結果発表
2022/10/31 10:00

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭 2022 コンペティション作品募集

応募作品数:935点
受賞作品数:9点(国際コンペティション:4点/国内コンペティション:5点)
主催:埼玉県、川口市、SKIPシティ国際映画祭実行委員会、特定非営利活動法人さいたま映像ボランティアの会
国際コンペティション

最優秀作品賞

揺れるとき(フランス)
サミュエル・セイス
作品コメント
厳しい現実社会に、繊細な少年は抗えるのか?
子どもの視点で捉えた重厚なドラマ。
10歳のジョニーは東フランスの貧しい地域で、シングルマザーの母と二人の兄妹と共に暮らしていた。敏感で賢い彼は様々な物事に関心を持つが、ある日、都会から赴任してきた新任教師に心惹かれてゆく。
審査コメント(一部抜粋)
カンヌ映画祭批評家週間でプレミアされた本作は、多感で敏感な少年の成長や恋の目覚めを主題としているが、ヤングケアラーやLGBTQの子どもの問題といった現代的なテーマも盛り込まれ、強い余韻を残す作品となっている。本国では「Drôle de famille!」などのTVシリーズで俳優として知られるサミュエル・セイスは、名門フランス国立映画学校フェミスで監督した短編「Forbach」(08)がカンヌ映画祭シネフォンダシオン第2席、クレルモン=フェラン国際短編映画祭ではグランプリを受賞。長編デビューを飾った、マリー・アマシューケリ、クレール・ブルジェとの共同監督作品「Party Girl」(14)は、カンヌ映画祭ある視点のアンサンブル賞、そして最優秀新人賞に当たるカメラドールを受賞した。
メッセージ
私たちは皆、出生時から社会的判断によってレッテルを貼られています。首尾よく逃れられる人もいますが、だからといって決定論を阻止する手立てにはなりません。本作で“離れること”の必要性を探ってみたいのです。

監督賞

マグネティック・ビート(フランス、ドイツ)
ヴァンサン・マエル・カルドナ
作品コメント
魂のビートを刻め! 冷戦下の80年代、
ラジオ放送に青春を懸けた若者たちのドラマ。
ブルターニュ地方の田舎町で、無許可のラジオ放送に没頭する兄弟。兄のジェロームはそのカリスマ性を活かしたDJ、弟のフィリップは技術面を担っていた。しかし徴兵のため、フィリップは西ベルリンへ渡ることになる。
審査コメント(一部抜粋)
冒頭のミッテラン大統領の選挙勝利に歓喜する若者たちのシーンから、冷戦下の西ベルリンの様子、あるいは、一人の女性と兄弟との三角関係…。時代設定だけでなく、物語や映像も映画の王道とも呼べる、どこかレトロな佇まいが特徴の青春ドラマを監督したのはヴァンサン・マエル・カルドナ。名門・フランス国立映画学校フェミスの卒業制作「Coucou-les-Nuages」(10)がカンヌ映画祭シネフォンダシオンの第2席を獲得し、長編デビューとなった本作では、2021年の同映画祭監督週間でフランス語映画の中から選ばれるSACD賞を受賞したほか、見事セザール賞では新人監督賞を受賞した。俳優陣では、弟フィリップを演じたティモテ・ロバールは、本作でセザール賞有望若手男優賞にノミネートされた。
メッセージ
本作は共同脚本で作ってみたいという思いから始まりました。最初に私が敬愛する同世代の脚本家たちを集めました。ロマン・コンパン、クロエ・ラルーシ、マエル・ル・ガレ、カトリーヌ・パイエ、ローズ・フィリッポン。1980年代の初期に生まれた人たちです。私たちが生まれた世界が、デジタル革命によって、どれほど夢のような別世界に変貌したのかを探りたかったのです。時代の流れの中で私たち自身がどう変わったのかを見つめるために。

審査員特別賞

UTAMA ~私たちの家~(ボリビア、ウルグアイ、フランス)
アレハンドロ・ロアイサ・グリシ
作品コメント
命が終わりを迎えるその日まで、
私たちはこの地で生き続けてゆかなければならない…。
ボリビアの高地にある小さな村では、ケチュア族の老夫婦ビルヒニオとシサが何年もの間、ラマと共に穏やかな日常を送っていた。そんな折、村は未曾有の干ばつに見舞われ、二人の平和な生活にも危機が訪れる。
審査コメント(一部抜粋)
標高4000mを超える土地もある、ボリビアの広大な高原。干ばつに見舞われ、ひび割れた大地の映像だけでも、この土地で生きることの過酷さが伝わってくる。また、国の正式名「ボリビア多民族国」が示すとおり、言語も異なる先住民たちが、今でも自身のルーツに従って生活していることも、作品から感じ取ることができる。今年のサンダンス映画祭ワールドシネマ・ドラマティック部門でグランプリに当たる審査員賞を受賞した本作は、ボリビア生まれのアレハンドロ・ロアイサ・グリシの長編デビュー作。撮影監督としていくつかの作品に関わってきた彼が自ら脚本も書いている。
メッセージ
私が生まれ育ったボリビアのラパスは、地理的に近いアルティプラノからアイマラ族の移民を長く受け入れてきました。私たちの街、信念、生き方は、スペインとアイマラの文化が共存することによって、強く特徴づけられてきたのです。しかし、このような歴史があるにも関わらず、気候変動の最初の深刻な被害者がわずか数キロ先にいることを認識している市民はほとんどいません。気候変動がもたらす被害を理解するには、私たちの身近で、今も辺境の地に暮らし、自分たちの生活様式が失われる苦しみに直面している人々の視点から物語を語ることが不可欠だと、私は考えています。そうすることで自分たちの生活が引き起こす副次的被害に思いを巡らし、ラパス(そして同じような状況下にある都市)に暮らす者の役割を見つめ直すことができるのです。

観客賞

彼女の生きる道(フランス)
セシル・デュクロック
作品コメント
息子のためなら、この身体さえも差し出す!
気丈な女性の生き様を讃えた人間ドラマ。
マリーは、娼婦の仕事に誇りを持つシングルマザー。ある時、息子のアドリアンが学校を退学となる。彼女は料理に興味を持つ息子をトップクラスの調理師学校に入学させようとするが、多額の学費が高い障壁となる。
審査コメント(一部抜粋)
自堕落に暮らす息子の幸せをひたすら願い、無償の愛を注ぐ崇高な母の姿に、誰もが胸を熱くすることだろう。逞しいマリーを演じたのは、「My Donkey, My Lover & I」(20)で受賞を果たした昨年に続き、本作の演技で2年連続セザール賞の主演女優賞にノミネートされるなど、現在のフランス映画界を牽引する活躍を見せるロール・カラミー。彼女の魂のこもった演技が、本作の最大の見所である。監督のセシル・デュクロックは、カンヌ映画祭批評家週間で上映され、セザール賞の最優秀短編賞を受賞した、やはりロール・カラミーが主演で娼婦を演じる「Back Alley」(14)や、日本でもフランス映画祭で上映された「世界中がジュ・テーム」(11)など、数々の短編やTVシリーズですでにその手腕が認められている。
メッセージ
マリーは経済的に苦しい身ですが、自由な女性です。学校を退学になり、母親にお金がないからという理由で、息子は自分の将来を選べない運命だという社会的決定論を拒絶する女性です。彼女はそれを受け入れません。だから、彼女は戦うのです。彼女自身の手段で。
国内コンペティション

SKIPシティアワード

Journey(日本)
霧生笙吾
作品コメント
肉体から意識を解放することが可能となった近未来。宇宙飛行士になることをあきらめ地球で働く慶次は、心を病む妻の静と暮らしていた。ある日慶次は新たな宇宙開発の噂を聞き、静は意識のみの存在に憧れを抱き始める。
審査コメント
スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」(68)を筆頭とする、最近ではジェームズ・グレイの「アド・アストラ」(19)などの系譜に連なる哲学系宇宙SF映画に大学の卒業制作で果敢に挑んだのは、今年武蔵野美術大学を卒業した霧生笙吾。眼だけのクローズアップ、夢想世界への導入となるヘッドパッドなど、本作には数々のクラシック作品の影響が見られ、霧生監督が大のシネフィルであることは一目瞭然だろう。また、映画全体に纏われた重厚な近未来感を、監督も参加するCG映像だけでなく、綿密に演出された光と影、あるいは、慶次が清掃業務に従事する一面タイルに覆われた建物や面接シーンの空間設定など、様々な映像言語を駆使して表現している点にも、監督の鋭い感性が表れている。
メッセージ
「Journey」は意識のみの存在になることが可能となった世界を舞台に、隔たれた世代と時間の間で人間の根源的な意識や愛情といった普遍的なテーマを表現したSF映画です。人間が悠久の時間の中の一部に存在し、人生をかけて何に価値を見出し生きていくのかという問いを「旅をすること」と重ねて鑑賞していただければ幸いです。一つひとつ丁寧に撮影をしたカットやスタッフ一同で作り出したシーンをお楽しみください。

優秀作品賞(長編部門)

ダブル・ライフ(日本、中国)
余園 園
作品コメント
一緒に行くはずだったワークショップを夫にキャンセルされた詩織。同僚から代行業をしている淳之介を紹介され、彼女は夫役を依頼。淳之介に満足した詩織は夫に内緒でアパートを借り、彼と疑似夫婦生活を始める。
審査コメント
他人の体に触れ、そこから相手の気持ちを感じ取ることで自分の新たな感情に気づく身体的かつ心理的アプローチが、劇中の疑似夫婦の展開にうまく絡められている本作。監督は、中国の名門・北京電影学院を卒業後、日本に留学し立教大学の大学院に進んだ余園 園。余が万田邦敏教授の指導の下で完成させた本作は、結婚生活に不満を持つ妻の気持ちを、コンテンポラリーダンスや身体ワークショップといった映画では珍しいコミュニケーションツールを使って表現されている。主人公・詩織を演じる菊地敦子は「大和(カリフォルニア)」(16)の宮崎大祐監督の短編「ざわめき」(19)で主演を務める 実力派。彼女が劇中で見せるダンスや手指の動きが揺れる詩織の胸中を想像させ、そしてどこかあどけなさの残る面差しにふと見え隠れする艶やかさが物語に彩りを添える。本映画祭での上映がワールド・プレミアとなる。
メッセージ
「ダブル・ライフ」は初長編として、色々な協力を得ることで実現させることができた。この映画を作る過程で自分自身が主人公詩織のように大きく変化し、成長してきたと思う。「埋めない穴」を持っている役も自分も、他者と触れ合い、そして、満たしてもらう。「ダブル・ライフ」を通じて、皆さんとの触れ合いが生まれることを心から望んでいます。

優秀作品賞(短編部門)

サカナ島胃袋三腸目(日本)
若林 萌
作品コメント
豚の父さん、魚の母さん、かわいい坊やの住みかは魚の腹の中。
今日は何を食べようか。
豚のとん吉は、魚の腹の中で、さかな子に出会い、二人はおたまじゃくしの坊やを授かる。家族は穏やかに暮らしているが、ある日、漂着した果実をとん吉と坊やが口にすることで、彼らの暮らしは一変する。
審査コメント
巨大な魚の中で暮らす豚と魚とおたまじゃくし。一見突飛にも見えるこの設定を生み出したのは、学生時代からMVやCDジャケットデザインなどを手掛け、注目されている若林萌。若林は、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻在籍中の2020年に、その年を代表する映像クリエイターを選出しアーカイブ化する「映像作家100人」に選出されている。魚の腹の中という狭い空間の中で共生する3種の異なる生物が、互いにその違いを非難したり受け入れたりする様は、そのまま人間社会の縮図とも言えよう。アイロニカルなストーリーと、ポップでレトロなキャラクターデザインが絶妙な本作は、2022年5月にドイツ・フランクフルトのニッポン・コネクションでワールド・プレミアされた。
メッセージ
「井の中の蛙」ならぬ「胃袋の中の蛙」を出発点として制作したアニメーション作品です。「様々な価値観が隣り合わせで息づいているこの世界で、相手の大切なものをたとえ理解出来ずとも、尊重することができたらいいな」と考えながら作りました。楽しんでご覧いただけたら嬉しいです。

観客賞(長編部門)

ヴァタ ~箱あるいは体~(日本、マダガスカル)
亀井 岳
作品コメント
それは、遠い地で骨となった少女を故郷へと還す旅。
全編マダガスカル撮影の異色作。
マダガスカル南東部の小さな村。長老が男たちを集め、出稼ぎの地で亡くなった少女ニリナの遺骨を持ち帰って来るよう伝える。その命を受け、ニリナの弟タンテリと三人の男たちは、楽器を片手に旅に出る。
審査コメント
冒頭から、映画には独特な時間の流れが存在し、そのリズムに慣れると、まるで自分たちがマダガスカルの村にいるかのような錯覚に陥ってくる、そんな不思議な作品である。そして、村の人々の営みには常に音楽と歌が溢れ、川のせせらぎや虫の音なども相まって、とても心地よい。監督の亀井岳自身、マダガスカルの音楽を題材としたドキュメンタリー「ギターマダガスカル」(14)の制作に際しては、「マダガスカルで音楽と表裏一体の死生観に出会い、人と自然を超えていく生命の連鎖がテーマになった」と語っているが、ドラマ作品となる本作においても、このテーマがしっかりと息づいている。また、マダガスカルの神秘的かつ土着的風景を余すところなくカメラに捉えた、小野里昌哉とナビの力強い映像も大きな見どころとなっている。
メッセージ
前作の撮影時、マダガスカル南東部で骨を運ぶ人たちと出会った。その後、どうしてもそのことが忘れられず、2016年、再び彼らが歩いていた場所を訪れた。マダガスカルでは、人生は永遠に続き、死はその通過点に過ぎないと言う。今を生きる私たちにとって、未来、あるいは過去とは何なのか。「ヴァタ ~箱あるいは体~」の構想は、彼らと出会った道の上から始まった。

観客賞(短編部門)

ストレージマン(日本)
萬野達郎
作品コメント
職も家も失った男が行き着いたところはトランクルーム。
隣からの声、聞こえますか?
自動車工場の派遣社員・森下は妻と娘の三人暮らし。しかし、コロナショックで派遣切りにあい、職を失ってしまう。妻からは離婚を、会社からは社宅の立ち退きを迫られ、仕方なくトランクルームで生活を始める。
審査コメント
人が住むことを禁止されている密室空間であるトランクルームを舞台に、コロナ禍の閉塞感を描き、設定自体にダブルミーニングを持たせている本作。食事やトイレのシーンなど目を疑いたくなるような悲惨な状況も、経済情報メディア・NewsPicksやNHKワールドの経済番組で演出を担当してきた萬野達郎監督だからこそ、リアルさを追求したのであろう。また、本作で主演を務めた連下浩隆はプロデューサーとしても参加。夫に未練を残しながらも父親に言われるがままに離婚をしてしまう妻役の瀬戸かほは、トランクルームで森下に迫る住人と、全く異なる性格のキャラクターを一人二役で挑戦している。また脇を固めるキャスト陣には「47RONIN」(13)をはじめ日米両国で活躍する米本学仁や、渡辺裕之らが名を連ね、声優として古坂大魔王も参加している。本映画祭での上映がワールド・プレミアとなる。
メッセージ
新型コロナウイルスの感染拡大は、それまでの人々の暮らしを一変させました。今なお、多くの方々が経済的な困窮に苦しんでいます。コロナにより全てを失った主人公が、もう一度立ち上がる姿を描くことで、貧困や格差社会に苦しむ人々の心に、少しでも「希望の火」を灯せればと願っています。
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