受賞者インタビュー
2024/10/09 12:05

世代や国境を越えた交流をカッティングシートの「海」で表現-CSデザイン賞受賞者インタビュー [PR]

世代や国境を越えた交流をカッティングシートの「海」で表現-CSデザイン賞受賞者インタビュー

商業施設や展示空間など、いたるところで使われている装飾用の「カッティングシート®︎」。単色やメタリック、透明など全273色の豊富なバリエーションを持ち、切る、貼る、はがすことで空間を自由に演出することができます。

そんなカッティングシートを使用し、適切で創造性に優れたデザインを発信・共有するアワード「CSデザイン賞」が23回目の開催を迎えました。今回、その学生部門で金賞を受賞したのは、多摩美術大学 グラフィックデザイン学科3年(作品応募当時)の白石水遼さんによる「かがやき」です。

課題となったのは、目の前に横浜港が広がる象の鼻パーク内、「象の鼻テラス」の全長14m、高さ2.3〜3.5mのガラス面。多くの人が行き交う山下臨港線プロムナードから眺められるこのガラス面を舞台に、テーマ「新しい“文化交流”の場を創造するデザイン」が出題されました。

本記事では、白石さんに普段の創作のことから受賞作品のコンセプト、カッティングシートの素材の魅力までお話しいただきました。

油絵のルーツを持ちながら、大学ではあえてデザインを専攻

――大学ではグラフィックデザイン学科に所属しているとのことですが、普段はどのようなことを学んでいますか?

現在は「ポスター」のデザインについて集中的に学んでいます。近ごろは情報機器の発達やデジタル化によって、街中でポスターというものはあまり機能しないものになっていると思います。正直、衰退しつつあるメディアだと思うのですが、今後どのようにしてポスターに新しい価値を付与していくことができるか、模索しています。特に僕は、「紙媒体」であることと「手描き」である点にこだわってポスターを制作中です。

――なぜ「手描き」なのでしょうか。

もともと僕が高校時代から油絵を専攻していたことも関係しています。いまはデザイン系のソフトが発達しているので、僕みたいな若い学生でもデジタルの線を使えば簡単にそれっぽいものがつくれてしまうんです。

だからあえて、昔ながらの泥臭さというのか、緊張感のある線を求めて手描きで制作しています。「どうやってつくったんだろう?」と思わせられる表現が理想ですね。作品は抽象絵画のようなイメージで、誰がどう見て、何を受け取ってもらってもいいようなポスターを目指しています。

カラフルな色合いの抽象的なポスター作品6点

白石さんが大学の課題で制作したポスター作品「lump of flesh」

――高校では油絵を専攻していたとのことですが、大学でグラフィックデザイン学科を志望したのはどういう理由からだったのでしょうか?

もともとの希望はデザイン系よりも油絵などのファインアート系で、「とにかく絵を描きたい」という思いがありました。ただ、同じ環境にいてもあんまり成長できないかなとも思い、現在の学科を選んだんです。まったく異なる分野だからこそ、学ぶことはとても多いです。

特に、デザインは作品のコンセプトや言語化の作業がとても重要。ビジュアルの意図や制作背景を伝える技術を学ぶことで、自分の作風にも変化が現れています。絵画的な面で言うと、以前に比べてシンプルになってきています。荒っぽい線がどんどんなくなり、説明的になりすぎない作品ができ上がっていると思います。

モノクロの抽象的なポスター作品10点と鑑賞する人

白石さんが大学の課題で制作したポスター作品「返したい言葉があるんだ。」

横浜の港と象の鼻パークの歴史を紐解き、「海」をキーワードに

――今回受賞された作品も、単色のシートを使ったシンプルで大胆な表現が評価されていました。白石さんはどのようなきっかけから「CSデザイン賞」に応募したのでしょうか?

学生に向けたデザインコンペは意外と限られているので、CSデザイン賞は大学に入る前から憧れの賞でした。ポスターのデザインを担当されている永井一正さんも僕はずっと大好きだったので、大学生になったら必ず応募しようと思っていたんです。

受賞作品は実際に街の中の建造物に施工され、多くの人に見てもらえる点も魅力でした。また、作品を設置する象の鼻テラスは自宅からとても近く、以前からよく足を運んでいたのも応募の決め手のひとつでした。

施工された作品「かがやき」を正面から見た様子

「かがやき」が施工された象の鼻テラスのガラス面(写真提供:中川ケミカル)

――応募の結果、見事金賞を受賞されました。その連絡があった際はどんなお気持ちでしたか?

最初に電話がかかってきた時は少し寝ぼけていたのか、何かの賞は受賞したらしいけどそれが金賞だとは理解できていなかったんです。なので、後日文面で金賞だと伝えられた時にはびっくりしました(笑)。

1年生の頃からさまざまなコンペに作品を出してきましたが、まったく結果が出なくて。ただ、自分の表現が社会でどのように評価されるかを知るために、ずっとコンペには応募し続けようと思っていました。だから、今回初めて作品に対して審査員の方々から言葉をいただいて、自分の位置を知ることができてうれしかったです。

話をする様子の白石水遼さん

――今回の募集テーマを受けて、具体的にどのように発想を膨らませていきましたか?

まずは何度か象の鼻テラスへ行きました。いつもとは違う客観的な視点で見てみると、海外の人や子ども連れの家族など、年齢を問わずさまざまな人が来る場所だという印象を受けました。

僕がいつもコンペに応募する際は、「募集テーマに一番適した答え」を考えるようにしているんです。今回の募集テーマは「新しい“文化交流”の場を創造するデザイン」。これに一番合ったキーワードは何かなと考えて、「海」を思い浮かべました。

それには、この場所の成り立ちや、歴史性を考慮した点も大きかったです。象の鼻パークは、横浜港の開港150周年を記念してオープンした公園で、横浜港はペリーがはじめて日本に降り立った地です。海外との貿易や国交において重要な役割を果たした場所。世代や国境を越えた交流のモチーフとして海を用いることで、場所の特性が浮かび上がると考えました。まずはこうしたコンセプトから考えて、ビジュアルに落とし込んでいきました。

「かがやき」が施工されたガラス面、カッティングシートの抜けの部分に横浜の街が写る

ガラス面の向かいには横浜の街が広がる(写真提供:中川ケミカル)

――作品のコンセプトは、審査員の方々の講評でも高く評価されていました。

背景や歴史については、元から知っていることもありましたが、事実を再確認するために改めて調べ直した部分が大きかったです。難しかったのは、コンセプト文を考える段階です。大学でも練習しているところですが、僕は短い文章で要点を伝えるのがまだ苦手で。考えた文章を友人に見せてアドバイスをもらいながら、ブラッシュアップしていきました。

求められていることの最適解を出すつもりで挑んだ

――実際に作品をつくり上げていったプロセスについても教えてください。

今回の作品は写真が元になっています。波の輝きを一番わかりやすく見せたかったので、何枚か波の写真を撮って、見栄えのいいものを選びながらデザインを調整しました。本当は手描きでつくってみたかったのですが、波の躍動感やライブ感みたいなものがどうしても手では描けなかったので、写真を加工する形で制作していきました。

――「かがやき」を制作する中で、特に苦労したことはありますか?

苦労というわけではないのですが、一通り作品をつくり終わった後に、これは学生に向けたコンペにしてはちょっと表現が硬いのではないかと思ったんです。どこか説教臭くて、学生のフレッシュさはないのかなと。だから急いでもう一案、自由につくってみたのですが、そっちは全然ダメでしたね。

「かがやき」は、自分の好きなようにつくるというよりは、求められていることの最適解を出そうと思って挑んだので、少し硬くなった部分もあったのかもしれません。ただ、それでも評価していただけたのは自信につながりました。この経験は次につなげていきたいです。

――実際に象の鼻テラスに施工された作品を見た時の印象はいかがでしたか?

悪目立ちせずに、この場所にうまく溶け込んでいるのを見てうれしかったです。カッティングシートの発色がすごくよかったですね。僕は普段、紙媒体をおもに使っていますが、印刷とカッティングシートではここまで発色が違うのかと生で見て驚きました。天気がいいとさらに見え方がよかったです。

作品に顔を近づけて細部を確認する白石さん

カッティングシートと透明なガラスの相性のよさ

――今回はカッティングシートという素材が決まっている中での制作でしたが、これまで培ってきた知識や経験が活かせたと思うところはありますか?

これまでカッティングシートに触れる機会はほとんどありませんでしたが、使用する場所が平面ではあるけど空間的という意味ではポスターや広告に近しいものを感じました。「かがやき」もそうですが、透明なものとの相性もいいなと思います。カッティング加工によってガラスを活かすことで、さまざまな表現の可能性があると思うので。あと、貼ったものを簡単に剥がせるところもいいですね。体験型広告みたいなものにも使えそうで、表現や知識の幅が広がりました。

普段、紙でポスターをつくっていると、場所に「溶け込む」という前提はあまり考慮されません。壁やガラスなどに貼っても、やっぱりちょっと浮いてしまうものなんです。しかし、カッティングシートを使えば建物やその場所のよさを残したまま、デザインを見せることができる。空間に溶け込む装飾としてすごく使い勝手がいいと思います。これだけ大きなガラスに作品を貼らせてもらえることもないので、新しい素材を知るとても貴重な機会でした。

「かがやき」全体の様子

多くの人が行き交い、海を眺めたり、芝生に腰掛けたりして過ごす象の鼻パーク。そこに溶け込む「かがやき」

――今回は濃いブルーの1色を使用していましたが、どのように色を選びましたか?

実際に貼られた時を想像して、建物の本来のよさを損なわず、ビビッドすぎない色合いがいいなと思い、落ち着いた青を選びました。実物を見て、そこは想像通りにできていたかなと思います。

表現だけでなく、コンセプトを伝える「言葉」を磨いていきたい

――今回の受賞を受けて、今後制作していきたい作品やテーマにしていきたいことがあれば教えてください。

表現そのものの技術というよりは、コンセプトや、それを表現する言葉をもっと学んでいきたいと思っています。高校までのファインアートの制作ではでき上がった作品重視、ビジュアル重視みたいなところがありましたが、作品を見てもらう上でそれを説明する言葉はすごく大事だと思うんです。

例えば、なんだかよくわからない真っ白な立方体があったとして、そこに「豆腐」という言葉がつくだけでその立方体を豆腐として見ることができる。デザインにはそうした言葉の強さも必要で、自分にはまだ足りてない部分だと感じています。残りの学生生活で言葉の精度を高めていきたいと思います。

「かがやき」の前に立つ白石さん

■CSデザイン賞 公式サイト
https://www.cs-designaward.jp

文:原航平 撮影:石垣星児 取材・編集:萩原あとり(JDN)

初出:デザイン情報サイト[JDN]
https://www.japandesign.ne.jp/interview/cs-designaward-23th-student/

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