学生限定・立体アートコンペ「AAC」 2018年 最終審査会レポート [PR]

学生限定・立体アートコンペ「AAC」 2018年 最終審査会レポート
すっかり肌寒くなった2018年10月23日、東京都墨田区のマンション「ステージファースト両国II アジールコート」にて、「アート・ミーツ・アーキテクチャー・コンペティション(以下、AAC)2018」の最終審査会が行われた。

これは不動産業のアーバネットコーポレーションが2001年から主催する、学生限定の立体アートコンペ。最優秀作品はマンションに展示されるアートとして、同社に買い上げられる。また、最終審査進出者へは制作費用を支給、入賞者には卒業後も制作依頼を行うことがあるなど、若手芸術家の育成支援に重きをおいた仕組みが特徴だ。登竜門は、2016年、2017年に続いてこの審査会を取材した。

2018年7月10日、応募総数63作品から入賞・入選作品が発表された。最終審査に進出する3名は、いずれも東京藝術大学大学院美術研究科の学生で、彫刻専攻の雷 康寧さん、工芸専攻の佐野圭亮さん(漆芸)と堀田光彦さん(鋳金)が選ばれた。3人は制作補助金20万円を活用しながら約4カ月の制作を行い、この日の最終審査会へと臨んだ。

今年の審査員は、国立西洋美術館館長の馬渕明子さん、現代芸術作家のヤノベケンジさん、アート・コーディネーターの内田真由美さん。そしてアーバネットコーポレーション社長 服部信治さんだ。美術館キュレーターやギャラリスト、作家とアート界の第一線で活躍される方たちが、専門家の知見で審査を行っていく。作品の完成度はもちろん、空間との調和や耐久性などマンションという公共空間に耐えうるか否かも重要な指標となる。

人の本質を気づかせる水の化身“蛸”-雷康寧「Be water my friend」

審査トップバッターとなった、雷さんの作品「Be water my friend」。4名の審査員を待ち構える

雷さんの作品は、人生を水に例えたブルース・リーの言葉「Be water my friend」を蛸で表現。水を介し、本来の人生の在り方を適応力や順応力を持つ蛸に置き換え、生きる中で制約に囚われがちな人々に、自由さや柔軟さ、創造力という人間の本質を思い出させ、元気を与える存在にしたいと語った。

全長が約120cmある一体成型の陶器。目玉に樹脂で艶を出した以外は素焼きに留め、エアブラシで白と青に着色してマットな質感に仕上げた。蛸のモチーフはここ一年の取り組み。彼女の作品にはグロテスクな表現も多いが、今回は公共展示である点を強く意識して親しみが湧くようにしたという

審査員からは造形や視点のユニークさを評価する意見が上がった。「動物モチーフ、特に蛸のように強いモチーフは違和感が生まれやすいが、白く淡い色彩なので上品にまとまっていると思う」と、造形・質感・色彩のバランスへの評価も。一方「質感や造形がいたずらに繋がりそう」と、魅力と場所性の問題が衝突する悩ましい問題も浮かびあがった。

「作品全体が白いので背景に埋没するのでは」という指摘には、滑らかな蛸の質感と壁の大理石が持つデコボコした質感が違うので面白い印象になると説明。別の審査員からは「壁面がさざ波のような雰囲気なので、マッチすると思う」と、評価が割れる一幕もあった。

見る人の“現”を映す漆黒の秤-佐野圭亮「現の秤」

2番手は佐野さんの「現の秤」。存在感ある漆の艶とボリュームある形、繊細な細工が光る作品だ。漆と珪藻土を何十回も塗り重ねて形づくる乾漆技法。本体上部には蒔絵、細い腕には細工した赤珊瑚、秤皿の縁には白貝の螺鈿(らでん)と加飾がふんだんに行われている。

学生限定・立体アートコンペ「AAC」 2018年 最終審査会レポート

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乾漆技法と細密な加飾は、制作に時間を要する。4ヶ月をフルに使ったとのこと

「これは、見る人の現在を映す作品です。生きる中で多くの判断を迫られ、それはその時々の状況に左右されていますが、角度を変えることで見方を変えられるのでは。艶やかな漆に映る姿に、本来の自分を思い出してほしいと思います」

穏やかな口調ながら熱くプレゼンする佐野さん。指は漆で黒く染まっている

天然の素材を活かしてものをつくる漆芸に日本の独自性を感じ、その手法を美術作品として伝えていきたいと語る佐野さん。

作品を触ってほしいんです。漆の滑らかさや箸の滑り止めと同じ手法でつけたざらつきなどを感じ、日常の延長にある存在だと知ってもらいたい。工芸品は修復をよしとする文化なので、触ることでもし壊れても、新たな価値観を与える機会となります」

その考え方には審査員もびっくり。高く評価しつつ、触ることを意識した形だとなおよかったという指摘があった。また質疑応答を重ねたことで、佐野さん本人も自覚していなかった造形のテーマが見えてくる、といった、学生作家ならではの出来事も。今後に繋がる道標を与える対話は、作家の成長を末長く支援するAACならではの一場面だ。

落ち着きを与える洗練された桜-堀田光彦「精神の美」

堀田さんは2016年に続き2度目の入賞。今回の「精神の美」は、本物のソメイヨシノの枝を型取りした蝋の枝約200本と花を溶接した作品だ。

堀田さんは大学院修了のため、今回の挑戦が最後

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都会のマンションエントランスに、まるで本物の桜が咲いたよう

帰宅した住人が見て落ち着ける空間になるよう意識しました。住人同士の会話のきっかけにしたいとマンションが立つ墨田区の木である桜を選び、枝ぶりは広がりや生命力を感じさせる構成に。また、エントランスが放射状に広がる印象を持っているため、作品を円形にして空間に焦点を与えています」

忙しいDINKSや単身者で構成される住人に寄り添うコンセプト、現地を見学して背景や壁面の素材に合わせ花の形を再考するなど、マンションでの展示に対する強い配慮が伺われた。審査員からは、桜の儚さとブロンズという素材の対比、枝と花の関係性や配色など造形に関する質問が多く出た。「江戸の伝統工芸のような、洗練された和のデザインを感じる。もう少し暴れた線や花の彩色など、華やぐ要素がほしい」との評価も。

三者三様のプレゼンは約90分かけて終了。技法もアプローチも異なるだけに審査は難航した。

審査の結果、最優秀賞は雷さんの「Be water my friend」に決定。空間と作家の個性を調和させたバランス感が評価され、初めて具体的なモチーフ作品が選出される結果となった。

次回は、制作・審査を終え授賞式に参加した3人の受賞者にインタビューする。11月下旬公開予定。

取材・文:木村早苗
編集:猪瀬香織(JDN)
画像提供:アーバネットコーポレーション

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