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2025/06/16 12:05

“あそびをデザインする現場”に学ぶ-グッドデザイン・ニューホープ賞 受賞後プログラムレポート2 / 2 [PR]

“あそびをデザインする現場”に学ぶ-グッドデザイン・ニューホープ賞 受賞後プログラムレポート

ジャクエツの生み出したあそび環境に触れる

本プログラムの最後は、冒頭で登壇した田嶋さんが手がけた「RESILIENCE PLAYGROUND」の遊具がある都立明治公園へ。田嶋さん自らの案内のもと、実際の遊具を目の前にデザインのこだわりや想いが語られました。

20名ほどの参加者と、説明をする田嶋さん

この日は休日で、「RESILIENCE PLAYGROUND」は大勢の子どもたちでにぎわっていた

明治公園には3種類の遊具が設置されています。1つ目はトランポリン遊具「YURAGI」。トランポリンでありながら、跳躍の高さではなく揺れ体験に重きを置いた遊具です。医療的ケア児と健常児であそびが分断されないよう、寝たきりの子でも健常児がつくり出す揺れによってあそびを共有できることを目指したと田嶋さんは言います。

ドーナツ型の遊具に寝転がる田嶋さんと、その周りで飛び跳ねる参加者

「YURAGI」。揺れる遊びを実践してみせる田嶋さん

デザインの細やかな工夫について「寝転がった子と揺れがつながるようにドーナツ型の形にしたり、どの角度からでも遊びに参加できるよう円形にしたりするなど、形にはとてもこだわりました」とコメント。

また、参加者から「遊具のサイズはどのように決定したのか」と問われると、「リアルな話、分解せずに運搬できる限界のサイズがこのサイズでした。部品ごとに分解してよりサイズを大きくすることもできましたが、つなぎ目ができることで分断が生まれてしまうのは避けたかったので、このサイズに決定しました」とコンセプトと実現性の葛藤についてもお話されていました。

遊具の感触を確かめる参加者

2つ目はスプリング遊具「UKABI」。馬型の遊具ではまたがることが難しい医療的ケア児でも揺れを楽しめる浮き輪型のデザインが特徴です。「浮き輪で遊ばせてみたい」という医療的ケア児の保護者の声から着想を得てデザインされました。大人が座ると大きく揺れ、子どもが座ると穏やかに揺れる絶妙なバランスで設計し、手すりなどがなくとも安全に遊べる遊具に仕上げたと言います。

遊具に乗ってみる参加者

「UKABI」。自分がどう動いたらどう揺れるのか、どのような揺れを感じるのかを障がいの有無に関わらず楽しめる

3つ目は「KOMORI」と名付けられたブランコ。その名の通り球体の中にこもりながら揺れを楽しめ、身長180cmの田嶋さんもすっぽりと収まってしまうくらい大人も子どもも遊べる遊具です。

遊具の前で解説する田嶋さん

自分の好きな姿勢で、落下の心配が少なく遊ぶことができる「KOMORI」

「ブランコという遊具は、大きな揺れや景色の変化、鎖の音など感覚刺激にあふれた遊具です。医療的ケア児には感覚刺激を痛いと感じ取ってしまう子も多く、どうしたら刺激を和らげることができるだろうと考えながらデザインしました」と田嶋さんは語ります。

大きな揺れを防ぐ底面のストッパー、温度変化や匂いの少ない素材、音の出ないステンレスワイヤーを使用した鎖部分など、できる限り刺激を排除した細かなこだわりについて紹介されました。

遊具の中に入る参加者

中に入ってみる参加者。「入口は狭いですが、中は意外と広いんですよ」と田嶋さん

プログラムを終えると、多くの参加者が田嶋さんのもとへ。参加者からの「インクルーシブデザインに挑戦するにあたって、制作側のバイアスをなくすにはどうすれば良いか」という質問に、田嶋さんは「バイアスを持っている相手には言葉だけで伝えるのではなく、実際に子どもたちが遊具で遊んでいる様子を動画に撮って見せていました。安全性を危惧している人も実際に医療的ケア児が楽しんでいる姿を見るとみんな納得してくれるんです」と実体験を踏まえて回答。

実際に医療的ケア児たちが遊具で遊んでいる動画も見せてもらい、「こんなに揺れても意外と平気なんですね」と参加者も驚きと納得の反応を見せていました。

参加者同士の交流や成長機会の獲得など、多くのメリットを実感

今回の「デザインの現場」見学会を終えた2名にプログラムの感想をインタビューしました。

1人目は、工学部でデザインを学ぶ大学生の田中快さん。2024年度ニューホープ賞では「BOX+」という新しいピザ箱を提案し、入選しました。

田中快さん

田中快さん 千葉大学工学部総合工学科デザインコースに所属

――受賞後プログラムに参加して、得られた気付きや学びはありましたか?

私は学部4年生ですが、プログラム参加者には1~2年年上の社会人の方が多く、フリーのアーティストとして活動する方や、会社に所属して誇りを持って働く方、進路に迷っている方など、いろんな人がいます。デザインに携わるなかで、さまざまな生き方があることを知ることができました。

また、「デザインの現場」見学会はジャクエツさんのほかにデジタル庁、コクヨさんの回に参加しました。登壇されたデザイナーのみなさん一人ひとりの、外からでは見えない働き方や信念のようなものに近づくことができたのは、大きな収穫になったと思います。

――受賞者同士の交流などはありましたか?

いくつかプログラムに参加するなかで知り合った方の展示を見に行ったりしました。また、参加者同士、SNSでもゆるくつながっていますね。私は普段、工学部のなかでデザインを学んでいるため「論理」に重点を置いていますが、ここでつながるみなさんはほかの学部や美大出身で、工学部とは異なる視点で作品をつくられているので、とても刺激になっています。

2人目は新卒2年目のグラフィックデザイナー・岩佐小春さん。大学時代の卒業制作をブラッシュアップしたペットボトルのオープナー「Kurutto」を出品し、2024年度グッドデザイン・ニューホープ賞に入選しました。

岩佐小春さん

岩佐小春さん 昭和女子大学環境デザイン学部環境デザイン学科卒業

――「デザインの現場」見学会に参加して、得られた気付きや学びはありましたか?

田嶋さんのお話を通じて、これからデザイナーというキャリアを歩む上での指針ができたと感じています。特に「3つ以上の居場所を持ちつづける」というお話にはとても感銘を受けました。社会人になっても学びつづけるために、自ら居場所を増やして学びの機会をつくっていきたいと思います。

――これからグッドデザイン・ニューホープ賞に応募しようと考えている人に向けて、メッセージをお願いします

応募費無料で、卒業制作の作品も出せる。グッドデザイン・ニューホープ賞はほかと比べてかなりハードルの低いアワードだと思います。さらに受賞するとたくさんのワークショップやこのような見学会に参加できるのもとても嬉しい特典です。私はこれまですべての受賞後プログラムに参加しており、視野が大きく広がったと実感しています。自分が成長できる機会をゲットできるので、ぜひ応募してほしいです!

2025年度審査委員・田嶋宏行さんより応募者へメッセージ

見学会を開催したジャクエツの田嶋さんは、2025年度グッドデザイン・ニューホープ賞の審査委員でもあります。そこで田嶋さんに、同賞に応募するみなさんへ期待することなどをうかがいました。

田嶋宏行さん

――「デザインの現場見学会」の内容を、受賞者のみなさんにどのように活かしていってほしいと思いますか?

「デザインの現場」見学会では、生き方・働き方を普段の生活とは違った視点で捉えてほしいなと思いながら、アテンドをさせていただきました。「あそび」という視点で課題解決をおこなう仕事はめずらしいと思いますし、ジャクエツ東京本社のあそびのデザインやアートに囲まれた職場環境も刺激が多かったのではないかと思います。

また、私がグッドデザイン賞で大賞をいただいたプロジェクト(遊具研究プロジェクト RESILIENCE PLAYGROUND プロジェクト)は、「遊具と医療」「社内と社外」という“淡い”領域から生まれたもので、そうした在り方やプロセスをお伝えすることで、みなさんが今後、視野を広げ、心地よく生きるヒントとして受け取っていただけたら嬉しいです。

――2025年度のニューホープ賞の審査委員として、応募者にどのようなことを期待しますか?

見学会参加者のみなさんから、ニューホープ賞で受賞した作品について直接お話をうかがい、それぞれの気付きにいたるプロセスや、アイデアを社会へ届けようとする熱量に深く感動しました。どの作品にも「自分らしさ」が色濃く表れており、その個性が多くの対話を生み出し、互いに刺激し合う場となったと感じています。

2025年度の審査委員を務めるにあたり、完成度だけでなく、アイデアの持つ可能性や背景にあるプロセス、そして応募する方の熱意にも注目し、未来へとつながる芽を丁寧に見つけていきたいと思います。

――そのほか、審査委員として今後のニューホープ賞への応募者へ伝えたいメッセージがあれば教えてください。

良い気付きやアイデアが生まれたときは、自分だけのものにせず、ぜひ周囲の人を巻き込みながら磨いてみてください。グッドデザイン賞の受賞者として、私自身も、気付きをまわりの人と共有し、ともに育ててきたからこそ最後まで折れずに走り抜けることができましたし、支えてくれる仲間と楽しみながら取り組めたのだと思います。

「自分らしさ」を大切にしながら、他者と磨き合うプロセスにこそ、アイデアが光る瞬間があり、感動を生む種があるのだと感じています。

普段見られないオフィス内部や先輩デザイナーの体験談、事例見学など盛りだくさんのプログラムで、刺激や発見にあふれた1日となりました。新しいデザイン領域に触れてみたい、もっと広い視野を獲得したいという方は、本アワードをひとつのきっかけとして応募してみてはいかがでしょうか?

文:濱田あゆみ(ランニングホームラン) 撮影:小野奈那子 編集:萩原あとり(JDN)

【開催概要】
■「グッドデザイン・ニューホープ賞」公式サイト
https://newhope.g-mark.org/
応募期間:2025年3月25日(火)~8月15日(金)まで
募集内容:応募者が独自に各種専修専門学校・大学・大学院において創作した作品で、2025年10月31日の本賞受賞発表日に公表できるもの
応募資格:個人またはグループとし、2025年4月1日時点で個人またはグループの全員が日本国内の各種専修専門学校・大学・大学院に在籍しているか、2024年6月1日以降に卒業・修了した者
賞:最優秀賞(1点)表彰状、賞金30万円、記念品/優秀賞(7点程度)表彰状、賞金5万円、記念品/入選(点数制限なし)表彰状
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