受賞者インタビュー
2021/02/01 10:00

「見えること」と「見えないこと」をテーマに、新しい絵画を描きたい。シェル美術賞2020グランプリ今西真也2 / 2 [PR]

「見えること」と「見えないこと」をテーマに、新しい絵画を描きたい。シェル美術賞2020グランプリ今西真也

老舗奈良漬店4代目とアーティスト活動の両立

——話は遡りますが、絵はいつ頃から描き始めたのでしょうか?

絵を描くことは幼稚園の頃からずっと好きで、中学の頃には美術大学に行こうと思っていました。子どもの頃から見たことのない世界を見たいという気持ちがあり、ルネ・マグリットの「光の帝国」を見た時に、見たことのない世界って描けば見られるんだなと思ったんです。

実は実家が奈良漬屋でして、大人になったらバックパッカーをしたいとも思っていたのですが、家を継がなければとも思っていたので、家から2週間外に出るのは無理だなあと。でも家業のほかにもう一つ何かしたかったから、画家になって土日に絵を描けば両立できるだろうと、子どもながらに考えたんです。それで親に許しをもらって京都造形大に入りました。

今西真也さん

学部生の頃はアカデミックな絵画を学んで描いていたんですけど、大学院で宮島達男先生、椿昇先生、大庭大介先生、後藤繁雄先生に出会ったんです。学部生の頃にゲルハルト・リヒターのことなども本で見て知ってはいたんですけど、あまり自分との地続き感が感じられなかったんですが、現代アートの見方がわかって、一気につながっていきました。それからロンドンのフリーズアートフェア、香港のバーゼルアートフェアなどに実際に見に行って、「ああこういうことか」と腑に落ちたんですね。

——「こういうことか」というのは、現代アートがわかったということなのか、あるいは絵を描く行為の本格度が増したということなのか、どちらでしょう?

両方ですね。大学院で近現代の絵画史をもう一度勉強し直して、アーティストたちがどのようにコンセプトを立てて制作しているのかを学び直したんです。

その上で、フリーズアートフェアを見て、ゲルハルト・リヒターやジェフ・クーンズ、あるいはギャラリー・ペロタンの作家たちの作品の大きさやクオリティの高さ、大きな空間でお客さんが作品を見て感嘆の声を上げるような華やかさなどに感動しました。自分ももっと考えてつくらないといけないなと身が引き締まったんですね。そこから、大学院の2年間でかなり作風が変わりました。

グランプリ受賞作品「Story - Where are we going ?」

——画家としての仕事と奈良漬屋での仕事は、生活の中でどのように両立されているのでしょうか?

大学院修了後、ありがたいことに展覧会などにお声がけをいただいて制作の方が忙しくなりまして、朝7時に起きて午前中10時くらいまでにパートの方たちが作業できるようにちゃんと準備をして、その後は夜7時くらいまでアトリエで制作して、夜はまた店の仕事をするというサイクルでやっています。

——ちなみに奈良漬店で今西さんはどんなお仕事をされているんですか?

江戸時代末期に創業した店で、現在も化学的な材料は使わずに江戸時代の製法でつくり続けているのですが、短いもので4年、長いもので19、20年かけてつくっているので、よくある奈良漬けとは色も形も違います。漬けるための酒粕を混ぜる作業とか、1トン単位でこんな色にしようとか配合を考えたりもしています。絵の具の量が多くなっているのはそのせいかも(笑)。

新しいものを常につくり続けなければならない絵画と、100年同じものをつくり続けなければならない奈良漬は、どこかで別物だと思っていたんですけど、一人の人間を通してどこかでつながるんだろうなと今は思います。100年が長いとは感じないし、時間の感覚が周りと違ってくることはありますね。

——これからどのように制作活動を続けていきたいと考えていますか?

これまで展示を見ていただいた人には「いいよね」と言っていただいていましたが、多くの人に知られていたわけではなかったので、実際にみなさんに見ていただく機会を増やしたいですね。「見えること」と「見えないこと」をテーマに、今回の作品の進化形と、また新しい手法を試していきたい。ストイックに思われがちなんですけど、アトリエには、発表せずに遊びでつくってみた作品もいろいろあります。まずは手を動かしてやってみる。やはり新しいものをつくりたいんですよね。

今西真也さん

文:白坂由里 写真:加藤麻希 編集:堀合俊博(JDN)

今西真也さん展示情報
「羊羹とクリーム YOUKAN and CREAM」(「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2021」 のサテライトイベント内)
日程:3月4日(木)〜7日(日) 11:00〜18:00
会場:Bijuu ギャラリースペース(京都市下京区船頭町194 村上ビルB1F)
入場料:無料
詳細:https://artists-fair.kyoto/events/st07/
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