社会課題に向き合う“新しい才能たち”の視点―ニューホープ賞受賞者対談1 / 2 [PR]
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2025年度に第4回目の開催を迎える「グッドデザイン・ニューホープ賞」。新しい世代のデザイン活動を支援することを目的にスタートした、公益財団法人日本デザイン振興会主催のデザイン賞です。
JDNでは、初回開催時の2022年から「最優秀賞」受賞者へのインタビューを実施してきました(登竜門転載)。今回は、2022年から2024年の最優秀賞受賞者である奥村春香さん、項雅文さん、猪村真由さんにお集まりいただき、対談形式でお話をうかがいました。
【これまでの受賞者インタビューはこちら】
・奥村春香さん受賞インタビュー
・項雅文さん受賞インタビュー
これからのデザインの可能性を切り拓く3人は、いま何に向き合い、どんな未来を見据えているのでしょうか。今回の対談では、その思いや課題について率直に語っていただきました。
プロダクトだけでなく「過程」を評価してもらえた
――本日はお集まりいただきありがとうございます!まずは、初回である2022年の最優秀賞を受賞した奥村春香さんから順番に、現在の所属と活動内容を教えてください。
奥村春香さん(以下、奥村):NPO法人 第3の家族の代表を務める奥村です。「第3の家族」は家庭環境に悩む少年少女に向けた自立支援サービスを提供しており、現在はWeb事業やイベント事業、社会構築事業などを展開しています。このプロジェクトで2022年にニューホープ賞の最優秀賞を受賞しました。

奥村春香 NPO法人 第3の家族 代表。法政大学デザイン工学部を卒業後、LINE株式会社でプロダクトデザイナーを経て現職
項 雅文さん(以下、項):2023年に最優秀賞をいただいた項です。現在は株式会社ディー・エヌ・エーでデザイナーとして活動しつつ、受賞作品の、家で育てるキノコの菌糸体を素材にしたおもちゃキット「MYMORI」の商品化に向けたプロジェクトにも取り組んでいます。

項雅文 株式会社ディー・エヌ・エー デザイン統括部でデザイナーとして活躍。武蔵野美術大学造形構想学部クリエイティブイノベーション学科卒業
猪村真由さん(以下、猪村):非営利型一般社団法人Child Play Lab.の代表をしている猪村です。私たちは、病気とともに過ごすお子さんを対象にした「遊びの伴走支援プログラム」を運営しています。病院以外の場所で過ごす小児がんのお子さまに特化したお悩み相談・遊びのサポート「アドベンチャー ASSIST」を主たる取り組みとしておこなっていますが、今回のニューホープ賞の最優秀賞は、この伴走支援につながる前段階としての遊びのキット「アドベンチャーBOX」で受賞しました。

猪村真由 非営利型一般社団法人Child Play Lab. 代表。慶應義塾大学看護医療学部看護学科に在学中、病児のあそび支援をおこなう医療系学生団体を立ち上げ、チャリティイベントに従事。その活動を発展させる形でChild Play Lab.を立ち上げ、現在にいたる
――2024年12月に受賞したばかりの猪村さんですが、受賞した際の率直な感想を教えてください。
猪村:自分たちの歩みやプロセスを評価していただけたように感じてうれしかったです。私自身はデザイナーでもなければ病院に勤めている医療従事者でもありません。「アドベンチャーBOX」は、想いに共感して力を貸してくださったデザイナーや現場の保育士さん、看護師さんたちとのチーム連携で実現してきたものでした。そうした「過程」の部分を認めていただけたのがすごく励みになりました。

アドベンチャーBOX。「べッドの上から冒険を始めよう!」を合言葉に、入院している小学生にあそびという魔法を届けるあそびのスターターキット
猪村:その一方で、「取ってしまった!」という驚きの部分も大きくて(笑)。私は2024年3月に大学を卒業し、そのタイミングで法人登記したばかりで、まだプロダクトになる前のプロトタイプの段階で応募したような状態だったんです。
少しずつ子どもたちのもとへは届いているけれど、これからもっともっとアップデートしていきたいというフェーズでした。だからうれしい気持ちと、ここをスタートラインにしてもっとがんばらないと、という気持ちが両方ありました。
――プロダクトだけでなく、活動全体を通しての評価である点はニューホープ賞の特徴かもしれませんね。
猪村:そうですね。私たちは、病気とともに生きているお子さんの入院中の支援はもちろん、退院して地域社会に戻っていった後の社会システムのデザインにも取り組もうとしていて。そうしたなか、ニューホープ賞の審査委員の方に「一生をかけた挑戦だと感じました」と言っていただき、私たちの展望まで伝わっていたことに励まされました。
プロダクト自体の評価というよりも、その先にどんな未来を描いているのかなど、そこに込めた思いの部分に想いを馳せていただけたのがすごくうれしかったです。現場で働く保育士さんや看護師さんをはじめ、スタッフの皆さんに勇気や自信を与える結果になったと思います。
――デザインを通して現状の社会課題に問題提起していく姿勢は、奥村さんと項さんの受賞作品にも通じるかもしれません。
奥村:受賞当時を振り返ると、シンプルにものづくりに対するモチベーションが強くて、デザイナーとしてすごく取りたい賞だったのでうれしかったのを覚えています。それから活動を続けていくにつれて、少年少女や家庭環境を取り巻く問題をより強く実感し、現状の社会システムを私たちが改善していかなければいけないと使命感を持つようになりました。

家庭環境に問題がありながら、既存制度の支援対象に該当しない「はざまの少年少女」が居場所を見つけるためのサポートプロジェクト「第3の家族」。運営するWeb事業には、社会資源と経験談を集めた情報サイト「nigeruno」、匿名で悩みを吐き出せる「gedokun」などがある
奥村:最近ではこども家庭庁の「こどもの居場所部会」の委員も務めており、制度や政策づくりに関わるようになったのは、大きな変化だと感じています。デザインが大好きで応募した受賞当時の自分は、ここまで想像できていませんでした。
項:私は、それまで学生作品としてつくってきたものが評価されたので、これから社会に届けていくための新しいチャレンジがはじまった、という感覚がありました。

キノコの菌糸体を素材にしたおもちゃキット「MYMORI」。バイオ素材の現状を見直し、他素材の代替品としない未来の在り方を提案した
受賞が事業を進めていく大きな後押しに
――ニューホープ賞を受賞してから大きな反響もあったと思うのですが、それによって事業に対する変化はありましたか。
項:私は、賞を取ったことで、「キノコの菌糸体を生かしたおもちゃキット」というものの知名度を上げられたことが一番の収穫でした。デザイン界隈ではない人もおもしろがって購入してくれたり応援してくれたりして、少しずつ届く範囲が広がっていっているように感じています。
最近はこの「MYMORI」キットを消費者に届けるためのクラウドファンディングを実施し、目標金額を達成することもできました。より多くの方に届けるためにはまだまだ時間がかかりますが、ニューホープ賞をきっかけに出会った方々の支援がパワーになっています。

クラウドファンディングサイト「Makuake」でのプロジェクト
猪村:私はデザインのデの字も知らない看護学生だったので、ニューホープ賞授賞をきっかけにデザイナーの方とお話しする機会を得られたのが新鮮でした。それはものすごく有意義な出会いだったと感じています。
私たちは日々お子さんと関わるときに、非言語コミュニケーションの中で子どもたちが紡ぐ思いや感情を受け取り、遊びを通じてコミュニケーションをとってきました。そうした言葉にならないニュアンスをデザイナーの方は丁寧に汲んでくれる感覚があって、そこから広がる未来について一緒に議論できることがとてもよかったと思います。
猪村:奥村さんもそうだと思うのですが、支援者の皆さんからいただく寄付をもとに運営している非営利団体としては、課題の認知含め、解決に向けての歩み自体において、社会の中でどのように接点をつくっていけるのかも大事だと思っています。病気とともに生きる子どもたちのことを決してかわいそうと思って欲しいわけではない。私たちは子どもたちが入院や治療を通じて自分と向き合ってきた時間や、その中で力強く生きようとする彼ら彼女たちの姿に目を向け、培われた感性やそこに秘められた可能性を存分に信じていく、そんな眼差しが社会に芽生えるきっかけにもなればと思っています。
デザインの観点から考えることで、より多くの人にこの事業の目指すところを理解してもらえるのではないかと感じています。それこそ、デザインを通じて子どもたちに向き合ってきた奥村さんたちの話も今後じっくりお聞きしていきたいです。
奥村:第3の家族が取り組んでいる、家庭環境の狭間にいる少年少女の問題はずっと前から存在していたけど、社会からは認知されていませんでした。というのも、どうしても自己責任論で片付けられてしまう現状があったんです。
奥村:そうした壁があったからこそ私自身もこの問題に取り組むことには不安を感じていて、最初は仲のいい友だちや指導教員にすら打ち明けずにWebサービスを考え、ちょうどいいタイミングでニューホープ賞があったので応募したんです。もしここで評価されたら、将来この問題に取り組んでいっていいんだと自信を持てるかなと。
だから、受賞したときは自分の取り組みが社会に受け入れてもらえたように感じて、大きな励みになりました。猪村さんも触れていましたが、審査委員の方々とのコミュニケーションも大きかったです。受賞後も継続的にフィードバックやアドバイスをいただいたり、そのおかげで前に進めていると思います。
歴代の受賞者がロールモデル
――受賞後の支援プログラム「フォローアップ・ゼミ」では審査委員やほかの参加者と交流する機会があるようですが、その後もつながりが続いているのですね。

フォローアップ・ゼミの様子。受賞者や応募者が参加できるプログラムで、応募作品について簡潔にプレゼンし、審査委員からレビューやアドバイスをもらうことができる
奥村:横のつながりで言うと、同じ年に受賞した方にサービス開発をお願いしていたり、みんなでよく展示を見に行ったりしています。そうした、共に歩む仲間ができたのも心強かったです。
項:奥村さんが参加された年度の受賞者の方々は私たちの年度の参加者にも積極的にコミュニケーションをとってくださっていますよね。横のつながりとしては、私も同じ年度の受賞者が「MYMORI」プロジェクトのビジネス面を手伝ってくれていたり、ほかの方にも技術面で教わる機会があったりして、うれしい出会いでした。
猪村:私自身は、奥村さんや、2023年度に「死んだ母の日展」で優秀賞を受賞された中澤希公さんと交流の機会があり、一歩二歩先でデザインを活用しながらチャレンジしている仲間と出会えたことは大きいなと思います。
――奥村さんと猪村さんは、どこで交流する機会があったのですか?
奥村:猪村さんが受賞した後の懇親会に参加した際、思いきって声をかけたのが最初でした。もともと私がSNSでChild Play Lab.の活動を知っていて、気になっていたんです。その後も、活動のスタイルや文脈が近いこともあり、同じ助成金に採択されるなど、それ以来お会いする機会が何度もありました。
猪村:奥村さんが受賞したのは2年半ほど前になると思うのですが、社会に浸透してみなさんの応援が力に変わってきている姿を目の当たりにして、将来像を見据える際の大きな指針になっています。