結果発表
2019/01/28 10:00

三協アルミ 第4回学生建築デザインコンペ《学生限定》

応募作品数:80点
受賞作品数:8点(空間提案:7点/建材提案:1点)
主催:三協立山株式会社 三協アルミ社

【総括】審査員長 西沢立衛
今回もさまざまな提案があって、おもしろかった。本コンペのテーマである「ずっといたくなる」という問題提起は素晴らしいと思う。建築は場所を作れるのか?建築は人間の拠りどころとなりうるのか?ということは、モダニズムからポストモダニズムにいたる20世紀の建築運動が背負いつづけた中心課題のひとつであり、かつ今も大きな課題でありつづけていることだからである。今回のコンペでは、応募者の皆さんはそれぞれ「ずっといたくなる」という課題に取り組んでくださり、アプローチの違いをすごく感じ、いろいろ勉強になった。全体に共通したこととして、日本的な感覚があるように感じた。それは雁木または縁側的なものだったり、上下足文化だったり、温泉だったり、蔵だったり、現れ方は多彩だが、「ずっといたくなる場所」というものが、地域的なもの、バナキュラーなものとつながっているのだろうかと、あらためて感じられた。
空間提案

最優秀賞

家から出ても、わたし、まだ はだし。
─ 住居を繋ぐ、はだしの共有スペース ─
小室昂久(日本大学大学院)、渡邉健太郎(日本大学)、小山佳織(日本大学)
家から出ても、わたし、まだ はだし。<br />─ 住居を繋ぐ、はだしの共有スペース ─
作品コンセプト
日本には家の中で靴を脱ぐという習慣がある。この習慣のせいなのか、玄関で靴を脱いだ時に家に帰ってきたことを認識し、その瞬間から不思議と心が休みはじめる。靴を脱いだあとは、心の緊張感は解け、家族や恋人など親密な関係の相手と「はだしのコミュニケーション」を行う。靴を脱いだ瞬間に起こる心の変化に着目し、はだしの共有部を持つ住宅群を提案する。玄関を出るとはだしの共有部が現れ、近所の人たちと「はだしの付き合い」をする。はだしで滞在できる場所は居心地が良く自分の家のような錯覚を起こす。「みんなの場所であり自分の家」のような空間は住民たちに安息と開放感を提供し、失われた向こう三軒両隣に変わる新しいコミュニケーションを構築する。ここにいるだけで色々な人が気軽に話しかけてくれる…そんな空間がずっと居たくなる空間であり、この住宅は日本独特の文化から生まれた、未来に繋がる新しいご近所付き合いをつくる住宅なのだ。
審査コメント
「ずっといたくなる」という出題から、家で靴を脱ぐ日本の文化に着目した点、また、それを建築構成の面白さにつなげていった点が、まず評価された。くつろげる空間、ずっといたくなる空間をつくるのに、家の中だけでなく、共用部や公共空間というところまで範囲を広げていったところも評価された。他方で、多少インテリア的な感じになった気もする。(西沢立衛)

「ずっといたくなる」というテーマに対して、はだしになる気持ち良さに着目した点が良かった。また、内部空間の連なりのわかる大きな模型をつくったことも説得力があった。模型を見ていると「はだしになる」気持ち良さを中心に空間を展開した方が良かったのではないか等、様々な提案が浮かんで来るのだが、そのように皆が次のアイデアを出したくなるところもこの案の良いところだということで一等に選ばれた。(大西麻貴)

「ずっといたくなる」というテーマに対して、はだしになる気持ち良さから住まいの関係を考え直しているのが良いと思った。はだしだけではなくて、サンダルや靴を履いてつながることも考えると、同じ隣の家であっても、どのような経路で出会うのかということで、全く違った関係を結ぶことが出来るのだなと思った。案の持っている可能性も含めて最優秀に選ばれたのだと思う。(百田有希)

「ずっといたくなる」をファジーに表現する作品が多い中、それは「心の緊張感が解けている空間」であり、「靴を脱いだ瞬間に訪れる」と論理的に示した気持ちの良い作品です。また住戸間に幾何学的なパブリックスペースを配したことで新しいコミュニケーションスペースが生まれ、「はだし」の開放感を超えた楽しそうな人間味豊かな空間が想像できます。(白井克芳)
イエのロジ
小山内祥多(東北大学大学院)
イエのロジ
作品コンセプト
“ずっといたくなる”を考えてみました。すると、まちでにぎわう飲食店に挟まれた小道や、神社に向かう静かな参道、町家が両脇に面した狭い道路が浮かび上がりました。これらのいわゆる“路地”が魅力的なのは、世界中どこにでもあって、その多くが未だ知らない場所だから。路地は面した建物の機能にも属さないし、車の交通量も少ないため、人の行動を縛ることもない。しかし、忙しい毎日を生きる私たちにとって、目的も無い場所で寄り道をする時間はありません。ずっといたいけど、そこは一過性の空間に過ぎない。
だから住まいにロジを通します。そして、この世界にまたひとつ、新しい路地ができます。
審査コメント
「ずっといたくなる」という言葉からそのまま住宅空間を発想するのでなく、路地空間に着目した点が面白い。人間の、または共同体の拠り所としての路地である。この路地空間を家に持ち込んで、家を豊かなものにするというアイデアが面白く、また、単にまっすぐの移動空間ではなく、あえて屈曲させたり、溜まり場を作って、滞在できる場所性を作り出そうとする意図も共感した。(西沢立衛)

「ずっといたくなるすまい」を考える時に「家の中に路地のある家」を提案したところがよかった。また、路地が引き込まれた部分は2層吹き抜けになっていたり、水を使ってもよい土間になっていたりと、路地らしさとは何かということを、単にアイディアや平面計画の問題だけにせず、空間の質とともに捉えていこうとするところも評価された。敷地が月島ということだったので、もう少し月島の街に連続するような佇まい、路地のあり方を提案出来るとよりよかったと思う。(大西麻貴)

家の中にまちの一部である路地が入り込んでいるのが面白い。「ずっといたくなる」というテーマに対して、住まいへの愛着が、路地を介することで自然とまちへ繋がっていくのがいいなと思った。路地は自分の家だけではなくて、隣家や大きな道とも繋がっているのが魅力であるから、配置はもっと工夫ができたのではないかなと思う。どちらかの路地が周囲の路地の延長であるとより魅力的になるのではないかと思った。(百田有希)

ロジには未知の世界へ導く魅力があり、それをプライベート空間であるイエの中を通す。そうすることでマチとイエ、パブリックとプライベート空間が織りなす新しい価値、風景がずっといたくなる魅力を創出するという通常では想像すらできない作品です。作品に触れる回を重ねるほど新しい発見があり、プレゼンでその奥深さを更に知り、模型で作者の情熱を感じるという最終選考に残して本当に良かったと思わせる傑作です。(白井克芳)

優秀賞

湯/塔のある暮らし
楠元彩乃(横浜国立大学大学院)
湯/塔のある暮らし
作品コンセプト
敷地は長野県北部に位置する野沢温泉村。1000年の歴史を持つ野沢温泉には、麻釜(おがま)という100度近い温泉が湧出している源泉があり、ここでは地元の人が野沢菜や伝統工芸であるアケビの原料を茹でたり、洗濯をしたりする風景が今なお残っている。スキーを観光資源とした温泉地として名を馳せながらも、温泉の管理・運営を行う「湯仲間」と呼ばれる惣の存在が、野沢を独自の歴史を維持し続けるまちにしてきた。温泉を地域インフラとして捉え、麻釜の活動を拡張するため既存の地形をそのまま引き出すように建築を配置し、視点場となる塔を置く。水回りコアを担った塔には、温泉や、生活用水、足湯などの水がまわる。湯仲間のメンバーが住まいを持ちながら、観光客の宿としても機能し、自分たちで管理運営していく。麻釜を中心に生活が展開される村民の日常の暮らしと、ここを訪れた観光客の非日常が織り重なり、野沢の未来の風景となっていく。
マチイエ
石田卓也(横浜国立大学)
マチイエ
作品コンセプト
まち全体をひとつの住まいとして提案する。
私にとって「ずっといたくなる」場所とは、その時の環境や感情によって大きく異なる。朝日を眺めてハンモックで揺られていたいし、雨風が強い日は自分の部屋で本を読んでいたい。寂しくて誰かと話したい時もあれば、一人でぼーっとしたい時もある。
しかし、それは限られた敷地境界の中に建てられた住まいでは叶わないように思う。東西南北に建物も建っているだろうし、家に帰ったら一人かもしれない。
そこで、まちじゅうの魅力的な場所に住まいの機能を分散させることを目指す。
機能的なスペースは魅力的な場所に移り、一方で自分自身の部屋はより広く、自由に扱えるようになる。
また、それらの機能は「マチイエ-ルーフ」と名付けた建具により外廊下で繋がり、外廊下は路地のように多様な空間を生む。
かつて宿場町として栄えた賑わいを住宅地として取り戻し、未来に繋がるずっといたくなる住まいとなるだろう。

特別賞

ずっといたかった場所
中野翔太(近畿大学)、樋富菜々子(近畿大学)、井上真由(近畿大学)
ずっといたかった場所
作品コンセプト
この建築は、三戸の住宅に囲まれた余剰空間である空き地を利用し、三戸に住まう子供たちにとっての新たな居場所を提案します。子供の身体スケールで、空間を作り出すことで、大人の世界からはどこか離れた、新たな空間を子供たちは見つけ出します。そしてこの秘密基地のような空間が、子供たちにとって小さな住まいで過ごすような感覚になるのではないだろうかと考えました。また、子供たちが成長するにつれて窮屈になる空間に哀愁を感じ、自分自身が大人になった時、自身の子供がそこで遊んでいる風景を見ることで、子供の頃に感じたずっといたかったという気持ちを再確認できるのではないかと考え、私たちは設計しました。
匂いを紡ぐ土蔵
池田勇輝(東京都市大学)、西宮航平(東京都市大学)
匂いを紡ぐ土蔵
作品コンセプト
私の家には匂いがある。いつもそこに帰ると、長年住み慣れた匂いによって安心感を得る。私たちが考える「ずっといたくなる住まい」とは、そんな「匂い」を主とした愛着の持てる住まいである。対象敷地の赤羽は、武蔵野台地に位置し、駅の西側はすり鉢状の地形に豊かな地である。しかし現在再開発が進みつつある地域でもあり、一様な開発により町としての固有性が失われる可能性がある。かつて酒蔵があったこの街ではそんな酒蔵の匂いが街の愛着であった。私たちはそこから着想を得て、現代的な住宅に再解釈した。
住宅で提案する土蔵柱は、住宅の主の構造体であり、時間の経過と共に地下の貯蔵庫の匂いを吸収し、この住まいとその街全体に広がる。土蔵柱からほんのり香その匂いは次第に住む人、街の人々の愛着となりずっとよりそっていたくなる。そしてその匂いは未来に引き継がれる。そんな住まいの提案である。
Urban Mountain
野口 樹(日本大学)
Urban Mountain
作品コンセプト
一生に一度の買いものと言われる「マイホーム」ですが、家庭環境や生活環境などが変化してくると、どうしても「住み替え」をせざるを得ません。また、日本の家は、耐用年数も木造で22年と、家自体の寿命も、意外に短いのです。
しかし、昔の日本の家は、同じ木造でありながら、二世代、三世代が普通に同居し、百年以上当たり前に住んでいました。
現代における「ずっといたくなる住まい」について改めて考えてみました。
ずっといたくなる住まいとは、緑豊かな山のような集合住宅です。心地良い緑に囲まれ、長く住んで行く上で必要な施設や人と人が交流する多目的スペース、グリーンスペースが組み込まれた山です。これをアーバンマウンテンと名付けました。都会に出現した山です。緑に覆われた建物は、開かれた山であり、ずっといたくなる住まいの提案です。
建材提案

三協アルミ賞

解体新処
[建材提案:熱で延びるアルミ建材]
長谷川峻(京都大学)、 藤原悠(京都府立大学)
解体新処<br />[建材提案:熱で延びるアルミ建材]
作品コンセプト
私たちの住む住宅は、果たしてずっと居たくなる住まいだろうか。加速化していく現代において、人は幾度となく引っ越しを繰り返し、その度にまっさらな空間に詰め込まれる。そこは故郷のような、記憶や心の拠り所となっていようか。インターネットが普及しデータ上の世界が広がっていく未来において、私たちはこの記憶の拠り所が必要であると考えた。未来ではこのように、住居が緩く解体され新しい処が普及する。そんな拠り所のある世界を提案したい。三協アルミの商品として、大開口サッシビューアート25122を用いており、新たな建材として、熱によるアルミの展延性を用いて、個々人の必要に応じて容量を増減可能とする物を提案する。そしてそれを用いたBoxと同じ規格寸法であるフレームを有する戸建住宅と集合住宅を提案する。Boxはそれらに自由に出し入れすることができる。Boxはその人の人生そのものとなり、唯一の記憶の拠り所となるだろう。
審査コメント
子供の頃慣れ親しんだ空間をアルミ製BOXという一つのユニットとし、これを成長に合わせて伸展させ、いつも安心できるより処の中で成長していくという提案は、一見突拍子もなく魅力もないものと受け取ってしまいがちですが、作品を読むにつれその主張の壮大さに気づかされる作品です。高齢化に伴う減築リフォームやストック住宅の有効利用、更にはビルド&スクラップの際に排出するCO2問題に大きく切り込んでおり、建材提案賞以上の価値がある大作であると強く感じます。(白井克芳)
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