クラウドソーシングとコンテストの違い(2)
クラウドソーシングとコンテストの違い(1)の続きです。
クラウドソーシングとコンテスト(もしくはコンペ、公募、アワードなど)の違いを、両者に共通する代表的な事例としてロゴやマークのコンテストで考えてみましょう。
ロゴのコンペをクラウドソーシングで発注する場合
Googleで「ロゴ コンペ」を検索すると、
「ロゴコンペを安く外注/2万円70案 – lancers.jp」
というクラウドソーシングの広告が最上段にでてきました(2016年12月上旬時点)。クラウドソーシングの利点はこの広告のコピーのように発注者から見た「安さ」につきるのでしょうか。
懸念は、前回も申しましたが、発注者が事業内容に適したロゴデザインを判断できるかどうかです。発注者が与件を整理し、うまくオリエンテーションして、集まったデザインの是非を判断し、必要ならば手直しをディレクションすることができるなら、クラウドソーシングは非常に有効な手段になりうると思います。
デザイナーの立場からクラウドソーシングを考える
先ほどのクラウドソーシング広告「ロゴコンペを安く外注/2万円70案 – lancers.jp」について、参加するデザイナーの立場から見てみましょう。
2万円というと、通常の取引水準よりもはるかに安いデザイン費です。1時間の人件費が5千円のデザイナーだと4時間稼働となります。
リアルな業務フローですと、オリエンテーションを受けるために打ち合せを持ち、アイデアを出し、スタディを繰り返し、可能性がありそうないくつかの案について洗練を加えていく、そしてプレゼン資料にまとめる、承認されたデザイン案について必要ならば微調整を加えて納品、ということになると思います。
仮にこれを4時間でできたとしても、本来はそこに付加価値がついて取引されることが望ましい訳です。
もちろん、これは受注できた場合で、2万円の仕事を取るためには70の競合から選ばれなければなりません。
とにかく実績を作りたい方であれば、自分のキャリアアップの戦略として上手に利用することもできるでしょうし、手早く受注可能性が高い提案をするスキルがある方であれば、仕事として成立させることもできるのでしょう。また、案件によってデザイン費は様々でしょうから、相応と考えられる条件ならばチャレンジするという考え方も持てるでしょう。
コンテストで得られるもの、クラウドソーシングでは得られないもの
では、コンテストで得ることができて、クラウドソーシングでは得られないものは何でしょうか?
発注側にデザインについてのスキルがあり、経験あるデザイナーが参加したいと思わせるに充分な条件提示があれば、一つの適切なロゴを得るという結果に変わりはないのかもしれません。むしろ、コンテストの方が手間と時間がかかります。
コンテストで得られるものを一言で言うならば、コミュニケーションの広がりです。
コンテスト開催は次のような効果があります。
発注側から見た場合
・ロゴで表現したい自社事業やサービスを広く知ってもらえる
・告知段階では、私たちが運営する「登竜門」をはじめとする様々な情報媒体で紹介され、上手な情報発信を行えば業界紙だけではなく、TVや一般紙などで扱われることもある
・事業やサービスのターゲットとコンテストの想定利用者を重ねることができれば、効率のよいマーケティング活動になる
・時間軸での広がりもある。告知だけではなく、審査過程や結果発表も広報に活用することで一つの企画を通して半年から一年程度のコミュニケーションを持続することが可能
これらは手間と時間がかかることの裏返しです。
受託する側(デザイナー)から見た場合
採用されるか否か、賞金や賞品が得られるか否かが約束されていないのはクラウドソーシングと同じです。ただ、コンテストでは、以下のような事項でより魅力的な場合が多いようです。
・コンテストの入賞を履歴書に書くことができる
・審査評などのフィードバックを得ることができる
・受賞しなくとも、総評や結果からフィードバックを得られる
・表彰式などがある場合、主催者、審査員、他の受賞者との交流ができる
・受賞したことが記事になるなど、自身の広報につながる
・コンテストに参加すること自体をステップアップの方法として活用できる
コンテストならではの魅力とは、制作物の効率良い手配ではなく、制作物のやりとりを軸にした幅広く、時間軸のあるコミュニケーションと言えるでしょう。
繰り返しですが、コンテストもクラウドソーシングも経営課題を解決する手法の一つです。このコラムを課題に対して適切な方法を検討する際の参考にしていただければ幸いです。
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