結果発表
2015/12/22 15:55

第19回 文化庁メディア芸術祭

応募作品数:4,417点
受賞作品数:32点、功労賞:4名
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会
アート部門

大賞

50 . Shades of Grey
CHUNG Waiching Bryan(英国)
50 . Shades of Grey© 2015 Bryan Wai-ching CHUNG
作品概要
[ グラフィックアート ]

本作は、プログラミング言語を使用した、コンセプチュアルであると同時に視覚的な作品で、額装した6枚のシートで構成される。作者は、過去30年間に学んださまざまなプログラミングの言語やソフトウェアを用いて、50段階の灰色のグラデーションでできたまったく同じ画像を制作した。タイトルはオンライン小説として発表され、後にベストセラーとなった『Fifty Shades of Grey』という大衆小説を参照している。かつて広く普及していた数々のソフトウェア・ツールは、現在ではそのほとんどが使用されなくなっている。コンピュータ産業においてもデジタルアートにおいても、前時代的になることへの恐れはつねにつきまとう。作者は、それらのプログラミング言語の一つひとつと旧友のように接し、それを最新の機械のなかに取り込み、新しい外貌やエネルギーをもたせて再活性化した。これまでに開発された異なるテクノロジーが盛衰してきたさまを可視化する作品である。

優秀賞

The sound of empty space
Adam BASANTA(カナダ)
The sound of empty spacePhoto: Emily Gan © Adam Basanta
作品概要
[ メディアインスタレーション ]

制御されたマイクロフォンによって発生するハウリングを通じて、マイクロフォン、スピーカー、周囲の環境音の相関関係を探る作品。この作品でマイクロフォンが増幅させるのは、人間の身体では耳と口に相当する、インプットとアウトプットの機器のあいだにある静音である。このとき、スピーカーとは音を発する装置であるという概念は成り立たず、いったい何がマイクロフォンによって増幅されているのか、という疑問が生まれる。欠陥のあるシステムを構築して機器間の伝達能力を無効にすることにより、耳はそのあいだの「空っぽの空間」に注意を傾けさせられる。つまり、増幅機器の位置関係を聞いていることになる。
陳腐だが発明的、そして不条理でもあるこの寄せ集められた機器類を通じて、音は明確な存在や自律的な現象ではなく、物理的・文化的・経済的な相互依存的ネットワークのなかで生まれる、変化しやすい産物であることが明らかになっていく。
Ultraorbism
Marcel・lí ANTÚNEZ ROCA(スペイン)
Ultraorbism© Marcel・lí Ant únez Roca
作品概要
[ メディアパフォーマンス ]

スペインのバルセロナと英国のファルマスの2つの都市をネットワークでつなぎ、インタラクティブにパフォーマンスを行なう作品である。どちらの都市の会場でもドローイングのための床面、中央に大きなメインのスクリーン、脇に小スクリーンを設置している。メインのスクリーンでは物語が進行し、もう一方の都市でのパフォーマンスを反映しながら展開する。小スクリーンは、パフォーマンスの詳細を映しだす。パフォーマンスはサモサタ(現・トルコ)のルキアノス(紀元2世紀のシリア人作家)が書いた最古のSFのひとつといわれる『本当の話』(全2巻)のうちの第1巻に基づいており、神話や当時の文学を参照しつつも、すべてがつくり話の荒唐無稽なストーリーである。この物語は、階層の異なるイメージによって展開していく。一部はリアルタイムのパフォーマンス映像であり、そのほかはあらかじめ蓄積されたイメージである。それらが重ね合わされた映像によって物語が紡ぎだされ、音楽や照明もインタラクティブに、物語のイメージに即応している。
Wutbürger
KASUGA (Andreas LUTZ / Christoph GRÜNBERGER)(ドイツ)
Wutbürger© Andreas Lutz, Christoph Grünberger
作品概要
[ 映像インスタレーション ]

本作は、あるドイツ人男性の個人的な怒りや失敗を題材としている。ごく普通の人間である主人公シュテファン・Wは、人生のさまざまな段階を振り返り、最後に現在の困った状況にたどりつくが、そこは脱出できない監禁部屋である。特製の木箱の中で行なわれた5時間にわたるパフォーマンスの録画が、背面からのプロジェクションによって同じ木箱に映しだされる。“Isolation episode(孤独な出来事)”と題されたドイツの国内ツアーでは、この箱はいかにも「市民が怒りそうな」場所、例えば原子力発電所、ヨーロッパ中央銀行、集団監視施設などの前にゲリラ的に設置された。しかしシュテファンは、快楽主義、退屈な郊外、育児放棄についてなどの私的な怒りを叫んでいる。この箱は、あらゆる人のデモ行為や抗議行動を代行しながら、ごく私的な怒りがその人自身に向かったときに何が起きるのかを表現している。
(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合
長谷川 愛
(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合© Ai Hasegawa
作品概要
[ 写真、ウェブ、映像、書籍 ]

実在する同性カップルの一部の遺伝情報からできうる子どもの遺伝データをランダムに生成し、それをもとに「家族写真」を制作した作品。現在の科学技術ではまだ同性間の子どもを誕生させることは不可能だが、遺伝データを用いた推測ならば可能である。遺伝子解析サービス「23andMe」から得ることができるカップルの遺伝データをウェブの簡易版シミュレーターへアップロードすると、できうる子どもの遺伝情報が、外見や性格、病気のかかりやすさなどの情報リストになって出力される。遺伝子研究が進み、もはや同性間の子どもの誕生は夢物語ではなくなろうとしている。しかし、技術的には可能でも倫理的に許されるのか、という議論を通過しなければ実現は難しい。一体誰がどのように、その是非を決定するのか、科学技術に関する意思決定の機会を多くの人に解放するために、アートにはどのようなことができるのか模索する試みでもある。
エンターテインメント部門

大賞

正しい数の数え方
岸野雄一
正しい数の数え方© 2015 Out One Disc
作品概要
[ 音楽劇 ]

本作は、子どもたちのための音楽劇であり、人形劇+演劇+アニメーション+演奏といった複数の表現で構成される、観客参加型の作品である。2015年6月、フランス、パリのデジタル・アートセンター「ラ・ゲーテ・リリック」の委嘱作品として上演された本作は、1900年のパリ万国博覧会が舞台となっている。公演のため日本からパリを訪れた「川上音二郎一座」が、万博のパビリオン「電気宮」に現われた「電気神」が観客にかけた呪いを解くため、「正しい数の数え方」を求めて旅へ出る冒険物語である。
古来から存在する人形劇というアナログな手法と、インタラクティブなテクノロジーが随所で融合し、物語は展開していく。同年に東京で行なわれた公演では、作者率いるバンド「ワッツタワーズ」の生演奏も加わり、より挑戦的な試みが行なわれた。舞台芸術の可能性の拡張に挑んだ意欲的なエンターテインメント・ショーである。

優秀賞

Dark Echo
Jesse RINGROSE / Jason ENNIS(カナダ)
Dark Echo© RAC7 Games Inc.
作品概要
[ ゲーム ]

想像力を拠り所に最小限の要素でプレイする、パズル/ホラーゲーム。暗闇のなかで視覚を奪われたプレイヤーは、危険に満ちた世界を音をたよりに進まなければならない。プレイヤーの発する足音は、画面上で線となって視覚化され、障害物に反射し跳ね返ることで、周囲と自分の位置関係が明らかになっていく。しかし、この作品世界を把握する唯一の手段である足音は、音と魂をむさぼる恐ろしい魔物を呼び寄せ、一歩踏みだすたびに魔物が忍び寄り、気がつけばもう手遅れになる。魔物のたてる音を示す赤い線への恐怖心と闘いながら、80ものステージを切り抜けなければならない。ゲーム内の不吉なサウンドは、サバイバルの緊迫感を効果的に高めており、ヘッドフォンを使うともっともその世界観を体感できる。暗闇のなかを探索し、パズルを解きながら生き残ることが要求される、新感覚のゲームである。
Drawing Operations Unit: Generation 1
Sougwen CHUNG(カナダ)
Drawing Operations Unit: Generation 1Photo: Courtesy of Drew Gurian / Red Bull Content Pool © Created on the occasion of the exhibition: NEW INC Showcase at Red Bull Studios New York July 2015.
作品概要
[ インタラクティブインスタレーション ]

作者と作者が開発したロボットアームが協働して同時にドローイングを行なう作品である。ロボットアームは、天井に設置されたカメラとコンピュータの映像から得られる情報をもとに、人の動きを模倣するように設定されている。その結果、人とロボットが同時に相互の動きを解釈しあうかのようなパフォーマンスが生みだされる。
この作品で作者は、ロボットが人間の振る舞いに同期する訓練をすることで、ロボットの自動化、自律性、人間とロボットの共同制作についてのアイデアを探求している。それと同時に、作者とロボットアームは、このシンプルなドローイング・パフォーマンスを通じて、人間の動きを模倣し、手順どおりに動くロボットによる、偶発性を伴う作画(マーク・メイキング)の可能性を追求している。
Solar Pink Pong
Assocreation / Daylight Media Lab(オーストリア)
Solar Pink PongPhoto: Assocreation © 2015 Assocreation and Daylight Media Lab Partly funded by the University of Michigan Office of Research (UMOR) and the Penny W. Stamps School of Art & Design.
作品概要
[ インタラクティブインスタレーション、 デジタルデバイス ]

ストリートとゲームの融合によってつくられた作品である。このゲームのプレイヤーは自らの身体と影を使って、路上を動くピンク色の太陽の反射光と遊ぶことができる。電柱や建物の外壁に取り付けられた装置は自動で機能するため、プレイヤーに意識されることはない。
この作品は、ゲーム文化と現実の境界をリビング・ルームの外へと拡張し、テクノロジーのレンズを通じて太陽光の見方を変えることを狙いとしている。史上初めて大流行したゲームのひとつである卓球ゲームPongと、五感で感知できる人工現実(アーティフィシャル・リアリティ)という概念を確立したアーティストのマイロン・クルーガーによる作品『Videoplace』を参照、発展させている。だがそれらと異なるのは、太陽光を、コンピュータ制御された色付きの鏡によって、スクリーン上を動くピクセルのように色鮮やかな球として、現実の路上に魔法のごとく出現させたことである。
Thumper
Marc FLURY / Brian GIBSON(米国)
Thumper© 2015 Drool LLC
作品概要
[ ゲーム ]

この作品は、従来のリズム・アクション・ゲームにスピード感と身体感覚を結合させた「リズム・バイオレンス・ゲーム」である。「宇宙甲虫」となったプレイヤーは、轟くドラム音と不気味なシンセサイザーの爆発音とともに、曲がりくねったレールをひたすら疾走する。そして、シンプルな操作で障害物をよけ、サイケデリックな怪物を倒していく。ゲームの動作とビートを合わせる仕組み自体は目新しいものではないが、映像と音響効果がぴったりと一体化しているため、一挙一動が猛スピードにさらわれる感覚と荒々しい身体感覚を呼び起こす、まったく新しい「リズム・バイオレンス」の興奮を生みだしている。
ゲームの世界に属する音とその外側の音(効果音)という従来の関係を打破しながら、自動生成やアルゴリズムによる作曲法から発想を得て、「異界のミュージック・コンクレート」ともいうべき音が奏でられている。
アニメーション部門

大賞

Rhizome
Boris LABBÉ(フランス)
Rhizome© Sacrebleu Productions
作品概要
[ 短編アニメーション(11分25秒) ]

圧倒的な緻密さと極端な構図で展開される短編アニメーション作品。最小単位から無限に生成される世界は宇宙そのものであり、変容を続けるすべての要素が相関し、影響しあっている。
タイトルは、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズと精神科医フェリックス・ガタリの共著『千のプラトー』(1980)で複雑に展開されるリゾーム(Rhizome)の概念からつけられている。本作では、そのリゾームの原則を網羅しながら、生物学的な意義と哲学観の考察が試みられている。作者によれば、スティーヴ・ライヒの音楽のコンセプトとエッシャーの数学的な作品、そしてボッシュやブリューゲルの絵画と、遺伝学のような生物の進化に関する理論やミクロとマクロの関係などの要素の間に生まれてくるような何かをつくりたいと考えるなかで、このドゥルーズ=ガタリの概念が頭に浮かび創作につながったという。若い作者の興味と欲求を具現化した独創的な作品である。

優秀賞

花とアリス殺人事件
岩井俊二
花とアリス殺人事件© 2015 “the case of hana&alice” Film Partners
作品概要
[ 劇場アニメーション(1時間39分) ]

実写映画のつくり手として広く知られる作者の初の劇場用長編アニメーション作品である。作者が監督を務めた実写映画『花とアリス』(2004)制作直後から構想が立てられた本作は、当時と同じキャストが集められ、プロローグとなる荒井花(通称:ハナ)と有栖川徹子(通称:アリス)の2人の出会いのエピソードが語られる。転校してきた中学3年生のアリスは、「1年前、3年2組の教室でユダが4人のユダに殺された」という噂を聞く。さらに、アリスの家の隣が「花屋敷」と呼ばれて恐れられていることを知る。花屋敷に住む引きこもりの同級生ハナとアリスの、「ユダ」をめぐる「世界で一番小さい殺人事件」の謎を解く冒険が始まる。実写で撮影した動画をもとにアニメーションとして描き起こす制作技法「ロトスコープ」と、セル画で制作されたアニメの質感を追求する「セルルック3DCG」の手法を組み合わせた映像によって、小さな出来事の瞬間瞬間を真剣に受け止め、悩み、そして笑う少女たちの心情をコミカルに描きだしている。
Isand (The Master)
Riho UNT(エストニア)
Isand (The Master)© 2015 OÜ Nukufilm
作品概要
[ 短編アニメーション(18分00秒) ]

一軒の家で、ある日を境に戻らなくなった主人(Master)の帰宅を待つ犬のPopiと猿のHuhuuを描いた短編アニメーション。Huhuuは最初、檻に入れられていたが、そこから出ることに成功すると2匹の共同生活が始まる。Popiは、実際はHuhuu以上に賢く強いのだが、従順かつ恭順な性格の持ち主であることから、Huhuuの気まぐれの前に屈服してしまう。そのHuhuuは愚かなまでに自由奔放な性格で、部屋の中を好き放題に散らかしてしまう。本作の原作は、エストニアの作家フリーデベルト・トゥクラスの短編小説『Popi and Huhuu』(1914)である。コマ撮りによるリアルなパペット・アニメーションである本作によって、作者は権力の恐ろしさと愚かさを問いかけ、権力とは何かを究明しようと試みている。われわれの主人とはどのような者か。もしその主人の性質や行動がHuhuuと似ているとしたら、その結果はどのようになるだろうか。動物らしい「動き」が巧みに表現されているだけでなく、強いコンセプトが描かれた作品。
My Home
NGUYEN Phuong Mai(フランス)
My Home© Papy3D Productions
作品概要
[ 短編アニメーション(11分54秒) ]

物語は、片田舎で7歳の少年Hugoと母親の2人が暮らしているところに、ある日、鳥の頭を持つミステリアスな男が家族に加わることから始まる。Hugoは、母親との2人だけの世界に突然現われたこの見慣れない鳥男のふるまいや習性に戸惑いを覚えるが、母親は違和感なく接しており、Hugoの不安や憤りは募っていく。そしてHugoは鳥男に対する探究心から行動を起こし、そこで現実と夢のあいだ、人間性と動物性のあいだを目のあたりにすることになり、幼年期から大人の世界へと一歩を踏みだす。本作はHugoの視点で描かれているため、鑑賞者は彼の目を通して物事を経験し、彼に感情移入しながら、この突然の変化に巻き込まれていくことになる。美しさと醜さのあいだという独特な観点から、鑑賞者にも馴染み深いイメージや感情を用いながら、家族の再構成が描かれた作品。また、全編を通じてセリフは用いられず、静謐さを持った作品に仕上がっている。
Yùl and the Snake
Gabriel HAREL(フランス)
Yùl and the Snake© 2015 Kazak Productions
作品概要
[ 短編アニメーション(13分11秒) ]

作者が南フランスで過ごした少年時代の体験をもとに発想された成長物語。13歳の少年Yùlは、兄Dinoに連れられて、兄が取引をする大きな番犬を連れた地元の暴君のMikeのもとへと行くが、そこで暴力と屈辱に直面する。そして、Yùlが追いつめられたとき、不思議なヘビが現われる─。作者の短編アニメーション監督第1作目となる本作は、まず俳優の演技による実写映画として撮影され、そのうえで2次元コンピュータ・アニメーションとして制作されている。このようなプロセスによって、構図および登場人物の会話は現実味を獲得することに成功している。モノクロの映像がリアリズムとファンタジーの間を往復しながら、カラーで描かれた物語の核となる部分がこのバランスを強調しており、短編ながら特徴的な作風が作品に広がりを与えている。
マンガ部門

大賞

かくかくしかじか
東村アキコ
かくかくしかじか© Akiko HIGASHIMURA / SHUEISHA
作品概要
少女マンガ家を夢見ていた頃から、夢を叶えてマンガ家になるまでとその後の半生を題材にした自伝的作品。「自分は絵がうまい」とうぬぼれていた高校3年生の林明子は、美術大学入学を志し、海の近くにある美術教室に通うこととなる。そこで出会った絵画教師・日高健三は、初対面で絵画教師とは思えない強烈なインパクトを放ち、明子が描いたデッサン作品を見るなり、竹刀を振りかざして「下手くそ」と言い切った。そこから日高先生と明子、2人の物語が始まっていく─。作者の人生に大きな影響を与えた恩師との数々の思い出とともに、自らの高校生活から大学での生活、そしてマンガ家デビューへの道のりを描く。マンガを「描く」ことへの愛が、個性的なキャラクターたちとさまざまなエピソードを通して表現され、笑いと涙の要素が随所に盛り込まれた作品。

優秀賞

淡島百景
志村貴子
淡島百景© Takako Shimura 2015
作品概要
「女性だけの歌劇学校」というひとつの場所に集まり、同じ時間を共有した少女たちのかけがえのない青春の日々が、人物の視点を変えて、時には時代を超えて、オムニバス形式でつづられた青春群像劇。淡島歌劇学校合宿所、通称“寄宿舎”には、舞台に立つことを夢みる少女たちが全国から集まってくる。ミュージカルスターに憧れて入学した田畑若菜、親友の思いを背負って学び続ける寮長の竹原絹枝、周囲の視線を集める美しき特待生の岡部絵美、女優一家に育ちながらも教師の道を選んだ伊吹桂子。歌劇学校という特殊な空間は、胸いっぱいの憧れをかかえた少女たちがともに憩う場であると同時に、年端もいかない生徒同士の苛烈な闘いが繰り広げられる場でもある。たゆまぬ努力が実り、才能が花開く場であり、残酷な現実が少女の前に立ちはだかる場でもある─。透明感あふれる絵柄と心理描写から、登場人物の内面が繊細に紡ぎだされている。
弟の夫
田亀源五郎
弟の夫© TAGAME Gengoroh / Futabasha
作品概要
同性婚をテーマに、一般社会のなかでのゲイを描いた作品。弥一と夏菜、父娘2人暮らしの家に、マイクと名乗る男がカナダからやって来た。彼は、弥一の双子の弟・涼二の結婚相手だった。涼二はカナダでマイクと同性婚をし、その後亡くなったのだった。「パパに双子の弟がいたの?」「男同士で結婚ってできるの?」と幼い夏菜は、突如現われたカナダ人の“おじさん”マイクに大興奮、たちまち意気投合し仲良しになる。一方の弥一は、しばらく日本に滞在することになったマイクと一緒に暮らすうちに、自身のなかにあった偏見に気づいていく。そして、成長とともに自然と距離ができてしまった亡き弟・涼二への想いを深めていくことになる。海外でも高い評価を得ている作者による初の一般誌連載作品である。
機械仕掛けの愛
業田良家
機械仕掛けの愛© Goda Yoshiie / SHOGAKUKAN
作品概要
“心”に似た機能を持つロボットたちが、近未来の地球各地で織りなすさまざまな寓話からなるオムニバス集。持ち主に飽きられたロボットの女の子が、愛された記憶を頼りに“お母さん”を捜す「ペットロボ」、人間の遺言で自由を手に入れた介護ロボの苦悩を描く「介護ロボ広沢さん」、思い出を託された執事ロボが、主人との約束を果たすために選んだ道を追う「リックの思い出」など、人間のために働くロボットたちを軸に、物語は展開される。
街にたたずむ自販機ロボ、本を愛する刑事ロボなど、プログラムされた機能を果たしているだけの彼らは、その純粋な“機能”をもって、人間たちに語りかける。これまで「人生に意味はあるか」「人間の想いは永遠であるか」などのテーマを描いてきた作者が、ロボットの営みを通して「人間とは何か」「“心”とは何か」を表現した作品である。
Non-working City
HO Tingfung(ポルトガル)
Non-working City© Garden City Publishers
作品概要
台北市のどこかにあると噂される架空の都市「Non-working City」を描いたマンガである。そこは仕事も競争もない、自足したパラダイスで、すべてが信じられないほど美しい。毎月決められた人数だけその都市に入ることができるが、正確な入口を把握している者はいない。そんな「Non-working City」に、借金に苦しむカップルが期せずして入り込む。彼らはそこで、運動エネルギーを都市を機能させる電気エネルギーに変換できるエクササイズ・マシンなどを目にし、仕事だけがサバイバルの方法ではないことに気づかされる。「Non-working City」の風景は、「桃源郷」の由来となった中国の散文作品『桃花源記』の描写を参考にしながら、現実の台北市と仮想都市が結びつけられて描かれている。本作では、機械化時代の到来以来、人々が夢見続けてきた「労働のない社会」が描かれる。機械的な都市、資金分配の不平等性、現代の社会的権力構造に光をあてた作品である。
各部門 新人賞・功労賞

アート部門 新人賞

作品名 [ 作者名 ]
算道 [ 山本一彰 ]
Communication with the Future – The Petroglyphomat [ Lorenz POTTHAST ]
Gill & Gill Louis-Jack [ HORTON-STEPHENS ]

エンターテインメント部門 新人賞

作品名 [ 作者名 ]
ほったまるびより [ 吉開菜央 ]
Black Death [ Christian WERNER / Isabelle BUCKOW ]
group_inou 「EYE」 [ 橋本 麦/ノガミ カツキ ]

アニメーション部門 新人賞

作品名 [ 作者名 ]
台風のノルダ [ 新井陽次郎 ]
Chulyen, a Crow’s tale [ Agnès PATRON / Cerise LOPEZ ]
Deux Amis (Two Friends) [ Natalia CHERNYSHEVA ]

マンガ部門 新人賞

作品名 [ 作者名 ]
エソラゴト [ ネルノダイスキ ]
たましい いっぱい [ おくやまゆか ]
町田くんの世界 [ 安藤ゆき ]

功労賞

名前
飯村隆彦(映像作家/批評家)
上村雅之(ハードウェア開発者/ビデオゲーム研究者)
小田部羊一(アニメーター/作画監督/キャラクター・デザイナー)
清水 勲(漫画・諷刺画研究家)
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