受賞者インタビュー
2022/12/05 10:00

生活の中で意図せずに生まれる「線」や「面」を描きたい Idemitsu Art Award 2022グランプリ 竹下麻衣1 / 2 [PR]

Idemitsu Art Award 2022 グランプリ 竹下麻衣さん
40歳以下の若手作家による平面作品を対象とした出光興産主催の公募展「シェル美術賞」が、2022年度から「Idemitsu Art Award」に改称して開催された。1956年に創設された歴史あるシェル美術賞のアイデンティティを受け継ぎながら、「若き才能が放つエネルギーを、社会のエネルギーへ」として若手作家の支援を継続していく。

51回目となる今年は、昨年から応募数が大幅に増加し、650名による860点の作品の中から竹下麻衣さんの『せんたくものかごのなかで踊る』がグランプリを受賞した。竹下さんは1999年島根県生まれ、今年3月に嵯峨美術大学芸術学部造形学科を卒業したばかりの、京都府在住の作家だ。12月14日から国立新美術館で今年度の受賞・入選作品を展示する「Idemitsu Art Award展 2022」を前に、竹下さんに受賞作や今後の制作についてお話をうかがった。

素材の異なる服の重なりをさまざまな技法で描く

――「Idemitsu Art Award 2022」グランプリ受賞おめでとうございます。この賞に応募した理由やきっかけを教えてください。

嵯峨美術大学で先生から(前身の)シェル美術賞のことを聞き、過去2回応募しました。ジャンルを超えて油彩画などと同じ平面領域として日本画を審査していただけることが魅力でした。他に学生対象のコンペに応募したこともありますが、受賞は初めてなので嬉しく思っています。

――受賞作のコンセプトは、どういったものでしょうか。

私は日常の中で見つけたモチーフから線や面を抽出することをテーマとし、自分が意図していない面白さが画面に現れるといいなと日々考えながら制作しています。今回は、日常生活で洗濯物が無造作にカゴに溜まっていく中で、ふといろいろな素材の服が線や面に見えて面白いなと思い、描き始めました。今回は、いつもよりコンセプトを明確に意識しながら制作ができたと思います。

Idemitsu Art Award 2022 グランプリ受賞作品(竹下麻衣)

グランプリ受賞作品「せんたくものかごのなかで踊る」 2022年 162x140cm 日本画、岩絵具、水干絵具、膠、箔、麻キャンバス

――どんなふうに制作していったのかプロセスを教えてください。

いくつか洗濯物とカゴのモチーフを用意して、下絵を何枚も描いています。写真のように、ある日その時の洗濯物を描写したのではなくて、約半月かけてデッサンやドローイングを何枚も描いて、試行錯誤しながら組み合わせていきました。カゴという隙間のある形なので、洗濯物が出たり入ったりすることで内側と外側が交わる面白い画面構成になるなとも思いました。作品にとりかかった期間は約1カ月で、のべ1カ月半で制作しました。

――作品タイトル『せんたくものかごのなかで踊る』に「踊る」とあるように、夢中で筆を振るって無意識に現れた線もあるのでしょうか?

自分が引いた線が完璧にイメージ通りになるわけではないので、夢中で描いているうちに、思った通りになった、あるいは思った通りではなかったけれどもこれも良いなという線も生かしていきました。一発描きでうまく引けた線も残しています。

――作品を間近で見ると、絵具の筆致、線の密度と余白、いろいろな描法が同居していて、現代の日本画ともいうべき不思議な質感が楽しめますね。

はい。最初に質感の違う素材の衣類が重なっている様子を面白く感じて、その新鮮な気持ちを最後まで大切にしました。パキッとした布のシャツや細かい模様、てろてろした柔らかい素材の衣類が入っているなど、さまざまなものが一緒になっている状態がいいなと。画面に強弱をつけるために、右側が垂れている、左側をいろいろ実験しながらギュッと集中させる場所みたいな感じで、あえてそれぞれタッチを変えて描いています。

Idemitsu Art Award 2022 グランプリ受賞作品(竹下麻衣)

さまざまな衣類がリズミカルに描かれている。写真ではわかりにくいが、画面には細かな模様の描き込みや金箔で描かれた線もあり見飽きない。

――作品は高さが規定上限サイズで、実物の洗濯物かごよりずっと大きいですが、このサイズにした意図はありますか?また、こういったサイズの大きい作品は普段から描いているんですか?

大きな画面だと、洗濯物の線や面がより大きく表現できると思ったからです。大きい分、細かい描写もいろいろ遊べるなと思い、拡大する形で描きました。普段の制作でも、モチーフを実際のものより大きい形で表現することが多いです。

――具象的でもあり抽象的でもある絵画ですね。

はい。最初にこの題材を見つけたときに最後まで楽しく描けそうな予感があったのですが、制作の途中でこの表現でいいのか、作品が完成するのかわからなくなってしまった時もありました。そんなふうに迷った時はコンセプトを見直すようにしていました。

――どんなところで迷ったのでしょうか?

最初はビビッドな色合いにしていたし形ももっとスマートで、溢れ出ている感じでもなかったんです。それで良いと思って描いていたのですが、描いている間にこれで良いのかなと不安になって。でも色を洗ったり重ねたりするうちにしっくりくる色の組み合わせを見つけ、そこに形を合わせることができたり、気持ちよく線を引くことができて、最後まで楽しく描き上げることができました。

Idemitsu Art Award 2022 グランプリ受賞作品(竹下麻衣)

近づいて見ると絵具の質感や筆致の豊かさがわかる。

――国立新美術館で開かれる「Idemitsu Art Award展 2022」で展示されるのが楽しみです。来場される方々に、ここは見てほしいという鑑賞ポイントはありますか?

岩絵具を使っているのですが、その粗さもすごく粗いものからマットなものまでさまざまで、衣類の生地や風合いに合わせるかのように部分部分で違う表現にできました。また、金箔も使っていますし、いろいろな質感を表現できたと思いますので、見ていただく方に多様な表現を楽しんでいただけたら嬉しく思います。

次ページ:迷うことがあっても。完成まで描き上げることが大切