受賞者インタビュー
2020/04/01 10:00

テーマの余白をどの角度から捉えるか。「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」第12回グランプリ 歌代悟1 / 2 [PR]

テーマの余白をどの角度から捉えるか。「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」第12回グランプリ 歌代悟
2020年4月1日から第13回目となる作品応募が開始した、今までにないプロダクトデザインを募集する「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)」。第11回からは「しるし」に関するテーマを掲げ、プロダクトのみならずサービスやシステムまで幅広い分野で作品を募ってきた。受賞作品のいくつかは商品化の検討が進んでおり、第12回のグランプリ作品「わたしのいろ」も発売が予定されている。

「登竜門」では、第12回グランプリ受賞者で空間デザイナーの歌代悟さんに、テーマの掘り下げ方や作品の作り方、グランプリ作品の商品化の過程などを伺った。

テーマを掘り下げるために、解釈を広げていく

― 歌代さんは、大学ではプロダクトデザイン専攻だったとお聞きしました。その頃から無印良品が主催する「MUJI AWARD」などのコンペに数多く応募されていたそうですね。

はい。「KOKUYO DESIGN AWARD」や「コイズミ国際学生照明デザインコンペ」などにも応募していました。プロダクト専攻だと模型なども作りやすかったので、自主制作の一環として挑戦していましたね。

― 多くのコンペにはテーマが設定されていますが、そのテーマにどのように向き合ってきましたか?また、実際の提案にはどう落とし込んできたのか、教えてください。

コンペのテーマって、デザイナーが解釈していく余白のあるものが多いと思うんです。僕はこの解釈におもしろさを感じているので、応募する時はまず、テーマに対してさまざまな角度から解釈していきます。

「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」第12回グランプリ 歌代悟さんスナップ

歌代悟(うたしろ さとる) アートディレクター、空間デザイナー。1985年新潟県生まれ、東北芸術工科大学生産デザイン学科(現プロダクトデザイン学科)を卒業し、現在は株式会社博展。主な受賞にグッドデザイン賞2018、iF DESIGN AWARD 2018,2019、EXHIBIT DESIGN AWARDS 2018,19金賞、MUJI AWARD 01銅賞など。

「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」第12回グランプリ作品「わたしのいろ」模型画像

第12回グランプリ受賞作品「わたしのいろ」。水彩画のように彩りが滲んだ朱肉。押す人やその時々の気分、時間などにより異なる色でしるすことができるため、従来の朱肉以上のアイデンティファイ機能と、個性や感情表現という感性的機能をあわせ持つ。

SNDCの第12回のテーマ「これからのしるし」では、最終的に朱肉という王道のアウトプットになりましたが、もっと“しるし”の捉え方は幅広いと思います。例えばシヤチハタが以前発売した迷惑行為防止スタンプは、既存のハンコやスタンプとは違う価値を持った製品です。

コンペでもそれを導き出すために、“しるし”という言葉の解釈を広げたり、抽象的に解釈したりと、ハンコやスタンプという王道を見直したわけです。そこから生まれたアイデアを元に、テーマとコンセプトが一本のストーリーで繋がるよう、筋道を立てて提案の細部を詰めていきます。

― SNDCへの応募で“しるし”の価値を掘り下げた流れについて、さらに詳しく伺えますか?

“しるし”が今後どんな存在になるべきかを考えるため、まずは、ハンコの歴史やしるすことの文化について調べました。昔は中国などでも使われていたハンコが、今では日本独自の文化となりつつあることを知ったので、その上で今後の日本の人口減少がハンコとその文化に与える課題の洗い出しをしていきました。最終的には「偽造やなりすましなど、セキュリティ面が弱い」、「人口減少による売上減、ひいてはハンコ文化の衰退」という2点に行き着きました。

「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」第12回グランプリ 歌代悟

セキュリティ面が弱いという点は根本的に取り組もうと思うと、ITの仕組みなどプロダクトを超えた課題が多いので、アナログな機能に絞って解決策を考えることにしました。その結果浮かんだキーワードが、「二度と同じものが押せない」でした。これなら、その人のアイデンティティそのものを表す機能になるだろうと思ったんです。

また、人口減少による売上減を解決する方は、機能以外の部分に策があるのではと。朱肉は一家に一個あればいいですし、シヤチハタの朱肉は品質が良く長持ちするので、購入する機会も少ないですよね。だけど「私専用がほしい」と思えたらこの状況も変えられる。そこから、機能的な「二度と同じものが押せない」と、感情的な「私専用がほしい」が繋がる、美しいプロダクトにしようと思いついたんです。

これは、ダイバーシティが謳われるようになった今の時代にもリンクしています。押印は重要な場面で行われますが、自分の証をハンコで示す時に、自分らしい色で自分らしい気持ちを込める、その行為こそが文化を伝えていくのではと、期待を込めました。

― そこまでテーマを掘り下げるには社会情勢をはじめ、さまざまな知識や情報収集が必要になりそうですね。お仕事の経験なども含め、普段からアイデアを作る時に意識されていることはありますか?

僕の仕事は空間デザインですが、展示会のブースなどプロモーション色が強いんです。プロモーションとしての空間デザインには、トレンドや社会情勢の知識も重要なんですよね。今、クリエイターとしての視点に加えてビジネス領域の知識を取り入れ、お客様のマーケティングを上流からお手伝いしようとしていて、社会とプロモーション表現の関連にも興味があるので、今回のコンペでもそのあたりは強く意識しました。

「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」第12回グランプリ 歌代悟さん

また、所属する会社では、プロモーションにおける空間デザインを「体験デザイン」と呼んでいます。体験デザインには必ず中心に人がいて、人が心を動かされるデザインを形にしていくのですが、どうしても論理的に構築できない要素ってあるんですよね。

人間は、美しいものは美しいと感じるし、理由がなくてもほしくなったり自慢したくなったりする。そんな感覚的、情緒的な要素がデザインには重要だと感じていたこともあり、機能だけでなく感情や感性にも訴える要素を加えたいというのは念頭にありました。

直感的に伝わるよう、提案を削ぎ落とす

― 応募用のプレゼンシートを制作する段階では、どんなことを意識されましたか?

「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」第12回グランプリ受賞作品/応募時のプレゼンシートと模型

左が応募時のプレゼンシート、右が最終審査時の作品模型。いずれも水彩調の美しい色が心をつかむ。

機能に絞った商品ではないので、ほしいと思わせるようなテキストと、バリエーションが無限にあると感じさせるようなビジュアルにまとめました。例えば、どんな作品でどんな価値があるかがすぐ伝わるようにコンセプトを客観的かつ詩的に表現したり、断ち切り写真を入れて外側に広がる印象にしたり。

特にテキストは、過去に応募したコンペで入れていた機能説明を削り、直に感性に訴えかける形にしています。僕も仕事で採用面接用のポートフォリオを拝見するようになって、審査でじっくり文章を読む時間はないのだなと、分かるようになりました。

― 模型の制作段階では、どのような工夫をされたのでしょうか。

配色のバリエーションをたくさん考え、それぞれにテーマを設定していきました。見た時に何かの感覚を想起させるテーマが少しでもある方が想像しやすいし、「きれい」「かわいい」「○○みたい」というものから、具体的に「私らしい」へと気持ちが繋げられそうだと思ったので、そういう部分を意識しています。

最初は、赤と黒で「にしきごい」のように、配色にテーマを設定していたんです。その情報を模型に添えるかどうかは、最後まで迷いましたね。最終的には色の名前も含めて使う人が決めればいいと考えて、出しませんでした。

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