応募作品を鑑賞していると、テクノロジーを駆使して感覚を驚かせる作品と、感覚を通して思考を揺さぶる作品の大きく2種類に分かれるように思われる。Haythem ZAKARIAの作品「Interstices/Opus I - Opus II」は後者を代表する作品である。「風景」とは、物理的に存在するものではなく「読みとるべきもの」であることをこの作品は教えてくれる。あたかも哲学書のページをめくるように、一つひとつのシーンが静かに、そして過激に、鑑賞者に思考を促している。地平線や水平線の続く具体的な画像と、抽象的な形、そして音までが「ランドスケープとは?」「パースペクティブとは?」と鑑賞者に問い掛けている。他の応募作品に比べ静的なこの作品は、徐々に審査員の興味を引いていき、大賞に選出された。…
優秀賞
アバターズ [メディアインスタレーション]
菅野 創、やんツー
Photo by Kazuomi Furuya Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media[YCAM]
以前から広く使われている画像処理法であるディザリング技術を、実用に供する手段としてではなくアルゴリズムそのものの裸形の美の具現と捉えて目的化してしまった作者の転倒が、作者自身によって加速されている様子に目を奪われずにはいられない。すなわち「ディザリングの為のディザリング」という「芸術の為の芸術」が、純粋ウェブアプリの制作や、茫々たる自然のような抽象的ディザ画像集のSNSへの投稿へと作者を走らせている。後者に付される「here a fancy dither for you!」との屈託のなさも素晴らしい。
「マインド・ゲーム」(2004)、「四畳半神話大系」(10)、「ピンポン THE ANIMATION」(14)などで知られる湯浅政明による、全編フラッシュアニメーションを用いたオリジナル劇場アニメーション。両親の離婚で寂れた漁港の町・日無町に引っ越してきた中学生の少年・カイは、父や母への複雑な想いを口に出せず、鬱屈した気持ちを抱えながら学校生活を送っていた。カイの唯一の心の拠り所は、自ら作曲した音楽をネットにアップすることだった。ある日、クラスメイトにバンドに誘われたカイが練習場所の人魚島に行くと、人魚の少女・ルーが現れた。楽しそうに歌い、無邪気に踊るルーと出会ったカイや町の人々は、少しずつ自分の気持ちを口に出せるようになっていく。しかし、日無町では古来より人魚は災いをもたらす存在とされ、ルーと町の住人たちとの間には溝が生じてしまう。
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自然やキャラクターたちによるミュージカル・ファンタジー。冬眠からの目覚めや春の訪れを描くとともに、美と冒険でいっぱいの「世界」へと飛び出していく道のりを描いた物語である。第20回のアニメーション部門で優秀賞を受賞した「Among the Black Waves」など、文化庁メディア芸術祭の常連となりつつあるウラル国立美術大学出身の作家陣がスタジオ・ウラル=シネマと組んでつくり出された卒業制作プロジェクト。古きよきミュージカル・カートゥーンの良質な伝統をロシア風に蘇らせたようなこの作品は、コミカルなオーケストラの演奏、滴るような水彩での作画、水面のように揺らめくメタモルフォーゼのアニメーションを組み合わせることで、春の訪れを、子どもの視点も交えつつ体感させる。