“エモーショナル”を“ロジカル”が支える。シェル美術賞2019グランプリ黒坂祐2 / 2 [PR]
“エモーショナル”を“ロジカル”が支える制作スタイル
── 制作は、どのようなプロセスでされているのでしょうか。
まず最初に、最近あった事件や身近な問題をできるだけ抽象化して、思いつくまま紙にドローイングをします。そのあとPCに取り込み、デジタル上で形を描いて色を塗ってある程度イメージをつくります。僕の絵は細密描写をするわけではないので、デジタルとの相性がいいんです。
そして最終的に、板など実物の画面に手で描くときは、描いた線を一切修正しないと決めています。色と質感の組み合わせだけでどうにか成功させるのが楽しいところであり、僕の絵のつくり方なので、うまくいかないから形をちょっと歪めたりするのはアウトなんです。そういうふうにしないとシビアな判断ができなくなります。
グラフィックデザインとイラストレーションとファインアートの中間のようなことをやっている実感があって、そこをうまくはめるのが楽しいですね。「今、“絵”になったな」と思えたら、そこではじめて作品になります。
── ロジカルとエモーショナルを切り替えながら制作されているような印象です。
ドローイングは作品づくりのモチベーションの部分なので、かなりエモーショナルです。次のデジタル上でイメージをつくるときは、完全にロジカル。どういう景色をどういう素材で表現しようかなと、プランを練るような感覚かもしれません。
板面に描く段階では、すでにプランもできあがっていて、なおかつ線をずらさないといった制約もあるのに、どうしてもロジックが通用しなくなります。あらかじめ決めた色を塗ればいいというのではなく、たとえば「今、この黒い色で夜を描いている」ということを筆先まで伝えないといけない。気持ちを込めて真剣に描かないと自分でもいい絵に見えなくなってしまうし、色のニュアンスも全然違ってしまいます。結局、最後の工程ではエモーショナルな部分が絵の良し悪しを左右します。
制作の最初と最後に強く表れるエモーショナルを支えるためにロジックを積み上げる、そんなイメージでしょうか。
公募展の中身を変えていくのは作家の役目
── 今後、どのように活動していきたいですか?
絵と並行して、場所の運営も続けていきたいですね。場づくりって、実は絵を描くのと感覚が似ているんです。たとえばここ四谷未確認スタジオのリノベーションをするなかで、古いロッカーの扉を一部取り払ったんですが、歴史があるものに手を加えることになるのでかなり迷いました。それって、絵の色面を塗るか塗らないかを判断する感覚と近くて。僕にとって絵画というものは大きな威厳を感じる怖い対象なので、1本の線でさえ、すごくビビりながら描くんです。だから、こういう誰かの思い出が息づいているような場所に恐る恐る手を入れることと似ています。
場づくりは絵と同じくらいおもしろく、また、場づくりをすることで絵のアイデアも深まるので、どちらも続けていきたいです。
── 次回「シェル美術賞」への応募を検討されている方に、メッセージをお願いします。
公募展って知らずしらずのうちに固定されたイメージがありましたが、今回応募して、やってみないと分からないことがたくさんあると感じたんです。だから、誰かがこう言っていたからとか周りにこういう雰囲気があるからとかいう決めつけは、やめたほうがいいんじゃないかとは思います。むしろ中身を変えるのは作家です。
これまでに応募していた人たちが出すだけじゃ流れが止まるし、業界全体がいい方向に進まなくなる。公募展という“ハード”(枠組み)はきっとそんなに変わらないので、作家が応募して“ソフト”(中身)を変えていかないといけないと思うんです。だから、迷っているならまずは勇気を出して応募してみることをおすすめします。
シェル美術賞(公式ホームページ)
https://www.idss.co.jp/enjoy/culture_art/art/
四谷未確認スタジオ
https://www.yotsuyamikakunin.com/
取材・文:平林理奈 撮影:寺島由里佳 編集:猪瀬香織(JDN)
『いくつかのリズム、不活性な場所』
●会期
2020年1月18日(土)、19日(日)、24日(金)、25日(土)、26日(日)、31日(金)、2月1日(土)、2日(日)
14:00~20:00
●入場料
500円
●会場
四谷未確認スタジオ(東京都新宿区四谷4-13-1)