結果発表
2018/01/25 15:32

未来のとびらコンテスト 2017《大学生版》

応募総数:66点
主催:三協立山株式会社 三協アルミ社

【総評】審査員長 西沢立衛
 良い案が多く集まってなかなか甲乙つけがたく、また公開審査ということもあって、審査は例年よりも難しくなって、しかし楽しかった。「ずっといたくなるまち」という課題は、どこか街の本質というか、核心をストレートに突くような課題で、素晴らしいテーマだと改めて思う。応募案は、いろいろな形でそれに応えていて面白かったが、建築イコール街、のイメージが多く共有されていたのは、印象的だった。中には乱暴というか大胆な案もいくつかあったが、しかしそれでもどこか優しさが感じられた。また、どれだけ非常識な提案であったとしても、どこか等身大というか、実感を伴った案が多かったように思う。「ずっといたくなる」というところから発想して、街の歴史にたどり着くという点も、何人かに見受けられ、素直に共感した。

最優秀賞

環境をハンティングしていくまち
田村 聖輝
環境をハンティングしていくまち
コンセプト
 私にとってずっといたくなるまちは、人の日常的なふるまいとつながるまちです。例えばゴミ捨て場で近所の人から昔話を聞いたり、猫とぼうっと空を眺めてみたり、遠くのランドマークタワーを見ながら黄昏たり、各々のふるまいがまちの中のある場所と記憶に結びついています。横浜の木密では高密居住と地型の住み方に対して住民の暮らしのアイデアがたくさん詰まっていて、家だけでなく狭い道も各々の住人の個性によって彩られています。
 私はこのふるまいを環境のハントと捉えました。
 昨今の木密では災害や建替、空家等、法規的な諸問題が挙げられ、まちの更新に対する提案が求められています。木密をマクロな視点で見ると道路によって一つの共同体のようなものが見えてきます。
 「まちの環境」をハンティングし戦略的な更新によって減災と、領域的に周辺を巻き込む事で、より活動的な家と通りを提案します。
審査員長 西沢 立衛 講評
 横浜の谷戸地形の木密地域における集住の提案である。斜面住宅地が造成されて家が立ってあちこちに生まれたへた地や隙間のイレギュラー形状がそのまま建築に転化されて、建築としてのダイナミズムになっているところが素晴らしく、総合力の高さも相まって見事一等賞に輝いた。今回の応募案の中で審査員全員にもっとも強く推された。しかしこのタイトルだけは何とかならないものだろうか。
審査員 大西 麻貴 講評
 木造密集地である戸部をリサーチし、街がどのように愛され、使いこなされているかという様々なアイディアを取り込み集合住宅の設計をしている案。模型写真を見ると空間のあちこちに戸部でこそ生まれるべき楽しそうな居場所がたくさん生まれていること、それらが既存の街の道や段差にうまく接続していること、一つの建築をつくることが周辺全体の環境を変える可能性のある提案となっていることがよかった。
審査員 百田 有希 講評
 一つの建築の提案によって、その街の特徴が浮かび上がったり、街が抱えていた構造的な問題の改善につながっているところが良い。戸部の木造密集地でたくましく使いこなされてきた不整形で不揃いな隙間や段差が、新しい建築の空間の提案につながっているのも良いと思った。
審査員 白井 克芳 講評
 従来法規的な制約により低価値となっている区域(道路に面しない奥まった土地や狭小地など)をマクロに捉え、これまで地域を彩ってきた文化の復興や更なる隆盛を踏まえながら、その土地を有効に効果的に価値再生していく提案は、狭い国土の日本が現在抱えている土地活用問題に一石を投じる大作である。

優秀賞

まちを巡る学び舎
増田 俊・村岡 祐美・平間 裕大
まちを巡る学び舎
コンセプト
 子供の頃まちの小学校へ毎日通っていました。しかし、大人になって小学校は入りづらく、身近な「まち」そのものが遠い存在になってしまいました。学区によって地域のエリアが規定され身近であるはずの小学校は返って私たちから「まち」を遠ざけているのではないでしょうか。そこで、まちを縫うように小学校を巡らせることによって、小学校との接続をたくさん持ったまちの在り方を提案します。小学校との接続をたくさん持ったまちにすることで、小学校とまちが寄り添う状態が生まれ、小学校がこのまちの環境を作っていきます。ここに住む多世代の人達は日常から小学校に通い、小学校が作り出す環境の豊かさが還元される拡がりを持ったまちが生まれるでしょう。私たちは新しい建材提案として、アルミ繊維を利用し「アルミのタタミ」を作ります。この「アルミのタタミ」は、まちと小学校が接続する空間や小学校の空間において幅広く利用することを考えます。
審査員長 西沢 立衛 講評
 街の中に建築のような路地のようなものが大きく蛇行して、これが実は学校でもあり、地域の人々の交流の場でもあり、これが蛇行することによって、各地区各世代をつなげてゆく、という提案である。現実的に考えるなら荒唐無稽と言って良い建築だが、不思議な伸びやかさがあり、またその暴力性とは裏腹に、地域の皆に手を広げてゆくような寛容さと開放感が感じられて、共感した。もう少し時間をかけてスタディすれば、もっと良い建築になると思う。
審査員 大西 麻貴 講評
 街の中に道のような小学校をつくるという提案。配置図を見ると建物が街を切り裂いているように見えるが、シーンのスケッチではそれが不思議と街に様々な居場所をつくっており、魅力的に感じた。本人が「街の新しいインフラになる」と言っていたように、まちをうねうねと横切る空間が、小学校であり人々の通り抜けの道でもあるような、つまり、子どもたちのものであることと街のものでもあることが同じくらい大事なものに見えてくるとよりずっといたくなるまちにつながると思った。
審査員 百田 有希 講評
 川のように街の中に分け入る小学校の提案である。道に面している部分もあれば、隣家の裏庭に面する部分もあり、街の表と裏を横断しながら展開するのが面白い。隣家と共有する裏庭は、ある家を通らないといけないことで自然とセキュリティがかけられるし、周りの家との関係でこどもの活動の場所をつくり出し、共有していけるところが良いなと思った。
審査員 白井 克芳 講評
 そこに住まう人々のプライベート空間を縫うように小学校というパブリック空間が隣接することで内でも外でもあるセミパブリック空間が広がり、地域のコミュニティが対話を重ねながら、秩序だけでなく老若男女バランスのとれたまちを作っていく展開が容易に頭に浮かびます。ここで生まれ育った人は、地方を知って初めて地元がずっといたくなるセミラティスのまちであることに気づく、ストーリー性の高い作品である。
風の通り路
高岩 愛実・柴野 夏初・岡田 希久枝
風の通り路
コンセプト
 現在この街に住んでいる人、そして未来にこの街に住む人、「ずっと」の尺度は、さまざまである。今まで窓にあった網戸を、空間を包むファサードに変換し風を通す。街に住む人の高齢化や若者の定住者の減少で、空き家・空き地が増えていく問題点に着目し、時代の流れに対応した暮らし方を提案する。狭く閉ざされた路地に網戸のファサードを入れ込み、街全体を繋ぐ。従来の生活に加えて、新たふるまいが生まれる。
審査員長 西沢 立衛 講評
 京島の街で、増えてゆく空き家にランドリーや銭湯、キッチンと言った水回り的公共空間を入れてゆくことで、街を再生していこうという提案である。面白いのは、公共建築として復活する廃墟が廃墟のまま、網戸だけで仕切られて、半屋外空間のまま復活するところで、不思議な風通しの良さと開放感がイメージされている。空き家に機能を提案するだけに止まらず、より空間的な提案に踏み込んで入れば、もっと高い評価が得られたと思う。
審査員 大西 麻貴 講評
 木造密集地の1階を、網戸を使った居心地の良い共有空間とすることで、街全体を風の通り抜ける空間に変えて行くという提案。等身大のみずみずしい感覚でアイディアがスタートしていたのがとてもよかった。ランドリーやキッチンなど、それぞれの場所の使い方にあわせた空間が提案されていたらより魅力的な提案になると思う。提案をスタートさせたそのみずみずしい感覚を、そのまま新しい空間の発想へとつなげて行ってほしい。
審査員 百田 有希 講評
 風の通り道を共有するアイディアは、自分の敷地の中では自由に何をやっても良いという現状の中で、ゆるやかに自分とまわりに住む人とのつながりを築けるところが良いなと思った。突然街の中にパブリックスペースがあらわれるというのではなくて、自分の家の一部が少しずつ参加しながら、次第にコモンズに変化していくような等身大の提案のように感じられた。
審査員 白井 克芳 講評
 本来プライベートな持ち物である空き家やスペースを網戸のファサードで住戸を縫うように風通しの良いパブリックスペースに変えるという単純明快な提案である。時代時代常にそこに住まう人が中心となる住む価値を最大限に生かす簡単提案になんとも言えない魅力を感じます。少子高齢化やスプロール化により全国規模で空き家や空地が問題視されている中、有効利用の大きなヒントとなる作品です。

優秀賞・三協アルミ賞

地形に寄り添う門前町 —1300年の時をつなぐ、にぎわいのスロープ参道—
太田 みづき
地形に寄り添う門前町 —1300年の時をつなぐ、にぎわいのスロープ参道—
コンセプト
 1300年と言う長い歴史を持つ、神田明神。本郷台地の高台に位置する神田明神は、下町と「明神男坂・女坂」と言う階段の参道によって接続されていた。かつてはこの坂を中心に、「明神門前町」が形成され、職住一体の商いと生活の場がこの地域を支え、活気に溢れていた。そんな今もなお、ひっそりと残り続ける「明神男坂と女坂」。その二つの階段の踊り場と接続するように敷地をスロープでつなぎ、その間に集合住宅を設計した。基本ユニットを組み合わせることで、家族形態などに合わせてフレキシブルに住まえる計画とし、様々な生活アクティビティを纏った建具は、住戸内のにぎわいを参道に連続させる。門前町として、シンボル的な男坂と賑わいやアクティビティを纏った女坂が一体となった新たな参道は、住人や参拝客の活気溢れる「ずっといたくなるまち」となる。
審査員長 西沢 立衛 講評
 神田明神の男坂女坂で、店舗を持った集合住宅と路地を提案する案である。例えば階段の踊り場をつなげて地形を利用して新しい地形やスロープを作ったり、家も路地も段々になったり、色々と鋭いセンスが光る。等身大で身体的な提案であるにも関わらず、理論的な鋭さを感じさせるところがあり、素晴らしく感じた。その独創性がそのまま建築設計に流れ込んでいれば、もっと上位になったはずだ。
審査員 大西 麻貴 講評
 プレゼンテーションを聞いて、提案の面白さに気がついた案である。男坂と女坂という性格の異なる坂の踊り場をつなぐと、自然とスロープが生まれ、そのスロープにあわせて新しい坂の街が生まれて行くという発見がとてもよかった。建物の方も、地形をつくっていく発想に連続した魅力的なプランになっていたらもっと面白かったと思う。
審査員 百田 有希 講評
 男坂・女坂の二つの坂の踊り場をつないで新しい地形をつくる提案である。既存の坂と直行方向に緩やかな階段やスロープ状の微地形が出来るのだが、アイディアの持っている可能性が大きい分、その微地形と建築の関係が希薄なのが残念だった。ゆるやかな地形に横に長い建物が寄り添ったときに、どのようなことが起こるのだろうか。床は水平なのだろうか。机はいつの間にかベンチになるのだろうか。家の中まで入り込んだ微地形が寝心地の良いベッドになるなんてことはあるのだろうか。いろいろと想像が膨らむ提案だった。
審査員 白井 克芳 講評
 門前町のような歴史的地域の開発は、保存と開発の鬩ぎあいが必至でバランスが成り立たないものが多いように感じます。そんな中男坂と女坂を地形に逆らわずスロープで横につなぎ魅力的なパブリック,セミパブリック空間を創り出す提案は、四季や高低差による景色や建物の変化を楽しむだけでなく、そこに住まう人や訪れる人の楽しみ方に触れることで更に地域が活性化し、ずっといたくなる感じを受けます。賑わいを作る建具はセミパブリック空間を豊かに創出するものばかりで、とても興味深い提案です。

特別賞

積み重なる街の記憶を楽しむこと
浦田 友博
積み重なる街の記憶を楽しむこと
コンセプト
 “ずっといたくなる”とは、この街だけが持っている歴史や記憶を楽しみながら暮らすこと。
大阪・岸和田の街には、江戸時代の堀跡を中心として、現代までに積み重なった歴史の痕跡が多く残っている。生活の中でそんな街の個性に気づくことができれば、この街をもっと楽しく過ごすことができるのではないだろうか。そこで、堀跡を現代の人々のための空間として再び利用することで、この街の魅力を再認識させようと思う。街を歩くと、岸和田の街並を楽しみながら、都市の断片的なシーンが連続する。その軌跡に、岸和田の都市構造が浮かび上がる。ある日散歩をすると、今まで気づかなかった風景を見つけた。駅前で電車を待っていると、ここはおもしろい街やで、と地元のおばさんが教えてくれた。そんな楽しみが積み重なればきっと、この街にずっといたくなる。
審査員長 西沢 立衛 講評
 大阪岸和田を舞台に、石垣発掘と地域施設の提案とが一体となった案である。「ずっといたくなるまち」というテーマを歴史につなげた鋭さが評価された。また、現実の石垣の配置を前提に具体的な空間提案にまとめたのもよかった。他方で、徐々に物事が明らかになってゆく「発掘」という、歴史との出会いの方法をとったわりには、空間と機能がピッタリあってしまうところに多少の都合の良さというか、現代性を感じた。
審査員 大西 麻貴 講評
 街を掘ると、かつての堀の石垣が現れてくる、というところに驚きがあり、過去と今をつなげる面白い街の発見の方法だと感じた。掘り出される空間の形や深さが、割り当てた機能に対してあまりにうまくフィットしすぎているところに違和感があるというか、もう少しかつての街を掘り出して行くというダイナミックさがそのまま建築の面白さにつながるような提案になっていたらもっとよかったと思う。
審査員 百田 有希 講評
 掘ることを通して、街の歴史が発掘され現在とつながるところが面白いと思った。ただ提案が石垣を壁やランドスケープとして利用したものに留まっているのが少し物足りなかった。例えばこれから建築を建てるとしたら石垣に新たに加わる地層の一つとして考えるとどうなるのだろうかとか、街の中に突如として石垣が出現することによって、石垣が全く違った存在に見えてきたり、既存の町の建物の見え方が変化していくような提案だと良かったと思う。
審査員 白井 克芳 講評
 江戸時代の都市構造を形作っていた堀跡に着目し、その土地を未来に向かって時代に即した形でパブリック空間として再生していく本提案は、住まう人が歴史と誇りを感じ、更に訪れる人にはわくわく感を抱かせ、全体的にアクティビティを高めていくとても良い提案です。
ほぐす建築
十時 佑輔
ほぐす建築
コンセプト
 自動車中心のまちに変わってしまったことにより人の流れが分断差され淀み凝り固まってしまった都市の中心部に対してそれをほぐすような建築を提案する。思い思いに過ごせる空間を作るために、空き地となっている駐車場や人の流れを分断している車道を「都市のツボ」として捉え、そこを刺激するような「ほぐす建築」を作ることで、新しい風景を生み出し、“ずっといたくなるまち”を作る。
審査員長 西沢 立衛 講評
 グリッド状の街の中にフェンスが横断し、駐車場を囲んで人々のスポーツの場にする、という提案で、不思議なアナーキズムというのだろうか、作者の独特な世界観が、近未来のようなパリコミューンのような自治解放区を提示した。白黒で描かれるアナーキズムと、おばあちゃん的ゆるさを持った「ほぐす」感とのギャップがすごかったが、そこは好みが分かれるところだ。
審査員 大西 麻貴 講評
 名古屋の街中に不思議な形にフェンスを張り巡らすことで、道路によって生まれる街区体験とは異なる広場をつくる提案。白黒のプレゼンテーションで独特の雰囲気があり、一次審査時から目をひいていた。名古屋の道を占拠してスポーツの広場をつくるというのは、街に合っていると感じた。
審査員 百田 有希 講評
 街区の中の空地をアメーバのようにつなぎ合わせていって、人の活動が連続した新しい「道」をつくる提案である。街区を分断する自動車交通を優先した道路に対して、人の活動がつながってできる裏の道が道路を飛び越えてつながっていくのが面白い。この街区の建物は二つの道に面して立つものも生まれてくるが、二つの性格の違う経路に面した建物の1階はどのように変化するのだろうか。
審査員 白井 克芳 講評
 一見エキスパンドメタルによる分節とずっといたくなるまちがどう結びつくのかとの印象を受けた作品であるが、プレゼンにより冷ややかな都市空間に人間味のある温かいアクティビティな空間を自由に創出するという、人が過ごしたくなる斬新な仕掛けを「ほぐす建築」と題して柔らかく提案していることに感銘を受けた。
Re-road 変化を許容するまち
北野 大祐・黒田 知実
Re-road 変化を許容するまち
コンセプト
 今日の日本では、色々な問題がある中で、“昔の風習”に立ち返る、という傾向がみられる。
例えば、核家族化に対して、シェアハウスなどのように集まって住まうという多世帯住宅の再来や、古民家の改修などのような昔の建物の価値を見出したり再定義するような動き、などである。
では、インフラである「道」であるとどうだろう?
「道」を本来の姿である土の状態へと戻してやる。自然は、自然のありのままに成長していく事ができるようになる。そうして、都市は自然とともに住まうことに馴染んでいく。時間とともに変化していく街の風景は、人々に『ここにずっといたい』と思わせるのではないだろうか。そういった、ささやかな変化から生まれる未来への期待を提案する。
審査員長 西沢 立衛 講評
 路地を土に変えるという、シンプル極まりない提案で、しかしその一つの操作で世界が変わっていく様子が感じられて、評価された。他方で、想像力の広がりが十分でなく、多少壁紙的な提案でまとまってしまった点は残念だ。道路のあり方から家のあり方、室内、果ては人間関係まで変わってゆく潜在的パワーを持った提案なだけに、その点は残念だ。
審査員 大西 麻貴 講評
 地面を土に変えるだけでそこが今よりも愛される街になるはずだ、というシンプルだけれどなるほどそうかもしれない、と思わされた案。提案がシンプルであるがゆえに、道が土になったら一体どんなことが起こるだろう?人はどうそこを使いこなすだろう?家自体はどのように変わるだろう?というその後の展開が大切で、そういった提案が創造的だとよかったと思う。
審査員 百田 有希 講評
 街の舗装を土に変えるというアイディアはとても素朴で共感した。単純でプリミティブなアイディアであるからこそ、そこからの展開が重要だったと思う。道が土だったらどんなことが可能なのかだろうか。もっと自由に火が使えるようになるのではないかとか、足の裏で大地を感じられる暮らしはどういったものなのかとか、もっと頭の中の身体感覚に訴えかけるような提案になると良かった。
審査員 白井 克芳 講評
 道路によりパブリックとプライベートの空間が明確に仕切られている中、道路を自然に戻すことでセミパブリックな空間が生まれ、通りと会話する窓や植え込みが適度に開放感を求め、それは地域の新しさを紡ぎ新たなコミュニティを生成することに展開していく期待を強く抱くアイデアです。そこに有効な建材を盛り込んでおり好感度大です。
集密都市と田園都市の狭間に
鈴木 輝・瀬田 直樹・三福 郁也
集密都市と田園都市の狭間に
コンセプト
 ずっといたくなるまちとは集密都市と田園都市のあいだのようなまちであると考えた。現在、集密都市の人々は老後などに田園都市を求め集密都市にずっといるわけではない。田園都市の人々は逆である。なので集密都市に高床式の建物という一つのルールをまちに付加することによって持続可能性を有するまちなみへと変容していき、やがてずっといたくなるまちに向かっていくと考えた。一軒ごとに完結し、飽和したまちの中では地割は極小化しあいだの空間である路地や庭やたまり場は消失し、土地の所有者はバラバラである。これを変えることなく開発を行うことは不可能になってきている。これに対して、一軒一軒の建て替えのタイミングでその地割の建物下部に公共空間を表出させて新規に地表面を公開することで今ある住宅の快適さを残しつつ、徐々にずっといたくなる家、地域、都市へと再構築する。
審査員長 西沢 立衛 講評
 木造住宅がスカイハウスのようにジャンプして、できた地表面が公共化し、地域が再構築される、という案である。可愛いというかなんというか、少年的というか男的というか、色々な意味で暴走的かつスイートで、愛らしい案である。ジャンプする木造住宅が無表情なのは残念で、ここをもっと詳しく設計し始めたら、もっと違ったものになったはずだ。地上のピロティ空間は、図面で表現される以上に面白い空間になっているような気がした。
審査員 大西 麻貴 講評
 木造密集地を敷地とした提案は多数あったのだが、その中でもこれはアジアの集落のような不思議な佇まいで目をひいた。誰がオーナーでどのように建てかえるのか?何故肝心の居室に窓が無いのか?など見ているといろいろな疑問が浮かんで来るのだが、二次審査に提出された模型も含め、全体としてとても楽しく空間をつくっている印象があり、よいと思った。
審査員 百田 有希 講評
 一次審査の際に数ある木造密集地の提案の中で一番謎めいた提案で、話を聞いてみたいということで二次審査に通過した案である。二次審査のプレゼンテーションでもなぜ最上階の小屋に窓がないのかとか、どうやって建て替わっていくのかなど謎が謎のまま終わってしまったところがある。提案されていた空間形式は他の敷地条件だったり、他の用途だったら面白く発展する可能性も秘めていたので、これを励みに頑張ってほしいと思う。
審査員 白井 克芳 講評
 現代の建築を縛っている様々な法律、規制、制度を意識せず真っ白な状態でこの提案にふれた時、パブリック空間を層状に配し様々な利用価値を創造されるアイデアは、とても斬新なものでした。着眼点はそのままで現実への対応をうまく考慮したものに変えていくと信憑性のある魅力的な提案につながると思います。
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