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審査会レポート (2)
“リアリティ”を考えさせた大賞選出
最終投票の前に、候補作品についての意見が交わされました。可能性を感じた作品、1票も投票しなかったにも関わらず最終審査まで残った作品についてなど、率直な考えが語られた後、ひとり1票をもって投票。しかし、異なるフィールドで活躍する審査員が各々の視座から評価することになり、2票獲得が3作品並ぶという、票が割れる結果に。「レッドライト・ヨコハマ」「風がみえる小さな丘」「ポリゴン・ピクチュアズ」が接戦となりました。
ここで投票形式から離れ、7名の審査員全員で議論する時間が設けられることになり、会場にもやや緊張した空気が張りつめました。そのときの意見を改めて振り返ってみます。
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五十嵐太郎氏
「(「風がみえる小さな丘」作品に対して)建築が風に揺れるという考え方は歴史上になかったのではないだろうか。風の力を可視化するロマンティックな発想は、建築という構造物でなければ表現できないだろう。他作品のようなアートでも可能なものではなく、建築として関心をもった」
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皆川明氏
「(「レッドライト・ヨコハマ」作品に対して)普段、洋服を店で売っているが、ツールは多様化してきているのを感じる。店内でどんな体験をするのか、視覚的な感覚からいかに記憶に残り得るかという点を重視した」
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中村拓志氏
「(最終的に残った3作品に対して)空間の体験性に価値がおかれるようになった現在。たとえば商空間では情報や検索ではなく、喜びや体験価値が求められている。その点では3作品とも同様だ。しかしこの状況には危惧を覚える。すべてアートであり、インスタレーションのようで、体験が消費やブランディング、商品との結びつきとどう関係していくのかが希薄に思えている」
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小坂竜氏
「(「レッドライト・ヨコハマ」作品に対して)体験型商空間としてどうあるべきか、考えさせられる。とはいえインパクトや、街の中にあることでクエスチョンを感じさせる仕掛けやパワー、不思議な力強さを感じた」
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韓亜由美氏
「(「風がみえる小さな丘」作品に対して)クライアントは風力発電会社。逆説的になるけれど、パノラマをいちど遮断していることが、自然を感じさせる表現になっている。この作品には、インテリアと環境の融合性が含まれていると感じる」
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近藤康夫氏
「(票が割れた事態について)これほど様々な意見や、最終的に異なる審査結果に至る評価を、JCDが全会員を通じて仕事に反映させるべきだろう」
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評価がまとまらなくても、大賞は1作品に決定しなければなりません。ついに投票ではなく、その場での挙手によって決をとることになりました。
しかし、「レッドライト・ヨコハマ」3票、「風がみえる小さな丘」3票、「ポリゴン・ピクチュアズ」1票とまたもや票が割れる結果に。近藤氏の1票が大賞の行方を決める状況になり、最終的に「残像の印象が非常に強く感じた」と「レッドライト・ヨコハマ」の大賞受賞が決まりました。
また、審査員から特別に授与される特別賞として、3作品が選出されました。
中村拓志賞「傘庵」
(コメント「茶室の設計として非常に優れている。特に、直径20センチの竹から構造ができているところなど、いま、自然から我々がもらってくるものに対するリスペクトがよく表れていると思う」)
韓亜由美賞「レイモンド長浜保育園」
(コメント「外光を存分に取り入れて、時間の移り変わりが室内でも分かる。カラフルな壁面塗料には体に優しい染料系を用いる細やかさもある。子どもに対して積極的なアプローチを評価したい」)
飯島直樹賞「Arthouse Café」
(コメント「香港にある飲食店だが、デザインの意識が異なる面をもつ海外の作品にも注目したい。JCDは広い視野で空間を見つめている」)
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最後に、審査員長の飯島直樹氏は、「審査員全員が感じているであろう、商空間のリアリティは、2000年代の大きな課題でもあった。我々はリアリティの仕事をしている。過去にはあったが、全員一致で決定するような圧倒的な力のある作品を、今後も期待したい」と総評をまとめました。
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