結果発表
2020/12/25 10:00

CREATIVE HACK AWARD 2020

応募作品数:295点
受賞作品数:8点
主催:WIRED(コンデナスト・ジャパン)

グランプリ

蝉の声、風のてざわり
崎村宙央
作品コメント(一部抜粋)
これは、高校生の私が、等身大の自分を投影した短編アニメーション作品です。

日本では、年々多くの子供たちが学校へ行くことを拒否しています。不登校と言われる現象です。文部科学省の統計によれば、平成30年度の不登校生徒の数は、小学校で4万4841人、中学校で11万9687人、高校では5万2723人であり※、合わせれば20万人を超えます。この数は増加傾向にあり、小・中学校における不登校児童生徒数は平成10年度以降最多となっています。

※文部科学省(2019) 平成30年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要

作品を監督した私自身も不登校であった経験があります。原因を一概には言えませんが、地方の進学校特有の、成績で自分の価値が決まるような価値観や人間関係に悩まされたというのも大きかったと思います。
審査コメント(一部抜粋)
映像だけで観れば高校生らしい粗削りな瑞々しいものではあるのですが、それが「ハックアワードでのグランプリをとった」ことの意味をよく考えてほしいなと思います。最初は崎村さんの不登校の経験や内面の葛藤があり、その世界をぶち壊すという意味で文化祭に向けてつくった作品だったとプレゼンテーションで言っていました。でも結果的に、その制作過程や作品への他者からのリアクションやフィードバックを通じて「自分はこれでいいんだ。世界は悪いところじゃない」という折り合いをつけられたと。そのストーリー自体が祝福されたもので、幸福な作品なのではないかと思っています。リアルな高校生の内なるものを表に出して表現し、それをわれわれのような外の人間が受け取るということが、美しい物語だなと感じました。表現しようと思った日から、制作は大変だったと思うし、葛藤もあったと思います。(笠島久嗣)

準グランプリ

https://histpedia.org/
加治屋弘樹、伏屋 楓
作品コメント(一部抜粋)
「https://histpedia.org/」は、ユーザーが入力したウィキペディアの項目を映像のように表示するWebサイトです。

ウィキペディアは、誰でも編集できるオンライン百科事典です。2019年のwikipedia.orgの月間アクセスは約47億回(※1)とも言われ、誰しも1度は利用した経験があるのではないでしょうか。

※1:https://www.visualcapitalist.com/ranking-the-top-100-websites-in-the-world/
2019年8月7日 - 2020年9月14日閲覧
審査コメント(一部抜粋)
すごいハックやなと感動しました。この世の中に静的なものは何一つとしてなくて、すべて動的なものです。でも、僕らはとかく固定的な概念やファクトを欲しがる傾向にあります。ようやくファクトが固定されてしまう紙の百科事典から、Wikipediaのように容易に編集できて誰もが加担できるものが生まれたにもかかわらず、加治屋さんたちがおっしゃったとおり、ネットは常に新しいものしか注目をしません。そのなかでこの作品は、そこに時間軸を流すことによってWikipediaを物語にし、見る人にその内容をファクトではなくコンテキストとして伝えられるようになりました。これによって、そこに書かれた現象について最も客観性に近い状態で伝えることに成功しているんじゃないかと、僕はびっくりしました。(塩田周三)

特別賞

#O24U
石北直之
作品コメント(一部抜粋)
2020年、新型コロナウイルスパンデミックで人工呼吸器の世界的な供給不足が深刻な問題となり3Dプリンターが注目された。設計図データさえあれば、どこでも人工呼吸器製造が可能と期待され、さまざまなプロジェクトが立ち上がった。ただ、いずれも手動の人工呼吸用バッグをロボットアームで押す類のアイディアで、簡単な部品は造形できても、電子部品の調達、プログラミングや組み立てが別途必要で、加えて安全性や耐久性にも大きな課題があり、実用性に乏しいものばかりだった。

われわれは、2013年から3Dプリントで製造可能な医療機器の開発を開始し、2017年1月に人工呼吸器の設計図データを国際宇宙ステーションへデータ転送し、宇宙ステーション内で製造し、動作させるプロジェクトを成功させた。この実績を基に、2020年3月18日「COVIDVENTILATORプロジェクト」を立ち上げた。
審査コメント
人工呼吸器はコロナ禍でいちばん大事な道具の一つですが、それを3Dプリンターを使って誰でもつくれるようにしたという点は素晴らしいと思います。ただ受賞の理由はそれだけではなく、このプロジェクトが有名になることによって医療機器に関するさまざまな法律や規制、ルールも変えていけるのではないかという期待も込めています。ぜひどんどん発展させていってください。(佐々木康晴)
Hack our Protest
成田 敬、藤嶋咲子、五十嵐優作、髙橋香緒理
Hack our Protest
作品コメント(一部抜粋)
「Hack our Protest」プロジェクトは、時間、場所、身体の制限を受けてきた「デモ」を、デジタル技術により解放します。小さな声を広く届ける手段を作り、情報共有や議論から意見を醸成する場を作り、リアルなデモを超える実効力を生み出します。

子育て、学校、仕事、身体的不自由、国境、そしてコロナ禍。一カ所に多くの人が集まることは益々難しく、実空間で人が集まるデモは、誰もが声をあげられる有効な手段ではありません。また実空間で起こるデモでは、小さな声が吸い上げられることは少なく、誰とも繋がることもなく消えてしまいがちです。一方、現代のネット空間に声は溢れても、実空間デモの持つ熱量や連動感には及んでいません。情報を共有し、考えて意見を醸成できる場もないため、バラバラな呟きは、実世界での実効力に届きません。
審査コメント
2020年はいろいろな方向でDXが進んでいますが、この取り組みによって、デモやプロテストをDXするとはどういうことなのかを考えさせられました。2020年は米国大統領選挙を始め、政治に対するソーシャルメディアの力が大きなうねりを起こしています。そのなかで面白いなと思ったのは、このプロジェクトが単にソーシャルメディアのプラットフォーム上で「いいね」やリプライをするだけでなく、レンダリングを使ってそうした意見を3D空間に戻していることです。そこに、ハックアワードらしい投げかけを感じました。(齋藤精一)
Uber Existence
花形 槙
作品コメント(一部抜粋)
2020年春、僕は、Uber Eats配達員の仕事をしていた。コロナ自粛で、誰しも外へは出たがらず、仕事は忙しかった。ひっきりなしに来る配達リクエスト。5秒以内に受けなければ他の配達員に仕事がわたる。仕事を受けて初めてピックアップする店の場所が分かり、そこで食事を受け取ると初めて配達すべき場所が明かされる。すべてはアルゴリズムの仰せのまま、アプリの指し示す場所へとひたすらに移動する。まるで配達報酬によって操作される機械のようだ。

この状況は加速し、その数カ月後、外出しない利用者のために食事だけでなく「存在」そのものを外注してしまうサービス、「Uber Existence」が始まった。

興味を惹かれた僕は、Webサイト(https://www.uberexistence.com/)を訪れると、Uber Existenceパートナー(アクター)たちが、商品としてずらりと並んでいた。
審査コメント
いまの時代のテレイグジスタンスってなんだろう、ということを考えさせられる作品でした。これからも作品として人の存在意義や権利について投げかけていくとおっしゃっていましたが、それはぜひ続けていただけたらと思います。僕個人として、この作品を通じて「自分の存在をハックされることが楽しいと思うこともあるんじゃないか」という気づきもありました。活動を止めることなく、ぜひバージョンを増やしながら実証を続けていただけたらと思っております。(齋藤)

ソニー賞

Syrinx
竹内雅樹、Ahn Jaesol、Lee Kunhak、小笠原佑樹、荒木瑞己
作品コメント(一部抜粋)
ある日あなたが声を失うとしたらどう思いますか? 友達と話すことができずに寂しい思いをするでしょうか。どうコミュニケーションを取れば分からず不安になるでしょうか。世界では毎年約30万人以上が声を失っています。その主な原因となるのが喉頭がんです。喫煙や飲酒が最大の原因と言われており、日本でも2015年の1年間で5505人が喉頭がんと診断されました。

私たちが発している声は、肺から送られた空気を声帯が振動させることで“喉頭原音”に変え、それをさらに喉や舌の動きにより変化させることで生成されます。そこで、声帯を摘出し発声能力を失った患者が喉頭原音を生み出すために用いられてきたデバイスがEL(電気式人工喉頭)です。円筒形のデバイスで、ボタンを押すと先端部分が振動し、それを喉に押し当てることで口パクでの発声を可能とします。

人の個性が現れる声質は喉頭原音を生み出す声帯により決定されます。
審査コメント
声帯をなくされた人に対し、その機能をテクノロジーを使って拡張する大変な取り組みです。こういう活動自体、なかなか日の目を見にくいところがありますが、この賞をきっかけに社会から注目してもらえればと考えています。ソニーとしてこの賞をおわたしできることを誇りに思います。(福原寛重)

ワコム賞

A Tasty Fish
Chihiro Tazuro
作品コメント(一部抜粋)
“A Tasty Fish” is a stop-motion animated short film, created initially after the memory of my aborted older sister.

I wanted to make this film because I have always harboured guilt towards my big sister, as she couldn’t be alive but I could. Since childhood I have been carrying this feeling. Despite that, I didn't want to imagine my sister as a scary figure in my head or portray her that way.
審査コメント
制作者ご自身が、生まれてくることができなかったご家族と、それによる心のトゲと向き合う作品だったとプレゼンテーションで伺いました。こうした重たく表現が難しいテーマに取り組むときは、どうしても気持ちが先行して映像自体が不明瞭になったりすることが多いのですが、本作は紙を使ったカットアウトアニメーションと実写パートを丁寧に積み上げることでそれをきちっと表現し、最終的にはご自身の心のトゲとも向き合いながら、一つの素晴らしい作品にまとめ上げていました。(笠島)

パブリック賞

駐輪場の家/Bicycle parking house
宮田和弥、寺世風雅、三舛正順、渡辺誠舟
作品コメント(一部抜粋)
●作品ステートメント
ルールによって使い方が規定されている都市環境の一部をHackし、都心の駐輪場に一畳半ほどの小屋を作って一晩を明かした。

●背景
すでに飽和した現代都市において、開発は絶えず行われ続けている。
効率性や利便性を追求し繰り返される都市開発、そこでは誰かが定めた人々の幸せと理想とされる暮らしが描かれる。

しかし、そのように開発された都市では、その土地の開発者や管理者にとって理想的な利用者や使い方が想定され、市民の行動を規定する。そうして出来上がった場所は、市民による自発的な行動を制限し、私たちが自由に生きていく都市の余白を排除する。

私たちの手の届かないところで行われるそれらの開発によって、私たちは都市に関心を抱くことが難しくなってしまった。都市に対して思考することをやめ、繰り返される都市の変化をただただ無自覚に受け入れている。
審査コメント
自分の固定的な家に不自然さを感じ、週末にモバイルホームに住み始めたという経験から、都市の駐輪場に目をつけた、といういきさつが非常に面白いと思いました。奇しくも今年は、新型コロナウイルスでフィジカリティやモビリティが注目を浴びるようになりました。渋谷の街に新しいビルが建っているが、オフィスがどんどん縮小しているという話もあります。そうしたなかで、非常にタイムリーな題材だったのではないかと思っています。今後は自分たちに加担してくれる人の知恵を借りながら、行政をさらにハックして、起承転結の「結」まで見せてほしいと思います。(塩田)

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