結果発表
2023/12/08 10:00

2023年度グッドデザイン・ニューホープ賞

応募作品数:415点
受賞作品数:8点(入選を除く)
主催:公益財団法人日本デザイン振興会

最優秀賞

代替を超えるバイオ素材 ─ 生えるおもちゃMYMORI
項 雅文(武蔵野美術大学 造形構想学部 クリエイティブイノベーション学科)
代替を超えるバイオ素材 ─ 生えるおもちゃMYMORICategory:仕組みのデザイン
作品コメント
バイオ素材の現状を見直し、他素材の代替品としない未来の在り方について考えた。3歳から10歳までの子供向けに、家で育てるキノコの菌糸体を素材にしたおもちゃキット「MYMORI」を制作した。キットを利用する体験が能動的なものづくりに繋がり、未来の生活様式へのリードを目指す。
審査コメント
キノコの菌糸体を素材にしたおもちゃを自分でつくるキットは、遊ぶための素材づくり自体が遊びとなっている。バイオ素材を身近に感じながらその可能性を学ぶことができるという体験から得られる「意識の変容」をゴールとした点を特に高く評価したい。作者はバイオ素材の開発が既存素材の代用ばかりとなっている現状を軽やかに批判しており、新しい視点で思考ができるデザイナーである。その反骨的な視点と、未来の生活様式をデザインしようとする革新的なアウトプットに敬服する。

優秀賞

MOVEAR
川瀬寛人(日本大学 芸術学部 デザイン学科)
MOVEARCategory:物のデザイン
作品コメント
ペットの車椅子は、主に身体的な欠陥を補う目的で用いられるプロダクトである。今まで当たり前に行えていた行為ができなくなることは、それだけで多くのストレスを感じてしまう。この提案は、3Dプリンターを活用することで、車椅子生活で感じる無意識下のストレスを軽減し普段着のように着用することで、車椅子にポジティブな印象を与える。
審査コメント
ペットが日常の生活で自由に動けなくなる状況は、飼い主にとって心情的にも辛いことだが、同時にそれを受け入れて負担を減らしてあげることも考えなければならない。本提案はこの難しい局面を、飼い主家族である自らが、デザイナーとしての創意工夫でペットの生活の品質に向き合い合理的な解決策を提供している。自分の気持ちや願いを言葉で伝えることができない対象に、感情移入しながら試行錯誤することで、彼らの反応を理解し、より良い状況を築いていくプロセスに感銘を受けた。
interactive liquid
新井 律(千葉大学大学院 融合理工学府 創成工学専攻 デザインコース)
interactive liquidCategory:物のデザイン
作品コメント
まるで生命体のように鼓動をし、意思を持ったかのように動き回る黒い液体。指を近づけると逃げるように動き「自律性」や「対話性」を感じさせる。効率や合理性を重視し設計されることが一般的であるユーザインタフェースを、より情緒的で面白く、楽しい「PLAY」なものにする方法を模索し、磁性流体を用いて制作したインタフェースモデル。
審査コメント
インタフェースをただの道具や手段だけでなく、使ってみたい、触れてみたいと思わせる不思議な魅力にあふれたデザインである。「USEをPLAYに」というテーマが非常にわかりやすく表現されており、すっと腑に落ちる。今回の提案は実験的であるが、今後どのように実装されるかが楽しみになるデザインである。
機械と人の大樹 ─ アキバ的精神のアイロニー ─
小村龍平(東京理科大学大学院 工学研究科 建築学専攻)
機械と人の大樹 ─ アキバ的精神のアイロニー ─Category:場のデザイン
作品コメント
人の暮らしは様々な機械に支えられているが、その存在は見えない。インフラ施設を〈幹〉とし、人のためのスラブを〈葉〉としたとき、雑多性が〈実〉る「大樹」が都市に実現する。失われつつある秋葉原の魅力と現代都市の課題を顕在化させたこの建築は、機械と人の関係性を再考し、お互いの生命を蘇らせる象徴としてこの地に聳え立つ。
審査コメント
インフラは、人々の生活を支える重要な社会資本として整備されてきたが、その多くは、私たちの生活の中で意識化されることはない。そのインフラを都市の中であえて可視化し、それらをつなぐために重厚長大な床を作り、人々の生活が自由に展開できる場を秋葉原に提案している。そのインフラが床の此処彼処に副次的に生み出す環境との応答関係の中で、偶発的に生起する多彩な活動こそ秋葉原的なものであるとする都市のイメージは、実に鋭い。また美しいドローイングが描く未来は、どこか懐かしさも漂い、魅力的だ。昨今の均質な再開発に対する異議申し立てとしても、力強い。
首都高を編み直す~都市・水・記憶のノードをうむ近代インフラの発展的継承~
佐倉園実(芝浦工業大学大学院 理工学研究科 建築学専攻)
首都高を編み直す~都市・水・記憶のノードをうむ近代インフラの発展的継承~Category:場のデザイン
作品コメント
首都高の都市における水脈との関連性に着目して、解体予定の首都高の部材を周辺の都市開発に対応しながら、都市の新たな水上拠点として再構築することを提案した。都市開発の中で見落とされてきた、人と都市の記憶、都市の水辺の関係を首都高がつなぎ、首都高が「都市・水・記憶のノードをうむ近代インフラ」として再解釈できることを示す。
審査コメント
これまでの再開発は敷地内外の関係性を切断し、既にある風景を白紙に戻し一から建設することで経済的発展を遂げてきた。本提案はクリアランスでもなければ単純な保存とも異なる。首都高を残す決定をした上で、マテリアルの転用によりこれからの都市風景を魅力的に提示している点を評価したい。また、首都高の特徴でもある横断的なスケールを利用し、これまでの都市計画において分断されてきた都市、交通、建物など異なる領域を関係づけようとする姿勢も素晴らしい。
Loglee ─ 塗り薬情報記録デバイス ─
兵藤 遥、中橋侑里
Loglee ─ 塗り薬情報記録デバイス ─Category:情報のデザイン
作品コメント
薬の容器を置くだけで、その薬の種類と塗った時間・量をセンシングしてWeb上に記録するデバイス。ターゲットである皮膚疾患を持つ子どもは、親子で作ったオブジェクト(花の部分)がログ完了時に揺れることで、薬を塗る行為を楽しむことができる。また、医者はそのログから患者の自宅での治療状況を正確に把握できる。
審査コメント
ユーザーとの対話と観察を通してリアルな課題をあぶり出し、プロトタイピングと検証を繰り返し課題と向き合うことをやり切った素晴らしい取り組み。その結果生まれた、楽しみながら手間いらずに課題を解決する微笑ましいデザインも素敵だ。センシングの精度を含むプロダクトの完成度を高めれば、社会実装も間近のはず。どう継続して使い続けてもらうか、どんな仕組みがあれば経済的に成り立つかも考え、ユーザーに届けてもらいたい。
死んだ母の日展
中澤希公、前田陽汰、佐々木雅斗
死んだ母の日展Category:情報のデザイン
作品コメント
死んだ母の日展は亡き母に想いを届ける母の日の新しい過ごし方である。特設サイトから天国のお母さん宛に手紙を綴り、匿名で展示する。戸籍上の母に限らず、自身が母と認める方宛に手紙を書くことも可能。様々な背景を持つご遺族の手紙を読み合う中で、当事者同士、悲しみとの付き合い方を模索することができる。
審査コメント
当事者ならではの企画である。大切な人の死や悲しみとの向き合い方に対して、同じ境遇を持つ人と思いを分かち合える場をつくり、そこに誰でもハードル低く参加できるように細部まで上手にデザインされている。500人以上の遺族の方々へのインタビューや、のべ1500人の参加という実績も評価したい。「死んだ母の日展」という企画の名称や、リアルの場で白いカーネーションを道行く人に配布する企画など、賛否はあるかもしれないが、思わず息を吞む、気付きを与えるデザインも巧みである。
まちに擬態したいAI
坂倉康太、加藤 優、羽田知樹
まちに擬態したいAICategory:仕組みのデザイン
作品コメント
人々が持つまちらしさを「よわいAI」を通じて可視化し、都市とAIの関わりを模索した。「よわいAI」とは、会話の不自然さや外見の不完全さなどを通じて、AIが体験者の偏愛や特異な要素を明示化する仕組みを指す。1カ月かけて人々のまちらしさを収集し、そのデータを元に街の写真を生成、データの蓄積・可視化をした実践型プロジェクト。
審査コメント
効率や利便性を優先した都市開発により、「まち」は均質化され、人は町に愛着を持たなくなり、人の繋がりも希薄になっている。現代のまちが抱える共通の課題に対して、あえて出来損ないの「よわいAI」が街に擬態しようとする過程で様々な副産物を生み出してゆく。この「よわいAI」は地域を愛する人や繋がりを求めていた人を顕在化し、解決の糸口を創出することに成功している。とにかくこの教科書どおりでは辿り着けない独創的なデザインに多くの可能性を感じた。これが何であるかを解き明かしたい。これぞニューホープ!
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