「デザイナーの成長、成功とは?」エイトブランディングデザイン西澤明洋氏インタビュー2 / 2

「デザイナーの成長、成功とは?」エイトブランディングデザイン西澤明洋氏インタビュー

コンペでデザイナーとしての本質を磨く

ブランディングデザインを専門にするにあたり、思考体系は建築で身につけられたので、後はプロダクトやグラフィックといった個々のスキルを磨くことが課題でした。たとえば、建築出身の人間が建築のポートフォリオで東芝に就職できるかといったら絶対に無理です。就職難だった当時は、東芝でもデザイナーの採用枠が3人という少なさ。でも僕はどうしてもメーカーで働きたかったので、プロダクトデザインの腕を上げなきゃなと自分を駆り立てる方法を考えました。

そこでJDNの「登竜門」を活用したんです。建築を学びながら、1年半くらいデザインコンペに出しまくりました。その理由は、作品を少しでも多く制作したいということと、受賞歴くらいないと説得力がないということ。プロダクトを専門に4年間勉強してきた人と就職活動で争わないといけないんですからね。特に大学院1年のときは、日々「登竜門」をチェックして、毎月1つくらい応募するペースでした。始めの頃は、賞にはまったく選ばれません。作品は増えるので就職のためのポートフォリオづくりには役立ちました。それでも、大学院の課題と平行して、月イチのペースで作っていると、10回くらい応募し続けていたら、ようやく受賞できるようになりましたね。コツがあるわけではないですが、1個受賞できたら次々選ばれるようになって、就職活動までに3作品は受賞できました。

無事に就職が決まり、入社してからもプロダクトのスキルを上げたかったので、「登竜門」でコンペ情報を見つけては応募していました。プロダクトの実務に2年間携わりつつ、コンペでもいくつか受賞しました。その作品が商品化につながりそうになったことから縁が生まれて、他の仕事を引き受けたこともあります。会社員の時代にも、コンペを通じていろいろな人と知り合えたのは有意義でした。僕が思うコンペの活用方法は、トレーニングです。与えられた1つの課題に対して、諸条件を考慮しながら解決策を提示する訓練。そして、評価まで受けることができる。賞金もいただけるので、学生時代はアルバイトをしなくて済みました(笑)。僕が応募する際には、プロダクトの中でも、比較的しっかりデザインできるコンペを選んでいました。ちょうどLEDが出始めの頃だったので、照明デザインのコンペも多かったですね。学生時代も、社会人になってからも応募してきたことがトレーニングとなり、実務に活かせる。その意味でとても貴重な体験ができるはずです。

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学生や若いデザイナーは、もっと自分の頭で考えて能動的に動くべきです。学校で出される課題に取り組んでいれば、先生が就職活動のお世話もしてくれてとりあえず順調、という時代は、生きるには楽かもしれませんが、デザイナーの本質を磨くチャンスを失っていると思うんです。自分自身を振り返ってみると、不況の時代で辛い思いをしている人もたくさんいる中で切磋琢磨したことがとてもよかったと思います。コンペへのトライは、自分でデザインができる環境を作り出す、つまり自分で自分の場所をセッティングすることでもありました。課題に対して深読みする行為や、問題の枠組みそのものを設定したり、もっと大きく言えば座組を考えたり…。どういう人の配置にするか。どういうチームが成立するのか。そこまで考えるのが、これからのデザイナーに求められるスキルだと思っています。

僕だって最初からできたわけじゃありません。自分なりに考えて、できることを自分のやり方で解決していく。それを自分の人生にどう活かすか。それを真剣に考えていたので、若い人にはそれを知ってほしいです。

デザイン人生のコンセプトは、デザインマネジメントを極めること

ブランディングデザインの依頼は、僕が興味を持てる業種だったら何でも引き受けています。多種多様でたとえば、絨毯、和紙、ハウジングメーカー、おにぎり屋さん…。新しい業態を作ってしまうことも多いです。それが可能なのは、僕らはグラフィックデザインの能力だけでブランディングをしていないから。アウトプットのスキルの中にグラフィックが含まれているだけに過ぎません。

エイトブランディングデザインではリサーチ、プランニング、コンセプト開発、コピーライティング、グラフィックデザイン、デザインディレクションまで、すべてできる能力のある人をデザイナーと呼んでいます。もしデザイン経験者が入社してきても、まずはアシスタントからスタート。ブランディングデザインの会社でデザイナーと名乗れるのは、統合した力を持っている人なので、たとえばパッケージデザインに従事していました、という人にもアシスタントから始めてもらって、トータルの力が身に付いてから案件を担当することになります。だからディレクター職がありません。ブランディングデザイナーというすべてを掌握する立場が僕で、次にデザイナーがいて、次にアシスタントがいます。その3階層がチームになって案件に関わっています。僕のデザイン人生のコンセプトは、デザインマネジメントを極める、ということに尽きると思います。極めて幸せになるのは僕自身なので、はっきりいって趣味ですね(笑)。

いまのモチベーションは「わかりたい」こと。単純に、わかることが楽しいんです。ある業種の企業をブランディングしたら、その業界についてはかなりマニアックに調べて詳しくなります。そうすると、また違う業種にも次々と興味が向いていきます。僕が多業種のブランディングを手がける中で最も真剣に考えるのは、「自分がそこの経営者だったらどうデザインするか」ということです。僕はテクニカルに行動していますが、自分が相手の立場だったらなにがベストかな、と常に思い巡らせます。それを本当にベストなデザインをしようと思うと、経営者並の思考力がなければならないと思いますし、僕もそうありたいと常に志しています。それが、デザイナーでマネジメントをするという本当の意味です。経営者と同じくらい必死に考える。実際に企業を経営する責任は経営者にあります。でも、どれだけその企業を良くするのかを考えるのは、デザイナーでもできるということを知っていてほしいですね。

株式会社エイトブランディングデザイン
http://www.8brandingdesign.com/

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