。離れれば離れるほど驚きは与えられるけれど、共感は生まない。

以前、審査員の原研哉さんが「コンペは審査員と応募者の化学反応によって賞が決まる」とおっしゃっていて、そう考えるとコンペってコミュニケーションデザインなのだと思います。コンペ自体の背景や審査員の構成まで考えると、意図が見えてくることもある。それにどう合わせるかも応募者のスキルだと思うんです。アイデアの見せ方や伝え方、どういう方向の提案が向いているかという分析や戦略も考えないといけないと思っています。

14th SHACHIHATA New Product Design Competition(第14回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザインコンペティション) 審査員賞 原賞 石川和也さん

授賞式後に行われた審査員との質疑応答。石川さんは積極的に質問していた。

姫野:僕は審査員のことはそこまで深く考えていません。ただSNDCは審査員の方がすごいメンバーなので、自分が考えてもいなかった内容まで発展させてくれるのではないか?という期待感はありました。デザインの種から発展して考えてくれそうだなと。

石川:僕はもう、好きな子に振り向いてもらうような気持ちでやっています。この人はどんなアイデアが好みで、どういうデザインをぶつけたら踏み込めるのだろう?と。サプライズと共感を織り交ぜて、審査員に認められたいというようなことばかり考えていますね。

――反対に、どんなアイデアはボツ案にしますか?

姫野:自分は、そのモノがあることで世の中がよくなるかどうか、でフィルターをかけてから応募しています。なにも起きないものは、作る価値がないと思うので。

石川:テーマを深堀りしないままアイデアを考えると、他の人と被りやすいですよね。SNDCの場合、朱肉やハンコはアイテムとしてみんな取り上げるから、ちょっと色を変えたり、香りをつけたりするくらいでは、似たようなのが応募されると想像できてしまう。それをそのまま出してしまうのは、客観的に考えるフェーズが抜けています。

姫野:でも今回グランプリをいただいた「My Face Stamp」も、顔のハンコのアイデア自体はたぶん他の人も思いつくんですよね。むしろ、誰もが一回は通る気もする。それでも自分が応募したのは、絶対にそこに価値があると見出したからです。そしてグランプリをいただけたのは、たぶんアイデアに付随するストーリーをきちんと見てもらえたからだと思います。だから自分で価値があると信じられるデザインだったら、ベタでも王道でも応募していいと僕は思います。

14th SHACHIHATA New Product Design Competition(第14回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザインコンペティション)グランプリ「My Face Stamp」

グランプリ作品の応募時シート(一部)。単なる顔相のスタンプ化ではなく、真剣な表情で起案時の強い決意を表したり、申請を笑顔で承認したことを表すなど、押印に付随するストーリーの表現を提案している。

石川:どういうストーリーがあるのかによって、提案の価値も変わりますよね。アウトプットがシンプルでも、現実的な使われ方が想像できたのかもしれません。ただ色や香りをつけただけでは「意味なくない?」と反論されるけれど、明確な意味があり、最適な手法だと納得させられれば変わります。なるほど、と思ってもらう工夫によって価値を提供できるかどうかですかね。

姫野:そうだね。あとSNDCが面白いのは、プロダクトのコンペでありながら、社会へのメッセージやユーザーの行動変容が含まれているところ。ちょっとアート作品に近いプロダクトや提案も集まっているから、入賞作品を見ているだけで楽しいです。

石川:自分じゃ絶対に思いつかないものが毎回ありますし、焦ります。アプローチへの発見もありますし、逆に自分の強みも見えてきますね。

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