頭に降りてきたイメージを、筆に込める。「FACE2026」グランプリ―吉田茉莉子 [PR]

2013年に創設された「FACE」は、年齢や所属を問わず応募できる全国公募の現代絵画コンテストとして、多くの作家が挑戦してきた。作品本位の厳正な審査によって、将来国際的にも通用する可能性を秘めた作品を選出している。
グランプリ受賞作品はSOMPO美術館に収蔵され、グランプリおよび優秀賞の受賞作家4名には、次回の入選作品展と同時開催されるグループ展「絵画のゆくえ」への出品機会も与えられる。
第14回目となる「FACE2026」では、応募作品の中から57点が入選作品として選ばれ、グランプリには画家・吉田茉莉子さんの作品「天泣」が選出。東京・新宿のSOMPO美術館では、入選作品が一堂に会する「FACE展2026」が2026年3月29日まで開催中だ。
本インタビューでは、吉田さんにとっての描くことの原点から受賞作に込めた思い、そして受賞後に訪れた変化とこれからの制作について話をうかがった。
次の一歩を踏み出すために。FACE展への挑戦
——吉田さんにとってコンテストで講評をもらうことは、制作においてどんな意味があると考えていますか?
“自分の足元を確認する”ような感覚です。制作を続けていると、描いていていいよと許可をもらいたい瞬間にぶつかるのですが、そんな時に自分の制作を肯定してもらえるような、そんな意味合いがあるかなと思います。

吉田茉莉子 2019年女子美術大学 芸術学部美術学科洋画専攻を卒業、その後筑波大学大学院 人間総合科学研究科芸術専攻入学、2021年修了。主な受賞に神奈川県美術展入選、長亭GALLERY展2021入選、第20回世界絵画大賞展 ペベオ・ジャポン賞など
美大を卒業してから、誰かから講評される機会が極端に減ったなと感じています。コンテストを通して、学芸員の方や美術教育に関わる方々に評価してもらえる機会があるというのは、すごく魅力的なことですよね。
——いろいろなコンテストがある中で、FACE展に応募しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
以前出展した別のコンテストの講評会で、審査員の先生に「もっとレベルの高いコンクールに出しなさい」と言っていただいて。そのとき頭に浮かんだのがFACE展でした。それで思い切ってチャレンジしようと応募しました。まさかグランプリを受賞できるとは思いもしませんでした。
——受賞を知ったとき、どんな気持ちでしたか?
嬉しさもありつつ、本当に私でいいのだろうか、という戸惑いもありました。ですが、周りの方々が自分のことのように喜んでくれて。それで、これは喜んでいいことなんだとやっと実感できました。
人が近寄れなくなるような絵を描いていきたい
——吉田さんが絵を描き始めたきっかけについて教えてください。
小さい頃からずっと絵を描くのが好きでした。きっかけはあまり覚えていませんが、気づいたらここまで来ていたという表現が近いです。中学と高校は美術部で、中学生のときに初めて油絵に出合いました。
——制作を続けるなかで、油絵を選んだ理由は?
中学校で初めて油絵に触ったときは、正直すごく難しくて全然使いこなせませんでした。でも高校、大学と続けるなかでいろいろな画材を試してきた結果、やっぱり油絵が一番自分に合っているなと思ったんです。
私は自然物を描くのが好きで、画材も土から作られている絵の具など、マテリアル自体に説得力があるものに惹かれます。そういう意味でも、油絵は自分が表現したいものに合っていると感じています。

「美しいものが滅びてしまっても」2024年
——作家として、どんな作品を目指していますか?
説得力がある作品を目指しています。人が近寄れなくなるような、もしくは、人をその場から動けなくさせるような絵。万人に受けなくても、その時々で刺さる人に刺さればいいなと思っています。消費されるものではなく、一個の個体として捉えられる作品を作っていきたいです。
——近寄れなくなるような絵とはどのような感覚でしょうか。
言語化するのは難しいけれど、私自身もあんまり近寄れないなと感じる作品があります。例えば、2022年に川崎市岡本太郎美術館で開催された展覧会「小松美羽展 岡本太郎に挑む―霊性とマンダラ」で見た小松さんの大型作品や、オーストリアの画家、エゴン・シーレの作品。見た瞬間にそう感じたんです。
例えば宗教画や仏像なども安易に触れてはいけない存在で、学芸員は一度お辞儀をしてから作品に触れます。そういう作品と鑑賞者のあり方って、すごくいいなと思っています。
——制作の中で、そういった存在感や説得力はどのように生まれると考えていますか?
描き始めのエネルギーみたいなものを殺さないように意識しています。最初の筆の運び、イメージが湧いてきたときの勢いは、制作を重ねていくうちに消してしまいがちですが、それをできるだけ残し続けるようにしています。
美大生時代によく言われていた「前に見たときのほうが良かったね」ということにならないように、最初に湧き出たエネルギーを残したまま伝えることを大切にしています。
助けを求めている人たちの声に、寄り添える作品に

吉田 茉莉子「天泣」2025年、油彩・蜜蝋・カンヴァス、194×162㎝
——今回の受賞作は、どのように生まれた作品ですか?
ある人に、私の絵は“描かされた絵”だと言ってもらったことがあります。今回もまさにそうです。イメージが頭の中に与えられて、それを描き起こしていきました。
——「イメージが頭の中に与えられる」ということですが、イメージのもととなるような、何か影響を受けたものはあったのでしょうか?
制作中は、紛争による被害が大きいガザ地区で活動するフォトグラファーの写真をよく見ていました。今、世界中にある、助けを求めている人たちの声に寄り添える作品を作りたい。これは制作に着手するときから考えていたことです。

水の中に浮かんでいるように見える人物は、ジョン・エヴァレット・ミレイの「オフィーリア」をオマージュしている
——具体的な制作プロセスについても教えてください。
イメージが頭の中に湧いてきたら、まずドローイングをします。イメージはとても不安定で、そのままだと消えてしまったり、忘れてしまったりするので、最初にドローイングで固定するんです。ドローイングはA4くらいの小さなサイズで描きます。それを、イメージが破綻していないかを慎重に確認しながら本画に移して組み立てていきます。
画材は油絵の具に加えて、蜜蝋も使っています。蜜蝋は古くから使われている画材で、劣化に強く、筆の運びがとても滑らかになるんです。修正をすばやく行えて、最初の筆の勢いやストロークを消さずに制作を進めることができます。そうした点でも、自分の制作のスタイルに合っていると感じています。

絵具が垂れているように見える部分が蜜蝋
——普段、制作に向き合う上での想いや考えていることがあれば教えてください。
今は特に、生半可な絵は描けないなと思っています。絵は、暮らしに直結しない、ある意味とても贅沢なものだからこそ、自分が捧げられるものはすべて与えたい。そうでなければ、見る人に空虚な印象を与えてしまうと思うんです。
懐の深さが魅力。参加して見えたFACE展のこと
——FACE展はどんなコンペだと感じていますか?
すごく懐が深いコンテストだなと感じています。毎年、具象・抽象を問わず、いろいろな作品が入選している印象があって、受賞作品を見ても、特定のスタイルに寄っていないところが魅力だと思います。
搬入直前まで作品タイトルが決まっていなくても大丈夫で、最後まで検討を重ねられる点や、入選後の作品の梱包がとても丁寧なところなど、作家への配慮を随所に感じます。
また、グランプリ受賞者のその後の活躍ぶりを見ても、コンクールの影響力を感じています。
——実際に受賞後の反響の大きさはどうでしたか?
かなり反響がありました。オンラインショップで販売しているドローイングへの反応が増え、SNSを通じて知らない方から声をかけていただくこともありました。家族も、自分のこと以上に喜んでくれて、大学時代から応援してくださっている方々も、「今年で一番嬉しいニュースだ」と言ってくださったのが嬉しかったです。

——それは本当に嬉しいですね。ご自身の意識には、何か変化はありましたか?
影響力のあるコンクールだということを改めて感じていて、それに恥じない活動をしていきたいという気持ちがより強くなりました。だからこそ、足元をすくわれないように、堅実で謙虚でいたいと思っています。
——グランプリ受賞者としての展示が翌年に控えていますが、展示に向けて、今どんな思いがありますか?
「この作家にグランプリをあげてよかった」と思ってもらえる展示にしたい、という気持ちがあります。
会場となるSOMPO美術館にはゴッホの作品が展示されています。そこに一緒に展示されることになると思うと、見劣りしないなんてことは叶わないとわかってはいますが、それでも見劣りしないように、という思いはすごくあります。過去作も含めて、大型作品から中間サイズまで幅広く展示できたらと考えています。
——最後に、これからFACEへの応募を考えている方へ、メッセージをお願いします。
まずは、ぜひ挑戦してみてほしいです。私自身も自分に自信があるわけではありませんが、作家の意思とは無関係に、絵は勝手に力を持っていろいろなところへ届くと思っています。だからこそ、自分の描いた絵の力を信じてほしいです。

FACE展2026 概要
●会期
2026年3月7日(土)~3月29日(日)10:00~18:00
※入館は閉館30分前まで、月曜休館
●会場
SOMPO美術館(東京都新宿区西新宿1-26-1)
●観覧料
800円/高校生以下無料
※中高生は学生証・生徒手帳を提示すること
※障害者手帳、被爆者健康手帳を提示の方は無料(詳細は公式ホームページにて確認)
公式ホームページ
https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2024/face2026/
FACE2027 募集概要
●応募期間
2026年9月7日(月)~10月8日(木)
●賞
グランプリ(1点) 賞金300万円
優秀賞(3点) 賞金50万円
他賞あり
●募集内容
未発表の平面作品
執筆:高野瞳、撮影:木澤淳一郎(ウエストゲート)、取材・編集:萩原あとり(JDN)



