住まう人とアートの時間を紡ぐ。学生が挑戦できる立体アートコンペ「AAC 2024」最終審査会レポート2 / 2 [PR]
最優秀賞は中居瑞菜子「Be yourself」。空間の中で人々と育む未来を想像させる
同日夕方には、賞の発表と授賞式が行われた。審査員たちの熱い議論の末、最優秀賞は中居瑞菜子さんの「Be yourself」に決定し、賞金100万円が授与された。優秀賞の遠藤由季子さんと三原航大さんには賞金20万円が贈られた。
審査員長の鈴木さんから、「中居さんの作品は、居住者が過ごす時間に、作品が生きて育っていく時間を重ねていく、非常に良い作品でした。エントランスの外から近付くにつれて見えてくる演出的な面白さもありました」と受賞理由を語った。
「三原さんには我々も知らなかった地域の歴史を教えていただきました。やはり時間の感覚が刷り込まれ、照明によってさらに引き立つように見えました。遠藤さんの作品は、実際に大理石の壁に設置するともっとこうしたいという点も見えてくると思います。3作品とも、ガラスや漆という一般の学校教育では触れることのできない素材。居住者にとって豊かな鑑賞経験になるとも思いました」と、コメントした。
審査員の三沢厚彦さんは、「特徴的なエントランス空間にどう作品を置くかが審査基準の一つになりました。中居さんはスタイロフォームで原型を作る際のアールを手で様式的に形作るクオリティが素晴らしい。漆の発色も良く、マンションのモノクローム空間がガラッと変わる味わい深い作品でした」と解説。
「遠藤さんはガラスにクラックをあえて施した労作で、照明の当て方で光と影の見え方も変わる。ただ、異素材の接合にもう一工夫あっても良いかと思います。三原さんは街の歴史をコンセプトに優れた作品を見せてくれましたが、エイジングが気になりました。有機溶剤を使う際に顔料を濁らせてしまうこともあるので、やはり最後の仕上げが難しい点だったかと思います」と、話した。
審査員の藪前知子さんは、「芸術作品は、既存の考え方をどう説き解していくかが重要で、なおかつパブリックな場所に恒久設置するため、コンセプト的にも技術的にも“時間”をどうコントロールするかがテーマとしてあると思います」とコメント。
「三原さんと遠藤さんはなぜこの形なのか、もう少し説得力があるといいなと思います。一方、中居さんは漆という素材とモチーフのせめぎ合いがうまく作品になっている。ちょっと懐かしいファンシーさもあり、未来的でもあり、見たことがあるようで見たことがないデザインでした」と、3作品について話した。
大賞を受賞した中居さんは、「公共の場所に作品を置けるような作家になりたいと思ってきたので嬉しいです」と喜びを語った。「前回は作品単体に注力していましたが、今回は置く場所にどう影響を与えられるかを一番に考えました。設置場所は石や木などが組み合わされた空間だったので、馴染みつつ主張するような作品を目指しました」。
漆はきちんと保存されれば時間の流れを「現在」だけでなく「未来」にも向けられると考え、古き良きものと新しさの融合を意識したといいます。
遠藤さんにチャレンジしたところを尋ねると、「クラックの最初の形は自分で作り、その後は温度差で自然的に生まれる形を見せたかった。自分ではコントロールできないものと、最終形に向けた最初と中盤のコントロールをどうするかが課題でした」と語った。
これまでもクラックによる表現を追求してきた遠藤さん。今後も表現を突き詰め、ギャラリーなどでも展示をしてみたいと展望を話した。
三原さんに、歴史を調査した後、どのように形に落とし込んだか尋ねると、「歴史を調べてコンセプトを明確にした分、形は抽象的にした」という。それは人や出来事、社会などとのつながりに影響される自身の内面を風景として作り起こす普段の制作に近いのだという。今後については「今回の講評を参考に、今後もアイデンティティーを失うことなく、見る人の気持ちも考えながら制作していきたいと思います」と抱負を語った。
3人とも制作費などの支給によって、これまでやったことのないことに挑戦でき、審査におけるアドバイスにも感謝の弁を述べていた。
また、毎回AACの募集告知のためのポスターデザインもコンペを通じて制作されている。今回の「AACポスターコンペ2024」では、武蔵野美術大学 造形学部 視覚伝達デザイン学科1年(※応募当時)の北田恵一さんによる「円柱 want you」が最優秀賞を受賞した。
審査員は宮本武典さん(キュレーター、東京藝術大学准教授)、佐々木俊さん(グラフィックデザイナー)、服部会長の3名。文字のみを使う過去にないアプローチが、佐々木さんとのやりとりを通じてさらにブラッシュアップされ、AACの告知ポスターやリーフレットとして全国の学校や駅、美術館などに掲示された。
立体の審査会では、これまで安全面や作品の強度、経年変化なども考慮されてきたが、今回それを「時間」という概念に転換し、三者三様の提案があったことが興味深かった。
アーバネットコーポレーションが目指す「住み心地に文化的要素を取り入れた住空間」にとって、「時間」は今後も大切な要素の一つになりそうだ。これまでの大賞作品が、それぞれの場所で人々にどんな時間を提供しているかにも想像が広がった。
文:白坂由里 写真:白松清之 編集:石田織座(JDN)
公式ホームページ
https://aac.urbanet.jp/