多様化する家族の形を考える、「第19回 長谷工 住まいのデザイン コンペティション」審査会レポート2 / 2 [PR]

最優秀賞は、建築としての可能性が感じられた「みんな違ってみんないい」
4作品のプレゼンテーション終了後には、公開審査と賞の発表、授賞式が開催された。審査委員の議論の末、来間海人さんの「みんな違ってみんないい」が満場一致で最優秀賞に決定。長谷工コーポレーションの池上副会長より、表彰状と賞金100万円が授与された。

優秀賞の3組には、それぞれ表彰状と賞金50万円が贈られた。「建築」としての可能性や存在意義を感じさせるかどうかが、評価の大きな軸となった。それぞれの作品に対する審査員の講評も、興味深いものだった。
来間さんの作品について審査委員長の乾さんは、「建築としての形と、何を共有するかが明快にリンクしている点がわかりやすく、提案として最も成り立っていると感じました。建築のコンペである以上は、建築としてきちんと成立するかどうかが重要」と、受賞理由を述べた。

審査委員長の乾久美子さん(乾久美子建築設計事務所代表・横浜国立大学大学院Y-GSA教授)
ゲスト審査員の青井さんは、「家族と住宅の関係が拡張されれば、ビルディングタイプが変わります。来間さんの案は、集合住宅自体が公共建築のようなものに近づくのではないかという示唆を感じさせ、その点がおもしろかったです」とコメントした。
「『にわとりよりどころ』は、集合住宅という意味ではリアリティが感じられなかったのが正直なところ。『ミツバチ・コミュニティ』は、コンペのテーマがシステムの提案であればピカイチだったと思いますが、建築としての作品性が見えにくかった。『Tool Hamlet』は、ファブリケーションの文脈を持ち込んでもおもしろいと思いました」と、3作品についても解説した。

ゲスト審査員の青井哲人さん(明治大学理工学部教授)
審査員の藤本さんは、次のように話した。「乾さんの言うように、最後は建築的な提案につながっているかどうか。来間さんは、集合住宅の新しい打ち出し方として、半共有・半プライベートのようなスケールの掘り出し方をしていたことに、とても提案力を感じました。最初は箱で全体を囲った模型に違和感もありましたが、公共空間に溶け込みすぎないという点で、バランスよくまとめたのではないかと思います。
『にわとりよりどころ』『Tool Hamlet』は発想はおもしろいのですが、建築としてポジティブな再発明になっているかという視点で見ると、弱かったように感じます。『ミツバチ・コミュニティ』は、建物の構造と全体のシェアの話がもっと緊密に結びついていればよかったですね」。

審査委員の藤本壮介さん(藤本壮介建築設計事務所代表)
審査員の増田さんは、「来間さんの案は、建築として単純に見てみたいし体感したいと思いました。個室以外は外とみなすようなプリミティブな提案もよかったですし、小さな建築一つでも、価値観を変えられるかもしれないという説得力もありました。『ミツバチ・コミュニティ』は建築としては弱いけれど視点がいいと思いました。『Tool Hamlet』は、空間の位置付けとしてはいちばん奥にある納戸を、前面に押し出してコアとした点はおもしろいと思います」と話した。

審査委員の増田信吾さん(増田信吾+大坪克亘建築設計事務所代表)
審査員の堀井さんは、「『みんな違ってみんないい』『にわとりよりどころ』は、ともに集落性が感じられる点で評価できました。ただ、建築として見たときに明快なのは前者であり、後者はリアリティという意味で弱いと感じました。『ミツバチ・コミュニティ』『Tool Hamlet』はモノの貸し借りがテーマですが、前者は皆さんのおっしゃるように、建築的に踏み込んだ要素があればよかったですね。『Tool Hamlet』に関しては、シェアエコノミーを超えた家族性や提案があまり感じられなかったのが残念でした」。
さらに、「今回あえて“集落”という言葉を選びました。100人で一つの家族ってなかなか現実的ではありませんが、もっと集落という考え方に踏み込んで、これが家族だ。これが集落だ。というシェアの域を超えた明快な考えを期待していたのですが、全体としてその点が少し弱かったように感じます」と、感想を語った。

審査委員の堀井規男さん(長谷工コーポレーション常務執行役員)
最優秀賞を受賞した来間さんは、「このような賞をいただきありがとうございます。特等席で有意義な議論を見ることができ、嬉しい気持ちでいっぱいです。今回協力してくださった先生や後輩、友人、多くの方に、まずは感謝の気持ちを伝えたいです」と、晴々とした表情でコメントした。
2年前にも同コンペに応募し、佳作を受賞したという来間さん。「今回のテーマは、集落と家族、どっちに振り切るか悩みました。結果は満場一致でしたが、議論や講評を聞く中で反省点や学びもたくさんあったので、今後の糧にしていきたいです」とも話してくれた。

最優秀賞を受賞した、来間海人さん
建築を考えることは、数を考えることでもある
また、審査委員長の乾さんは、「1ヵ月弱という短期間の中で今日のための準備をすることは、大変な仕事量だったと思います。素晴らしい発表と模型で、会場が大いに盛り上がりました。ありがとうございました」と、改めて感謝の気持ちを述べた上で、次のように語った。
「このコンペは、数に注目してこれまでテーマを設定してきました。今回“100”という数字を出したことについて、現在アプリをはじめ世界中で提供されるサービスは、個に向けられたものがほとんどです。対して建築は、何らかの集団に対してアプローチするものです。つまり、建築を考える=数を考えること。これは建築の真理でもあると私は考えています。
そのため、“100とは一体何か”をもっと深掘りしてほしい意図もあったのですが、意外と皆さん数字にはこだわっていないというのが印象でした。ただ、やはり建築である以上数の問題は切り離せませんし、数を考えることで、建築の形も生まれるのではないでしょうか。今後皆さんが建築の道を志す上で、なんとなく覚えておいていただけると嬉しいです」。
長谷工コーポレーションの池上副会長は、「現在多くの人々が核家族や血縁のつながりで暮らしているのが集合住宅ですが、それを“集落”という定義に落とし込んだときに、果たしてどんな楽しみや幸せな暮らしが待っているのかと、ワクワクしながら今日のプレゼンテーションを聞いていました」と感想を述べた。冒頭の挨拶では、「建築の中でいちばん大切で難しいのは住宅です。住宅は人がいちばん長く暮らす場所であり、人の命を守る器だからです」と話していたのが印象的だった。

池上一夫さん(長谷工コーポレーション代表取締役副会長)
これからの集合住宅は、個々のニーズに応えつつ、将来の変化にも対応できる共生や柔軟性が求められる。会場でプレゼンと講評に耳を傾けながら、すでに住宅は単に「住む」だけではなく、技術や快適性はもちろん、血縁を超えた未来のライフスタイルなど、多角的な視点から探究されるべき領域になっていると改めて感じた。今回の受賞作品のような柔軟な発想が、これからの集合住宅の可能性を大きく広げてくれそうだ。
なお、表彰式の後には、入賞全14作品の個別審査講評と、長谷工コーポレーション若手社員と入賞者との交流会、記念写真撮影が行われた。入賞者にとっては、建築の第一線で活躍する審査委員の方々と間近に言葉を交わし、また現役社員の生の声を直接聞くことができる貴重な機会となったはずだ。第20回も、多くの応募があることを願う。

個別審査講評の様子。審査員の方と受賞者が意見を交わせる貴重な機会となっている
第19回 長谷工 住まいのデザイン コンペティション 公式サイト
https://shinkenchiku.net/haseko/2025/requirement.html
文:開洋美 撮影:木澤淳一郎 編集:石田織座(JDN)



