多様化する家族の形を考える、「第19回 長谷工 住まいのデザイン コンペティション」審査会レポート1 / 2 [PR]

多様化する家族の形を考える、「第19回 長谷工 住まいのデザイン コンペティション」審査会レポート

「都市と人間の最適な生活環境を創造し、社会に貢献する」という理念のもと、住宅を中心とした事業を展開する株式会社長谷工コーポレーション。業界トップを誇る主力のマンション建設では、日本の分譲マンションのストックの約1割にあたる72万戸以上をこれまで建設してきた。

同社が主催・実施しているのが、学生を対象とした「長谷工 住まいのデザイン コンペティション」だ。毎回社会課題や世相を反映したテーマで作品を募集し、学生ならではの発想豊かなデザイン提案が全国から寄せられている。

第19回となる今回のテーマは「100人の集落」。2025年11月に長谷工コーポレーション本社ビルにて1次審査が行われ、翌12月に実施される2次審査へと進む上位4点、佳作10点が決まった。本記事では、上位4点の中から最優秀賞1点、優秀賞3点が決定した公開2次審査会と、授賞式の様子をレポートする。

これからの集合住宅、家族のあり方を考える「100人の集落」

「長谷工 住まいのデザイン コンペティション」は、2007年に長谷工コーポレーション創業70周年を記念し、新建築社の後援のもと学生限定のコンペとしてスタートした。次世代の建築を担う若手人材の育成に貢献したい、建築を学ぶ学生に集合住宅について考えるきっかけにしてほしいとの思いから、年1回開催されている。

2次審査会の会場となったシェラトン都ホテル「醍醐」のエントランスには、上位4点、佳作10点のプレゼンシートが設置され、それぞれの作品を通して伝えたいことや工夫した点がわかりやすくまとめられていた。会場内には、上位4点の模型も並んでいた。

今回のテーマとなった「100人の集落」の背景には、“拡張される家族の概念”がある。集合住宅は、これまで血縁のある「家族」を単位とした受け皿になってきたが、近年家族の解釈が多様化し、養子縁組や、似た境遇を持つ他者との集まりを「家族」と捉える人も現れている。家族の概念の変化にともない、集合住宅はこれまでとは大きく異なった様相になるかもしれない。

そこで、拡張された100人の家族が互いに干渉し合い、暮らす集落を提案するということが今回の課題となった。計画条件は、地形の起伏や川があり、既存の建物もある一角に、敷地面積1000㎡、容積率200%の集落を想定し、そこに100人が住める集合住宅を提案するというもの。

応募総数は253点にのぼり、上位4点、佳作10点(賞金各10万円)が昨年11月の1次審査で決定した。2次審査に進んだ上位4点は、「みんな違ってみんないい -揃える集合から許容する集合への住まい」「にわとりよりどころ」「ミツバチ・コミュニティ -シェアリングエコノミーから始まる地域経済圏」「Tool Hamlet -ナンドでつながるまちの道具箱」の4点だ。

審査を行ったのは、審査委員長の乾久美子さんをはじめ、審査委員の藤本壮介さん、増田信吾さん、堀井規男さん、ゲスト審査委員の青井哲人さんの5名。

2次審査会では上位4組のプレゼンテーション、質疑応答、公開審査を経て、最優秀賞1点(賞金100万円)、優秀賞3点(賞金各50万円)が決定。当日は、主催責任者である長谷工コーポレーション代表取締役副会長の池上一夫さんの挨拶の後、プレゼンテーションが行われた。

それぞれが“自分”でいられる場所を。「みんな違ってみんないい -揃える集合から許容する集合への住まい」

最優秀賞「みんな違ってみんないい -揃える集合から許容する集合への住まい」

この作品を提案したのは、大和大学に通う来間海人さん。現代の集合住宅は、効率と均一な家族像の名のもとにA、B、Cなどの型に規定し、揃えることが前提となっている。しかし、同じ人・家族でも孤独になりたい日もあれば、人とつながりたい日もある。そこで来間さんが考えたのは、「揃える」のではなく、それぞれの暮らしを「許容する」空間だった。

模型については次のように説明。「敷地のコアとなる柱の部分に、家族のための最小限のプライベート家具を配置して完全個室としました。そのほかに、日常生活のスケールをオーバードライブさせたスラブ(プールやキッチン、運動場など)を配置し、このスラブが100人の住まいの共有財産です。居住者はスラブで擬似家族のように生活し、誰かの気配や存在が町の象徴になります」。各々の異なる生活の営みが共存する空間が、来間さんの考える「都市の中の集落群」だ。

審査員からはおもに、コア部分に住まう“家族”の単位についての質問があった。これに対して、「血縁の家族もいれば、一人暮らしの人もいます。血縁でつながっていてもいなくても、共用部分で役割を交換しながら家族のように生活する人々を、集落に住む共同体=拡張家族と定義しました」と答えた来間さん。ほかに、スラブの全体的な数や空間の仕切り方など、構造的な部分についてもいくつか質問が飛んだ。

にわとりを共生の核とした集合住宅。「にわとりよりどころ」

優秀賞「にわとりよりどころ」

にわとりに注目したユニークな案は、日本大学の渡辺徹さん、大野紗矢香さん、依田澄生さん、石渡晴生さん、日本大学大学院の樋口大雅さん、小林弘真さんら6名によるもの。

かつての集落では、水や食、祈りなどを共生の核に人が集まり関係を築いてきたという前提のもと、本提案では「にわとり」を共生の核として位置付けた。時間で鳴き、群れで行動し、人と馴れ合うことを好むにわとりの習性を空間に落とし込むことで、1人、夫婦、友人同士など、世帯の枠にとらわれない100人が、一つの家族として暮らす集落を想定したという。

空間構成については、「商業施設に囲まれたこの敷地は、多くの人々が行き交います。にわとりを求めて人々が立ち寄り、住み着き、徐々に住人が増えていく。居住領域である大小のスラブに接するようににわとりのコアを挿入し、そこはにわとり小屋であると同時に、人々もくつろげる空間です。人とにわとりが同じ空間を共有し、にわとりへの愛情が人と人の関係をつないでいきます」とプレゼンした。

「なぜにわとりを選んだか」という点に審査員の注目が集まると、「時間を知らせる動物としての要素が強い点、人に懐きやすいという点でにわとりに注目し、にわとりのサイズ感や習性に合わせて建築形態を考えました」と話した。

また、スラブがオープンになっている理由について、「従来の住居形態では壁が世帯を分けてしまっているため、あえて壁を取り払い、透明や半透明の膜を用いました」と回答。「にわとりを抜いても成立するアプローチがあれば、なおよかった」という審査員からのコメントもあった。

モノの共有を介して人と人がつながる。「ミツバチ・コミュニティ -シェアリングエコノミーから始まる地域経済圏」

優秀賞「ミツバチ・コミュニティ -シェアリングエコノミーから始まる地域経済圏」

シェアリングエコノミーの可能性に注目したのは、大阪大学大学院の石光基さん、神戸大学大学院の丁子紘亘さんの2名だ。

ミツバチは、花と花を行き交い、ミツを集めることで生態系を育む。現代では、シェアリングエコノミー経済の発展により、一人ひとりがモノを所有する従来の社会から、モノを共有で所有する社会へと移行している。このことから石さんと丁子さんは、モノの共有を介して人と人のつながりが生まれる可能性に着目した。そこで提案したのが、モノを介して住人同士、さらには街の人ともつながり、コミュニティを形成するような“ミツバチの暮らし”だ。

「ミツバチに倣い、モノの収納、貯蔵、共有、リサイクルといったモノの循環を中心に据えた集合住宅を考えました。モノの運搬をモビリティで行う想定から、各住戸をスロープで接続し、上層にはストック塔とリサイクル塔という2つのコアを設けます。ここに置かれたものは住人が自由に持ち出し可能で、循環の輪を集合住宅内にとどめず、地域に拡大することで街の至るところでモノのシェアを介したコミュニティが生まれます」と、全体的な仕組みを説明した。

審査員から「建築的な肝」を尋ねられると、「敷地内部で完結させるのではなく、地域全体を視野に入れた構造です」と回答。また、本提案における家族の定義を問われると、「住人だけではなく、街の人々を含めた関係ごと100人の家族だと捉えました」と答えた。そのほか、「拡張家族という視点で外部のことを積極的に考えている点はよかったが、全体としてシステム的な提案に寄ってしまっているのがもったいない」という感想もあった。

昔ながらの「納戸」を再解釈。「Tool Hamlet -ナンドでつながるまちの道具箱」

優秀賞「Tool Hamlet -ナンドでつながるまちの道具箱」

法政大学大学院の山田蒼大さん、日本大学大学院の神保太亮さん、河上晃生さん、法貴伶海さん、東京科学大学大学院の下川楓翔さんの5名は、建築基準法で居室とは認められない収納空間「納戸」に着目した。

「住む人の個性や生活の履歴を物語る道具がしまわれる納戸を、人が過ごし、道具やモノが個性として表出する半居室的な“ナンド”として再解釈しました。かつての農耕社会では、道具を生活のための単なる器具ではなく、集落の共有財産として保管していました。そんな道具をきっかけに、再び他者とのつながりを取り戻す住まいを考えました」とプレゼン。

全体構造として、中心に各住戸への玄関ともなる共有のナンドを配置。ここには100人がともに使う道具や家具がしまわれ、貸し借りが行われる。さらに季節の変わり目には使わなくなった道具を持ち寄り、ストックされた中から新しいものを持ち帰る。保管される道具が入れ替わることで、街の風景も季節を通じて移り変わるという。

審査員がおもに疑問視したのが、納戸としてのあり方だった。納戸の仕組みについて具体的な説明を求められると、「周辺環境から置かれるものが決まっていて、例えば小学校の近くには学校で使うものが収納され、それが展示空間として街のファサード的な役割も果たします」と回答。審査員からは、「納戸としての説得力が弱く、シェアスペースの域を越えられていないのが残念」との声が挙がった。一方で、「毎日ナンドを通って住戸に出入りするという点では、場としての不思議な魅力がある」とのコメントも。

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