この時代、コンペの意義。デザイナー鈴木啓太に攻略法を聞く1 / 2
鈴木さんは美大生時代から数多くのコンペに挑んで実績を積み重ね、今ではグッドデザイン賞の最年少審査員を務めています。氏がコンペに挑んだ理由、攻略方法、そしてこれからのデザインへの視座まで、じっくり伺いました。
コンペに揉まれて自分を知り、“読み解き方”を磨いた
― 鈴木さんは学生時代からメーカーのインハウスデザイナー時代、国内外数々のデザインコンペで受賞歴がありますね。
自分のキャリアがコンペから始まっているのは確かです。大学時代は学校課題とは別に、常に3件のコンペに取り組もうと決めて、成果も上げました。ただ、僕が学生の頃と今とではだいぶ状況が変わってきたように感じています。
― ご自身の学生時代と今の学生の違いを、どう見ていますか。
僕たちの学生時代は、今と比べたら情報が圧倒的に少なかったです。自分のデザインがメディアに載ることの価値が高かったので、自分の名前を売る意味でコンペを活用していたんですね。でも、今の学生たちなどを見ていると、どんなものにも「いいね!」と言ってもらえるコミュニティーがある。面白いものを作って発信さえすれば、フォローしてくれる集団が生まれるんです。実際、SNSだけで作品が“バズる”といった現象もたびたび起きています。作者の名前が世に出ること以上の価値がないと、コンペの未来はないと感じます。
― では、鈴木さんがコンペに挑戦していた頃は、名前が世に出ること以外にどんな価値を見出していましたか?
僕が大学2年生のとき、多摩美の授業を通じて「あぁ、デザインの世界ってこんなに広いんだ」と学びました。これは学校課題だけをやって内輪で講評を受けているだけではいけない、と。
コンペ審査員のそうそうたるプロデザイナーたちに作品を見てもらいたい、つまり「社会が自分のデザインを見て、どう評価してくれるのか」というフィードバックを得たいがために、国内外を問わず応募しまくったんです。
― NECのデザイン部に入社後も応募を続けたそうですが、忙しい時間の合間を縫って取り組んだ理由は?
30歳までに独立しようと決めていたので、夜9時から深夜2時までをデザイン研究とコンペ応募の時間に充てていました。NECでは、1つのデザインをちゃんと世の中に出していく全プロセスを俯瞰して見ることができ、本当に学びのある日々でした。でもデザイナー・鈴木啓太自身が、これから企業に何を提案していけるのかは見えてこなかった。
そのため、いろんなコンペに参加して自分がしたいこと、できることを自分の中で醸成していったんです。主催企業が設定したテーマに揉まれることで、「こういうことが好きだ」「こんなアイデアだったらすぐ思い付ける」といった自分の傾向が分かってきました。
― 独立後に備え、トレーニングをしていたということですね。
デザイナーにとって大切な能力の一つは、クライアントがしたいことを上手く汲み取って形にしていく“読み解き力”だと思うんです。コンペのテーマというものは、企業の中でかなり練られて出てきたもの。それは、企業自身が直面している課題である時もあれば、業界の未来予測をしたい時もあります。あるいは、企業が世間からどう見られているかを知りたいのかもしれません。
コンペの課題には企業が求めているもの、時代の感覚が明確に現れています。学生や若手デザイナーがこういったものに触れられることは普段あまりないでしょうから、貴重な機会です。
応募を重ねて見えてきた、コンペで重要視されるもの
― 国内外を問わずコンペに応募していたとのことですが、海外と国内でコンペの特徴に違いはありましたか?
欧米のコンペでは著作権など作品の権利は応募者に帰属する例がほとんどです。応募されたアイデアを企業が勝手に使うといったケースは当然、許されません。これはコンペ主催者側への意見にもなりますが、日本でも主催者が著作権や意匠権へのリテラシーを上げていくとともに、参加する側もしっかり募集要項を読んでから応募するなど、コンペのルールをしっかり把握する必要がありそうです。
― 作品の権利の話は、デザイン業界全体の課題と言えそうです。
また、日本のコンペはそのまま商品化につながるようなリアリティーを求められることが多いのですが、海外の企業からはもう少しブランディングに近いことを求められたり、社会問題をどう解決するかといったソリューションの種みたいなものを出してほしいと言われたりと、テーマの前提がかなり違っています。
作品形式も明快にビジュアル重視。例えば「3枚のJPEG画像に解説文を400文字程度で添える」といった募集が一般的でした。海外コンペで何回か失敗して、コンペで求められるものはビジュアルなんだな、と実感しました。ただ、ほとんどビジュアルで第一印象が決まるのは国内のコンペも同じです。