受賞者インタビュー
2024/06/03 14:00

職人とデザイナーで磨き上げた新たな伝統工芸のカタチ。「東京手仕事」商品開発プロジェクト受賞者インタビュー2 / 2 [PR]

職人とデザイナーで磨き上げた新たな伝統工芸のカタチ。「東京手仕事」商品開発プロジェクト受賞者インタビュー

職人・デザイナー・アドバイザーの三者での商品開発

――マッチングが成立してから商品開発まではどのように進めていったのでしょうか?

マッチングしてからは、GLASS-LABさん、私、プロジェクト事務局に所属する商品開発アドバイザーの三者で細かな仕様を詰めていきました。

平切子は、グラスの側面や下部を円盤型の研磨機を使ってフラットに削りかたちづくる江戸切子の一種。平切子に水を入れると、グラス底面の模様が削られた面に反射し、万華鏡のように見えます。特にGLASS-LABさんは、砂を吹き付けて模様をあらわすサンドブラストによる繊細な模様づくりを得意とされ、グラスに水を注ぐとその模様が複雑化してさらに美しく変化するんです。

一方、「蛇ノ目切子」の蛇ノ目模様は円2つというシンプルなデザイン。お酒を注ぐまでどのように反射するかわからないため、「どうなるんだろう……?」とドキドキしながら試作を待ちました。試作品ができあがって水を注いだ時、「これはいける!」と確信したのを覚えています。注ぐ前のシンプルなデザインからは想像できない模様があらわれて、このギャップはいろんな人に面白がってもらえるのではないかと思いました。

2つ並んだ蛇の目切子の片方に水が入っている

左が水を入れた状態。万華鏡のように蛇ノ目模様が反射する様子

――プロジェクト事務局からはどのようなサポートがありましたか?

専任のアドバイザーがついて、製作スケジュールの管理やプレゼン内容に対するアドバイスなど、チームに併走しながらサポートしてもらいました。

あとは最終選考前に市場調査を実施することで、作品のブラッシュアップができました。実際に作品をお店に置いてもらって、お客様の生の声を聞くことができてとても参考になりました。特に価格設定は商品として受け入れてもらえるかどうかにおいて重要な要素なので、直接ヒアリングできたのはありがたかったです。個人的には高いと感じられるかもと思ったのですが、幸いデザインへの評価が高く、江戸切子の相場くらいの価格で受け入れていただけたと思います。

高みを目指すために職人との信頼関係を築く

――東京都知事賞を受賞後、何か反響はありましたか?

正直に言うと、私自身大きな変化はないんです。商品がお店に並ぶ際にデザイナーの名前が出ることも基本的にはありません。でもそれでいいと私は思っていて。あくまでもこのプロジェクトの主役は職人さんで、デザイナーは黒子。自分の名前が世に出なくとも、自分が関わったものがどこかで誰かの生活を彩っている。その暗躍している感じがかっこいいんじゃないかと思っています(笑)。

インタビューを受ける松尾慎さん

東京手仕事商品開発プロジェクトは、事業者さんにとって参加すれば確実に変化が起こるプロジェクトだと思います。自分たちの技術とマッチするデザイナーとタッグを組んで商品開発ができ、製作費として経費補助があり、できあがった商品は、普及促進支援商品に選定されれば国内外の展示会でアピールができる。非常にメリットの多いプロジェクトだと思いますね。

――プロジェクトを振り返ってみて、職人さんとのやりとりで特に意識したことはありましたか?

職人さんとの信頼関係をいち早く築くため、できる限り直接対話をするように心がけました。直接話したほうがどこまで技術的に実現可能かすぐにフィードバックをいただけますし、対話の中でさまざまな提案をすることができる。なかなか難しいですが、職人魂に火をつけるような提案ができると、より良いものが生まれ、一気に心の距離が縮まると思います。

印象に残っているのが、グラスの飲み口についての議論。市場調査で一部のお客様から「もっと口当たりが良いほうがいい」という声をいただき、もう少し飲み口を薄く削れないかGLASS-LABさんに相談しました。GLASS-LABさんは「これ以上削るのは技術的に厳しい」と悩まれていましたが、最終的に「できる限りやってみます」とギリギリのラインまでチャレンジしていただきました。結果、さらにソフトな飲み口に仕上げられ、「蛇ノ目切子」をもう1段階レベルアップさせることができたと思います。

つくり手がワクワクするものづくりを一緒に考えていく

松尾慎さんの自宅の飾り棚に置かれた蛇ノ目切子

――最後に本プロジェクトへの参加を検討しているデザイナーの方にメッセージをお願いします。

何度か職人さんとマッチングをして感じているのは、コミュニケーションの大事さです。会社の規模、得意とする技術、考え方や価値観、すべてが違うからこそ相手のことを理解し尊重する姿勢が大事だと思います。

私が特に意識していたのは、職人さんが前向きになれないことはやってほしくないということ。やはり気持ちよく製作に打ち込んでいただきたいですしね。たとえ売れる商品ができても、コストや労力の面で職人さんが割に合わないと感じられたら意味がない。

もちろんより良いものをつくるためのチャレンジは必要です。そのチャレンジでつくり手のワクワクを引き出せたらベストだと思います。「東京手仕事」商品開発プロジェクトは、そういったほかのコンペにはない経験ができると思いますので、ぜひ参加してみてください。

■「東京手仕事」商品開発プロジェクト ビジネスパートナー(デザイナー等)募集

《応募期間》
2024年6月3日(月)~6月28日(金)※当日必着(締切17:00まで)

《募集内容》
「東京手仕事」商品開発プロジェクト ビジネスパートナー(デザイナー等)
※詳細は公式サイトを参照

《賞》
〈報酬〉
・「商品開発計画書」を主催者に提出したとき:委託料33万円を支給
・「試作品・試作報告書」を主催者に提出したとき:委託料33万円を支給
・「完成品・商品開発完了報告書」を主催者が認定したとき:委託料33万円を支給

《参加方法》
1. プレエントリー
公式サイトよりプレエントリーすることで事業者紹介動画を閲覧することが可能に
2. 本申込み
専用サイトより第3希望までマッチングを希望する事業者を選択してPRシートを提出
※参加費は無料

※詳細は、下記公式サイトを参照ください
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/dento/teshigoto/kaihatsu/index.html

東京手仕事商品開発プロジェクトの流れ
東京手仕事プロジェクトの流れ

①プレエントリー
公式サイトよりプレエントリーすることで事業者紹介動画を閲覧することが可能に
②本申込み
専用サイトより第3希望までマッチングを希望する事業者を選択してPRシートを提出
③マッチング会
事業者による書類選考を通過した方はマッチング会に参加
④開発チーム組成
マッチングが成立した方は公社と委託契約を締結して、商品開発をスタート
⑤開発計画書の提出
指定期日までに事業者と連名で提出
⑥試作品の提出
指定期日までに試作報告書と一緒に提出
⑦完成品の提出
指定期日までに商品開発完了報告書と一緒に提出
⑧完成品認定・普及促進支援商品選定委員会
完成品の評価を行い、普及促進支援商品に選定されたものは販路開拓の支援を受けることが可能に
⑨商品発表会
普及促進支援商品の発表、3賞の表彰を実施

文:濱田あゆみ(ランニングホームラン) 撮影:高比良美樹 取材・編集:萩原あとり(JDN)

初出:デザイン情報サイト[JDN]
https://www.japandesign.ne.jp/interview/tokyo-craft-kiriko-1/

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