受賞者インタビュー
2018/12/18 16:00

シェル美術賞2018グランプリ 近藤太郎が追う「イメージと自分の関係性」とは? [PR]

シェル美術賞2018グランプリ 近藤太郎が追う「イメージと自分の関係性」とは?
1956年に創設され、62年目を迎えた公募展「シェル美術賞」。昭和シェル石油株式会社が主催する、40歳以下の若手作家のための美術賞であり、赤瀬川原平、高松次郎、菅木志雄など著名な現代芸術家を輩出している。「既存の権威にとらわれず、新人を発掘して自由に賞を与えたい」という想いは、創設当初から今も変わらない。

今年も12月12日から24日まで、国立新美術館でグランプリほか受賞作品8点を含む計54点の受賞・入選作品展「シェル美術賞展2018」が開催されている。今年グランプリを受賞された23歳の大学院生、近藤太郎さんは作品のテーマを「どうしたら絵の中のイメージと現実の自分が関係性を持てるか探った」としている。表彰式当日、彼にテーマの意味や作品の見どころを語っていただいた。

ゆるやかに“ブレながら”進んできた今

── 受賞おめでとうございます!表彰式に臨まれた今、お気持ちはいかがでしょうか。

ありがとうございます。受賞の連絡を受けたときは、とにかくびっくりしました。ずっと信じられなかったのですが、学校では予想以上に話題になっていたらしく、家族や友達からお祝いの言葉をもらってようやく実感が沸いてきました。

近藤太郎(こんどう たろう):1995年生まれ、神奈川県出身。武蔵野美術大学造形学部油絵学科を卒業、現在は同大学大学院造形研究科修士課程美術専攻油絵コース1年に在籍

最近までほとんどコンペに応募したことがなく、シェル美術賞は初挑戦、今年のコンペはこれ一本です。絵画以外も含めて制作手法を試してきた中で、ちょうど思考がまとまり油彩画を落ち着いて描けたので、タイミングがよかったんだと思います。

── 今は大学院生とのことですが、絵はいつから描き始めたのですか?

幼稚園の頃からものをつくるのが好きで、中学2年まで絵画教室に通っていたのですが、部活中心の生活になってきたので一度止めました。僕はブレるというか、選択肢を多く持っていたい気持ちがあって、絵画一筋にはならなかったんです。美大に進んだのも受験勉強が楽だという理由でした。ただ、大学4年の終わり頃にやっと制作テーマが明確になったので、ここでやめたらもったいないと思い大学院に進みました。進学しなければここまで来られなかったので、ブレつつも続けてよかったと思います。

── ちなみに、影響を受けた絵画や画家はいますか?

正直、絵よりも映画などから影響を受けるほうが多いかも(笑)。ただ昨年、ウィーンのアルベルティーナ美術館で見た、ゲオルグ・バゼリッツには感動しました。絵の天地を逆にしたように描かれるモチーフが衝撃的で、「今まで知っていた油絵と全然違う!」って。油彩画に限界を感じていた時だったのに、そこでもう一度絵を描きたい!これが絵で表現できるならまた挑戦したい!という気持ちが沸き上がってきたのを覚えています。

イメージと現実世界の自分が関係性を持つには

── 受賞作タイトル「Self Portrait I」は“自画像”という意味ですが、普段から主に自画像を描かれているのですか?

いえ、そうではないですね。手法も油彩画だけではなく、写真を使ったインスタレーションや立体などさまざまです。ただテーマは「イメージ(絵の中の世界)と自分の関係性」の追求で一貫しています。今回の作品は「見られている自分と自分が見ているものを、絵の中で同時に表現する」をテーマに、昨年の夏から取り組んできたシリーズの一作です。

シェル美術賞2018グランプリ「Self Portrait I」作品画像(近藤太郎 作)

「Self Portrait I」(2018)油彩・接着剤・キャンバス/162×130cm

── 哲学的ですね。どうしてこのテーマにたどり着いたのでしょうか。

大学に入った頃は油彩画のみ制作していました。ただ、僕は絵の世界に入れないので、描いた時点で絵と自分の関係性が終わります。このことに違和感を持つようになり、どうすれば自分が描くイメージと現実世界の自分が関係性を持てるんだろうと考え試行錯誤しました。でも、大学4年にもなると限界を感じるようになって。

そこで立体や写真も取り入れ、後頭部や足の立体造形を組み込んだ実験的な作品を制作するようになったんです。油彩画だけ取り組んでいる時より思考が広がりやすくなりました。ただ油彩画は自分のイメージを形にする上で最も扱いやすい手法なので、今は油彩画と他の手法とを行き来しています。今回の受賞作は、基本に戻った感がありますね。

見ると見られる、想像と現実-絵の中に多くの情報を入れたい

── 作品はまっすぐこちらを見つめるポートレートで、鑑賞していると見られている感覚が湧いてきますが、意識した構図ですか?

そうですね、目が正面を向く構図は意識しています。また、人物のサイズも、100号キャンバスにほぼ等身大で入るようポーズを計算しました。

鑑賞者が他人事として絵の中の人を見ている、という感覚が好きじゃないんです。お互いに目を合わせて見る、見ると見られるの感覚を繰り返すうちに、絵と見る人とが関係性を持つと面白くなる気がして。「この金髪の人は誰だ?自分?」とか。絵の中の世界と関わりを持って、どちらが自分なのかわからなくなるような感覚っていいですよね。

シェル美術賞2018グランプリ 近藤太郎さん 受賞作を前に話す様子

── 作品から、近藤さんは金髪だと思っていたので、黒髪で驚きました。

よく言われます(笑)。完全な自画像ではなく、金髪みたいに、現実ではするのが大変なことをつい絵の中に描いてしまいますね。でも背景は写真を元に描くなどしてバランスを取っています。想像と現実を混ぜて表現するというか。

── 背景は実在の場所なんですか。

はい。僕が旅行でシチリアの空港を訪れた時に撮った写真が元で、大好きな景色です。この写真にここまで惹かれるのは、すごくいろんなものが写っていて、でもはっきり見えず想像の余地が大きいからだという気がしています。

僕の作品もそうなんです。一つの明解な意味があるというよりは、絵の中に多くの情報があって脳が小刻みに振動するような感じにしたくて。友達からは「脳みそがブレてる」と言われます。受賞作も人がメインですが、車のドアを描く時はそこにすごく集中して描き込んでいます。絵の中で同時多発的にいろんなことが起きているんです。

ゆっくりと作品に同化し、想像力を広げてほしい

── 今回の受賞経験を、どう活かしていきたいですか。

いずれ留学したいので、賞金もその費用に充てるつもりです。今後も自分のテーマを持ち、他の土地や環境で、もっと新しい刺激を受けながら制作していきたいですね。これからもブレながら描いていこうと思います。

── 受賞展では、来場する皆さんにどんな楽しみ方をしてほしいですか?

落ち着いてゆっくりと見てほしいです。僕は美術館などで絵を見るのが苦手なんです。たくさんの人からプレッシャーを受けてドッと疲れてしまうから。本来なら一人で見ていただくのが最高で、それは難しいと思いますが、なるべく自分の世界に入って見てもらえたらと思います。

── 絵の中の人と自分が同化していく感覚が持てるかもしれませんね。

そうですね。審査員の講評をうかがって印象的だったのは「生きてるか死んでるかわからなくて幽体離脱にも見える」「いい意味で違和感がある」ということ。受賞展でも、僕の絵を見た方が違和感を覚え、想像を広げ、何かのヒントになってくださったら嬉しいです。

シェル美術賞2018グランプリ 近藤太郎さん 受賞作を前に話す様子

「シェル美術賞展2018」概要

  • 展示内容
    シェル美術賞2018 受賞・入選作品(計54点)
    シェル美術賞 アーティスト・セレクション(SAS)2018

  • 会期
    2018年12月12日(水)~12月24日(月・祝)※18日(火)休館
    10:00~18:00(入場は終了時刻30分前まで)
    ※14日(金)・21日(金)は20:00まで
    ※24日(月)は16:00まで
  • 会場
    国立新美術館 1階展示室1B(東京都港区六本木7-22-2)
  • 入場料
    一般400円
    ※学生、70歳以上の方、障がい者手帳等持参の方および付添者1名まで無料

関連イベント

  • 受賞作家8名によるアーティストトーク
    12月15日(土) 14:00~15:00
    聞き手:藪前知子 審査員
  • みらいを奏でる音楽会 by シェル美術賞展
    12月22日(金) 18:00~18:40
    出演:こぱんだウインズ(木管六重奏)
    協力:出光興産株式会社

公式ホームページ
http://www.showa-shell.co.jp/enjoy/art/

文:木村早苗
撮影:小林由喜伸
取材・編集:猪瀬香織(JDN)

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