リズムのある絵画を生み出したい Idemitsu Art Award 2023グランプリ 髙橋侑子1 / 2 [PR]
今年も新たな才能が発掘された。出光興産が主催する、40歳以下の作家による平面作品の公募展「Idemitsu Art Award」。1956年からの歴史を誇る「シェル美術賞」の思いを受け継ぎながら2022年に名称を変更し、より若手作家の支援に力をいれている。
52回目となる今年度の「Idemitsu Art Award 2023」では、617名の作家による831作品の応募の中から髙橋侑子(たかはし ゆりこ)さんの「室内のリズム」が選ばれた。髙橋さんは1998年北海道生まれ、山形県在住。東北芸術工科大学大学院 芸術文化専攻 絵画研究領域 修士課程1年に在学中の新進気鋭の作家だ。12月13日から国立新美術館で今年度の受賞・入選作品を紹介する「Idemitsu Art Award展 2023」を前に、髙橋さんに受賞作や今後の制作についてお話をうかがった。
通常の制作から作品を選んでコンペに挑戦
――「Idemitsu Art Award 2023」グランプリ受賞おめでとうございます。審査員全員一致での決定だったとお聞きしました。髙橋さんがこの賞に応募した理由を教えてください。
実物を見て審査していただけること、応募要件がS100号キャンバス(162.0×162.0cm)の大きさまでで、1人3点まで出品できることが応募の理由です。私自身が100号の絵画を制作するのが好きで、描きためた作品の中からM(162.0×97cm)、F(162.0×130.3cm)、S (162.0×162.0cm)の3点、色や内容などそれぞれ違う良さがあるものを選んで応募しました。総合的に見ていただけるのかなと思い、表現の幅の広さを見せられるように選びました。
――もともと大きい作品を描いていたのですね。
はい。コンペに出すために描いたのではなく、何かコンペに出そうかなと思ったときに、すでに描いた作品が要件を満たしているから出せるなと思いました。100号は長辺が自分の身長と同程度なので扱いやすく、自分にとって「大きい」という感覚は200号ぐらいからになります。
――髙橋さんの作品は3点とも二次審査に進み、なかでもグランプリ作品が一番強い印象を残したようです。日頃からコンスタントに制作を行っている中でコンペに挑戦したということが今のお話でよくわかりました。
色や形の自在な緩急でリズムを表現
――いつもどのように制作していますか? また、受賞作で新たに挑戦したことがあれば教えてください。
自分が行った場所、見たものなどから描きたいものや描けそうなものを描いています。ただ、今回の作品に取り入れた建築の構造は、自分が行ったことのない、ベネチアにあるオリベッティのショールームの写真を参考にしました。建築を学んでいる友人がヨーロッパに研修に行ったときに撮った写真がとても素敵で、絵に使う資料として貸し出してくれたんです。自分は現地に行っていないのでそのまま描くのは違うかなと思い、夏休みに旅先の市民センターで見たバザーのイメージを組み合わせて描きました。
――体験したものを描くのは、自身の足跡や記憶を辿るためなど、何か他の理由もあるのでしょうか?
いいえ、記憶を残すとかメッセージを込めるようなことはないです。私はイメージだけでは絵画を構成できないので、絵にリアリティを持たせるために、普段は自分で撮った写真などを見て描いています。そのとき絵として面白くなりそうなところだけを使って、実際のものとは変えています。
――壁や柱など建物の構造を使って画面を左右に2分割するような構図で描かれていますね。モチーフが謎めいていますが、どんなふうに選び取り、どのように構成していったのでしょうか。例えば右側では、はっきり描かれている人とほぼ輪郭線だけの人がいますね。また、床に無数の粒々が描かれています。
「室内のリズム」というタイトルにもつけた通り、リズムが主題なので、人の描き分けや緩急がよく見えてくるようなら、この絵は成功しているのかなと思います。床の粒々はバザーの品々の中にビーズで作ったアクセサリーがあったのを覚えていて、そのまま描いても面白くないので床に取り入れて描いたものです。
――絵の左側では、輪郭のブレた犬に目が留まりますね。その下には勢いのあるストロークで螺旋が描かれています。
動物を小さく入れ込ませることは他の作品でもしています。InstagramやYouTubeなどでその日見た動画を描くことにしていて、その日はサモエドの動画を見たんですね。右下にコアラを抱く男性がいますけど、その日はコアラの動画を見た(笑)。理由はなく、タイミングですね。左側が弱いので面白い形がないと絵がもたないなと思って犬を上に描いたら、今度は下が弱いので螺旋を入れました。そんなふうに描き足しながらできています。
――一つひとつ描いては画面とやりとりしながら足し引きするということでしょうか。
最初に下絵は描くのですが、ある程度完成させてキャンバスに入るとそれを遂行するだけになってしまうので、あまり決め切らないようにして様子を見ながら完成させていくのが自分はベストかなと思ってやっています。
――では、色はどのように塗っていくのでしょうか?
最初に一色だけ決めて一番強く見える広い面積を塗って、そこから自分のルールで隣り合う部分から色を合わせていきます。今回の作品は、最初に左半分の床をブルーに塗り、それに近い部分を黄色に塗っていきました。
――塗り方もさまざまに変えていますね。左上のカーテンの部分は絵具を分厚く盛っていて、その下はキャンバスの地のまま何も塗らず、線だけが引かれています。ひとつの画面にドローイング(線を中心とした絵画)とペインティング(絵具を塗ることを中心とした絵画)を共存させたいということではないのですか?
学内の先生にも同様の指摘を受けるのですが、自分ではそうした意識はないですね。
――一定の反復によるリズムではなく、ズレやギャップからリズムが生まれているようで飽きることなく眺めてしまいます。具象的なものを描いていると同時に抽象的でもある絵画を描きたいという気持ちはあるのですか?
具象と抽象のバランスを大事にしています。どちらかに寄ってしまわないよう、両方の良さが絵の中で共存できればと思っています。