「東京へのラブレターとして撮影」――ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2023 「Cinematic Tokyo」部門に応募する魅力とは? [PR]
アジア発の新しい映像文化の発信・新進若手映像作家の育成を目的として毎年開催されている「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(以下 SSFF & ASIA)」。米国アカデミー賞公認の同映画祭は2023年で25年目を迎え、世界120の国と地域から5,215作品が集まり約200点が上映された。東京都写真美術館にて10月19日~22日まで開催される「秋の国際短編映画祭」でも各部門の優秀賞受賞作品が一堂に上映される(10月27日までオンライン会場も開催中)。
SSFF & ASIAでは、東京の魅力を発信することを目的として、東京を題材にしたショートフィルムを募るCinematic Tokyo部門を2017年より実施している。2023年度は、2014年に日本に移住し、映画だけでなくミュージックビデオの制作にも携わるRaymond Doanさんの『君のかけら(Pieces of You)』が優秀賞を受賞。遠くの街に住んでいる離ればなれのカップルが、スマホのビデオ通話を通して交わり、またすれ違う姿を「東京」の風景とともに映し出した。
今回、Raymond Doanさんに東京での制作経緯をはじめ、作品に込めた想いや映画祭に参加することの魅力について語っていただいた。
LAではなく東京へ行くことを決心
――まず最初に、Raymond Doan監督の経歴と映像作家としてのキャリアについて教えてください。
私はサンフランシスコ州立大学のシネマプログラムを卒業後、サンフランシスコやロサンゼルスでさまざまなショートフィルムやインディペンデント映画、ミュージックビデオをつくってきました。これまでの生涯を通して、あらゆる種類の映画やアートワークを愛してきました。
――今回、Cinematic Tokyo部門で優秀賞を受賞した『君のかけら(Pieces of You)』を制作した経緯について教えてください。
学生時代に初めて東京を訪れて、この街のことをもっと知りたいと思うようになりました。いま思えば、それがひとつの人生の転機だったのでしょう。映画やテレビの仕事に就きたいと思っていましたが、ロサンゼルスでそのポジションを探す代わりに東京へ行くことを決めたんです。2014年のことでした。
東京に来てからは、参加できる映画のプロジェクトや、一緒にコラボレーションできるクリエイターや俳優を探しました。そして、非常に熟練した撮影監督であるFlávio Gusmãoや才能ある女優Yin Linaに出会った。こうして、東京で『君のかけら』をつくるプロジェクトが始まったのです。
長年の努力が報われた受賞に喜び
――『君のかけら』は東京を舞台に、Web上で出会った離ればなれの男女がスマホを通して一緒に旅をするなかで関係を深めますが、一方で、近くにいる友だちと過ごす時間が減り、仲違いをしてしまう姿が描かれていきます。こうした物語はどのような背景から生まれたのでしょうか。
実は私自身も遠距離恋愛を経験したことがあるのですが、たとえそうした経験がない人であっても、人生において周りの大事な人全員のために時間をつくることは難しいと思います。時には全くそのつもりがなくても、愛する人をないがしろにして傷つけてしまうことがある。この映画ではそうした感覚を表現しました。
――今作ではさらに、メールの文章ではなくビデオ通話や映像で交流する男女の姿を描いています。コミュニケーションの手段として「映像」を用いたのはなぜでしょうか?
手書きのラブレターもロマンティックで素敵ですが、『君のかけら』が追い求めたのはデジタル時代の恋愛を描くことでした。現代では、みんながポケットの中にあるスマホのテクノロジーで常につながっていて、それは人間関係にも大いに影響していると思います。そうした“現代ならではの恋愛”に興味があったのです。
――今作の撮影自体は2017年に行われたとのことですが、デジタル上のつながりを描いた物語はコロナ禍を経たからこそ響く部分もあると思います。制作から6年の時を経て、2023年に賞を受賞したことについてどのように感じていますか。
この映画はかなり時間をかけてつくられました。2017年の2月に撮影をスタートしましたが、一度中断があり、インサートショット(映像の合間に、補足的に別の映像を挿入すること)の撮影を再開したのは12月でした。そして2019年の12月には、最終的な再撮影も行っています。
編集作業などの撮影後の作業はパンデミックの間にも継続されました。そして信じられないことに、SSFF & ASIAでワールドプレミアを迎えたのです。本映画祭での公開や優秀賞受賞という結果は、まさにこうした長年の努力が報われた形だと思っています。
東京へのラブレターとして撮った
――SSFF & ASIAのCinematic Tokyo部門に応募したきっかけを教えてください。どのようにこの賞のことを知り、なぜ応募しようと思いましたか。
私は友人であるフィルムメイカーと神田の万世橋駅跡にある「常陸野ブルーイング・ラボ」という素敵な店でビールを飲んでいました。そしたらそこにいた誰かが私にCinematic Tokyo部門の存在を教えてくれたのです。『君のかけら』を発表する場所としてぴったりだと思いました。その出来事があってから、SSFF & ASIAが私の第一の目標になったのです。
――Cinematic Tokyo部門は、「東京」をテーマにした短編映画のコンペティションです。東京を舞台に映画を撮ることの面白さはどんなところにあると思いますか。
東京にはたくさんの名所があり、こんなにも美しくて興味深く、撮影するのに魅力的な街はありません。クリエイティブにあふれた才能ある人々もたくさん住んでいます。今回の映画制作では、出会うべき人と適切なタイミングで出会えたことが何度もありました。これも東京だからこそ起きたことだと思います。
――今作では原宿の竹下通りや渋谷のスクランブル交差点、浅草といった東京を代表する観光スポットが登場しますが、こうした華やかな場所を撮影地に選んだ理由を教えてください。
それらのスポットは単にアイコニックなだけでなく、私自身が東京のなかでも特に好きな場所でもあったからです。私は『君のかけら』を東京へのラブレターのようにつくりたかったのです。まだ東京に来たことがない人がこの作品を観たら、東京を訪れてみたくなるような。または、東京に来たことがある人であれば、その時の幸せな思い出を回顧できるような。
世界中のフィルムメイカーたちと交流できる機会
――Cinematic Tokyo部門はリアルな東京の姿以外にも、架空の東京を描いた作品まで広く募っています。『君のかけら』ではエンディングでイラストを用いたり、スマホの撮影映像をミックスしたりするなど工夫を施していますね。
主人公のキョウコが経験した記憶のすべてをさまざまな方法で描きたいという思いがあったのです。それら一つひとつが彼女の人生のカケラであって、エンドクレジットの後の最後のサプライズな展開へとつながっています。
――SSFF & ASIAに応募することの魅力について教えてください。ご自身の作品を発表する場として、最適だった点はなんでしょうか?
SSFF & ASIAは素晴らしい映画祭だと思います。上映会に参加できたことが本当にうれしかったですし、その場で世界のフィルムメイカーたちと話ができたのも光栄でした。Cinematic Tokyo部門はエントリー無料です。この素敵な映画祭に作品を送らない理由がありません。
――改めて、優秀賞を受賞された率直な心境と、映画監督としてのこれからの展望についてお聞かせください。
まさに夢が実現した瞬間でした。発表を聞いた時は信じられなかったほどです。大きなスクリーンに『君のかけら』が投影され、人々に観てもらえることの喜びを噛みしめました。
今後も映画制作はぜひ続けていきたいと思っています。そして、『君のかけら』と同様に皆さんから評価される作品をまたつくれたら、と思います。
――最後に、2024年度のSSFF & ASIAへ応募を考えている方へメッセージをお願いします。
一生懸命、鍛錬してください。ビジョンを明確にし、クリエイティビティを発揮すれば、きっとそれが最高傑作になるはずです。そしてSSFF & ASIAで幸せな時間を過ごしてほしいです。この映画祭の価値は私が保証します。
https://shortshorts.org/2023autumn/
2024年の映画祭に向け、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア「Cinematic Tokyo」部門の作品を募集中です(締切は2024年1月31日(水))。
https://compe.japandesign.ne.jp/shortshort-cinematic-tokyo-2024/
取材・文:原航平 編集:萩原あとり(JDN)