受賞者インタビュー
2025/03/06 12:00

「本当に描きたいもの」に立ち戻り、獲得した「FACE2025」グランプリ―齋藤大 [PR]

「本当に描きたいもの」に立ち戻り、獲得した「FACE2025」グランプリ―齋藤大

SOMPO美術財団が2012年度に創設した絵画公募展「FACE」。「年齢・所属を問わず、真に力がある作品」を広く募集し、新進作家を発掘する機会として幅広い世代に定着しつつある。「FACE2025」では新進作家へのさらなる支援を目的として、30歳未満の入選作家が対象の「U30フロンティア賞」も新設された。

今回、全国から1,312名の応募があり、入選作品57点(うち受賞作品9点)が決定。2025年3月1日から3月23日まで東京・新宿のSOMPO美術館で開催中の受賞入選展「FACE展2025」では、入選作が一同に展示されている。

グランプリは、2025年現在、東北芸術工科大学の芸術文化専攻 絵画研究領域に所属する齋藤大さんの作品「キャンプファイヤ」。赤々とした山々をキャンプファイヤの炎に見立てて描いたという本作のコンセプトや制作の過程、普段の作品づくりについて齋藤さんにうかがった。

公募展は自分の立ち位置を確かめることができる機会

——「FACE2025」のグランプリ受賞、おめでとうございます。まずは、受賞の感想や心境の変化などをお聞かせください。

「FACE」の受賞発表はインターネット上で公開されるので、最初は知り合いから「グランプリ受賞してるね!」と連絡がきて知りました。その日の午前中には大学の授業があったので、先生や仲間たちからいろんな賞賛の言葉をいただいて。

齋藤大さん

齋藤大 2001年宮城県生まれ。2024年に東北芸術工科大学芸術学部美術科洋画コースを卒業、2025年現在は同大学の芸術文化専攻絵画研究領域に在籍。Idemitsu Art Aword 2024 入選

僕の中でFACEは、これまでは鑑賞する立場で、現代美術の最前線だと思ってきました。そのグランプリを受賞するのは信じられないというか、すぐには実感が湧かなかったですね。

制作する中でモチーフや描き方に悩む期間もあったのですが、賞をいただいたことで、自分の制作の方向性は間違ってなかったんだと、いまは大きな自信になっています。

——自身の制作を肯定してくれる結果だったのですね。数ある美術賞の中で、同賞へ応募したきっかけはどういったものでしょうか。

最初に応募したのは大学2年生のときで、指導教員に「面白い賞があるから応募してみない?」と言われて知りました。このとき受賞は叶いませんでしたが、FACE展を観にいった際に、そのレベルの高さに驚いたんです。絵を観る心地よさや楽しさといった、純粋な感情が湧いてきて。

それからはFACEに続けて応募するようになりました。25歳以下は出品料が無料であり、年齢を問わずに評価してもらえるというのも応募の利点でした。

画面下半分に赤々とした山脈、上半分にエメラルドグリーンとブルーの鮮やかな星空が描かれ、キャンプファイアの炎が燃え盛るような躍動感ある白いストロークがその上に重ねられている油彩画

齋藤大「キャンプファイヤ」2024年、油彩・キャンバス/194×162cm

公募展や美術賞に出すことは、これから作家として生活していくために意義のあることだと僕は思っています。作品の制作後にSNSで発表したり自分で展覧会を開いたりすることももちろんいいと思いますが、外部の評論家や作家の方に審査してもらう機会は貴重です。

2、3年前は確かに実力が足りなかったと自覚しているのですが、試行錯誤の末に作品のモチーフが固まり、ある程度の実力がついたと感じていた年に受賞することができました。そうした意味で、客観的に自分の立ち位置を確かめることのできる場だと思っています。

自らが撮った写真をもとに、実際に足を運んだ場所や過ごした時間を描く

——普段の制作についてもお話をうかがいます。作品制作(油彩)を始めたのは高校1年生とのことですが、どのようなきっかけだったのでしょうか。

子どもの頃から絵を描くことは好きだったのですが、高校で美術部に入ったことがきっかけで、風景画を油彩で描くようになりました。風景を選んだのは自分の幼少期にルーツがあります。

山中の水辺に、苔の生えた石や木々がうっそうとしている様子を描いた油彩画

高校時代に描いた風景画「ガンスイ」 2018年、油彩・キャンバス/100×80.3cm

宮城の自然豊かな場所で育ったので、森の中を走り回ったり、木を打ち付けて家をつくったり、とにかく無邪気な子どもだったんです。そうしたなかで、描きたいものも自ずと森の中の風景や、川のせせらぎが聞こえるような空間になっていきました。

——現在の制作におけるモチーフやテーマについても改めて教えてください。

現在は、「日常を歩む身近な人々とそれを取り巻く風景」というテーマで制作しています。ただ、ここに至るまでは紆余曲折があり……。大学に入学したあと、一度は風景画をやめてしまったんです。というのも、同じ学年の学生が、自分の心の中にあるものを個性的に表現する人が多く、僕もそうしなければいけないと焦ってしまって。

現代アートに触れることも多く、自分の作品の中にコンセプチュアルアートのモチーフを取り込めないかと葛藤していた時期もありました。そうして自分にないものを求めて苦悩していたのですが、本当に描きたいものはシンプルで、高校までに描いていた風景画に帰ってきたのが大学4年生の卒業制作でした。

——風景に加えて「身近な人々」にも焦点を当てるようになったのですね。

どこかから拾ってきた人物のイメージであったり、友人からもらった写真の人物を描いてみようとしたこともあるのですが、なかなか気持ちが入りませんでした。それで、友人と旅行に出かけたり、自然の中で遊んだりしたときに撮った写真をもとに制作するようになりました。自分が実際に足を運んだ場所や過ごした時間の空気感や、そこにいる人物を重視しています。

——写真を制作に用いるようになったきっかけはなんだったのでしょうか。

小さい頃から模写をするのが好きだったので、その慣れの部分は大きいですね。普段から、絵にできそうな場面が訪れたら即座に何枚か写真を撮るようにしています。

「キャンプファイア」のためのコラージュ

「キャンプファイア」のためのコラージュ作品。自身で撮影した写真を部分的に切り貼りし、画面を構成。現在はこうした「コラージュドローイング」を下絵として絵画を制作している

写真を使って絵を描くメリットは、精巧で具体的な模写をしながら、同時にコラージュによって抽象的な要素をミックスできること。写実と抽象を行き来しながら、どちらの要素も取り込めるのが自分に合っているのだと思います。

幼少期から感じていた大自然への眼差しと飛躍するモチーフ

——ここからは受賞作「キャンプファイヤ」について伺っていきます。制作の動機や、作品に込めた思いをお聞かせください。

普段から友人とキャンプをするのが好きで、日常生活では感じ取れない要素に惹かれていました。人間社会は野生動物が近寄ってこないように安全な整備がされていますが、一歩山の中に足を踏み入れると、暗闇の中で聞こえる鳴き声や足音に恐怖を感じます。

一方で、焚いた炎やその上空に広がる星空には何にも代え難い美しさがあって。そうした大自然への畏怖というのが、象徴的なモチーフになっています。山々や夜空のスケール感を表現するために人物も配置しています。

指をさしながら作品を説明する齋藤さん

燃えるような山々と、その麓に人物が2人描かれている

——今作で新たに挑戦した表現があれば教えてください。

描かれている山は山形と宮城の県境にある蔵王山で、この山々をキャンプファイヤの炎に見立てています。こうした、自然物を何かに見立てるという飛躍は今作が初めてでした。燃え盛る山々は星空への捧げ物で、それらは荘厳さと美しさを兼ね備えた大自然への畏怖を表しています。

加えて、星空には白い筆のストロークが走っていますが、これはマスキングインク(色をつけたくない部分を覆う液体)を使って白抜きしたものです。これも今作で初めて取り入れた手法で、あまり強く主張しないストロークがつくれたのではないかなと思います。

「キャンプファイア」星空の寄りの写真

白抜きで表現されたストロークと、白い絵の具のタッチが混在する星空

——受賞展を観にくる方に、「ココに注目してほしい!」という点があれば教えてください。

マスキングインクのストロークに加えて、細かく点描で星を打っていたり、星空の色にも微妙な差異をつけたりしています。そうした部分は近くで観てみてほしいです。逆に遠くから観るとスケール感も伝わってくるかもしれないので、離れたり近づいたり、いろんな見方をしていただけるとうれしいです。

——今後の作家活動についての展望を教えてください。

あと1年、大学院の期間が残っているので、表現手法を模索し続けて、やれることをやり尽くすイメージでがんばりたいなと思っています。その後は関東方面に引っ越して、そこを拠点に制作を続けていきたいなと思っています。

直近では3月22日から30日まで、東京都文京区の「ロイドワークスギャラリー」でグループ展があるので、お近くの方はぜひ観にきていただきたいです。

——最後に、「FACE2026」への応募を考えている方にメッセージをお願いします。

作品を制作するなかで、誰しも悩んだり行き詰まったりしてしまうことがあると思います。そうした際に、公募展に出すことで何か得られるものや、新たな気づき、気持ちの変化が生まれるはずです。客観的な評価によって見えてくるものが必ずあるので、ぜひ応募してみて、自分の立ち位置を確かめてほしいなと思います。

FACE展2025 概要

●会期
2025年3月1日(土)~3月23日(日)10:00~18:00
※入館は閉館30分前まで、月曜休館

●会場
SOMPO美術館(東京都新宿区西新宿1-26-1)

●観覧料
800円/高校生以下無料
※中高生は学生証・生徒手帳を提示すること
※障害者手帳、被爆者健康手帳を提示の方は無料(詳細は公式ホームページにて確認)

公式ホームページ
https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2023/face2025/

FACE2026 募集概要

●応募期間
2025年9月8日(月)~10月9日(木)

●賞
グランプリ(1点) 賞金300万円
優秀賞(3点) 賞金50万円
他賞あり

●募集内容
未発表の平面作品

執筆:原航平、撮影:石垣星児、取材・編集:萩原あとり(JDN)

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