この時代、コンペの意義。デザイナー鈴木啓太に攻略法を聞く2 / 2

この時代、コンペの意義。デザイナー鈴木啓太に攻略法を聞く

入賞の近道はビジュアルの精度向上

― 作品ビジュアルの完成度が本当に重要なんですね。

自分が審査をするようになって分かりましたが、何千枚もの応募作品のテキストを全て読み込む時間はありません。最初に1,000ぐらいあったら、ビジュアルでだいたい50ぐらいに絞られる。そこから上位を決めるにはもう少し深い理解が必要なので、テキストをちゃんと読み、審査員が議論をしていく。それは本当に最後のプロセスです。

― 今回はデザインコンペの“必勝法”を伺おうと思っていましたが、結論はシンプルなようです。

とにかく一目で分かりやすいものにするため、ビジュアルの精度を上げることが肝心です。自分の過去を振り返ると、入賞した作品は超シンプルなビジュアルが多かったですね。写真1枚だけで表現したりとか。これはコンペだけでなく、おそらくデザインの仕事全般においてそうなのではと思います。

今日の企業が取り組むプロジェクトはますます複雑化していますが、そのときに1個の“絵”があるのは大事です。プロのデザイナーは「このプロジェクトはこういうものを目指します」という共通言語を絵で示せる。それを僕は“方向性”と呼んでいて、ほとんどのプレゼンではまず“方向性”を端的にビジュアルで描き、きちんと推敲した非常にシンプルなテキストとともに提案することから始めます。

2016年春にデビューした、相模鉄道9000系電車

鈴木さんがプロダクトデザインを手がけた車両・相模鉄道「12000系」。相模鉄道のデザインブランドアッププロジェクトでは、方向性として、車両塗装を横浜の象徴となるネイビーブルーにすることを提案。この色はその後制服に使われるなど、新たな相鉄ブランドを印象づけるものとなった(撮影:ナカサアンドパートナーズ)

― 精度の高いヴィジュアルと端的な説明で挑んだコンペの経験が、しっかり企業プレゼンに生きているんですね。

そうです。以前仕事をしたある海外のファッションブランドはさらに極端で、文字は一切要らないと。「とにかく今から出してくれる絵が、どのくらい自分たちの新しい未来を切り開いてくれるのか」ということしか議論になりませんでした。相手が求めるものを読み解いたら、方向性を描いて示す力が、自分のデザインを実現するためには必要不可欠なんです。

この時代、コンペの意義。デザイナー鈴木啓太に攻略法を聞く―インタビューに答えるデザイナーの鈴木啓太さんの横顔(笑顔)

これからのデザインにおいて、例えば「注ぎやすい水筒の注ぎ口」といった、機能を生み出すための形状は、AIによって最適化された答えが出てくるようになるのだと思います。

そういう時代にはもう一度、“美”の部分に僕たちデザイナーが関わっていかないと、本当にいいものはできないのでは。美しい形、素敵な形といったクラシックな意味でのデザインが、これから社会に再び必要になってくるだろうと思います。それはコンペのテーマにもなり得るでしょう。

大きなトレンドがない時代、コンペは個人が企業とコラボレーションする場に

― 最近は審査員として活躍され、主催企業と議論する機会も多いかと思いますが、今コンペに対してどう感じていますか?

どんなコンペにも共通していますが、主催者は決して「今すぐ商品化して大きな利益を生むデザイン」を求めているわけではありません。むしろ自分たちとコラボレーションできるパートナーを真剣に探している印象です。

そこには多様な価値観があり、正解がひとつではないという時代背景があります。さまざまなコミュニティーが生まれ、それぞれのファンがいる。ファッションにせよプロダクトにせよ、どの業界でも「大きなトレンド」というものが成り立ちにくい。一方で、社会のトレンドといったものにはみんな敏感です。だから企業はいろんな人のアイデアを参考にしたいし、それを実現させていくことが価値になる。そのためのコラボレーターが圧倒的に足りないんですね。

― 最後に読者へのメッセージを。

もし、駆け出しのデザイナーが「こういう者ですが、ぜひ御社で仕事させてください!」と訪ねて行っても最初は門前払いですよね。そういう意味で、作品を通じて企業と対等なコミュニケーションがはかれるのはコンペの利点です。「自分のコラボレート企業を見つける」という意識で取り組むと、コンペに参加する価値があるはずです。

この時代、コンペの意義。デザイナー鈴木啓太に攻略法を聞く―インタビューに答えて力強い笑みをうかべるデザイナーの鈴木啓太さん

PRODUCT DESIGN CENTER
http://www.productdesigncenter.jp/

聞き手・文:神吉弘邦 撮影:葛西亜理紗 編集:猪瀬香織(JDN)