受賞者インタビュー
2023/02/24 17:35

何層ものプロセスから生まれる、どこにもないパラレルワールド 「FACE2023」グランプリ 吉田桃子 [PR]

FACE2023グランプリ吉田桃子
SOMPO美術財団が2013年に創設した絵画公募展「FACE」。「年齢・所属を問わず、真に力がある作品」を広く募集し、新進作家を発掘する機会として幅広い世代に定着しつつある。今回の「FACE2023」にも国内全域から1064名の応募があり、このたび入選作品81点(うち受賞作品9点)が決定した。2月18日から3月12日まで東京・新宿のSOMPO美術館で開催されている受賞入選展「FACE展2023」では、入選作81点が一同に展示されている。

グランプリは、アーティスト・吉田桃子さんの作品「Still milky_tune #4」。若者3人の日常の一瞬が描かれ、ポリエステル布を透過する光と浮遊感とにあいまって、現実とバーチャルのあわいを感じさせる不思議なイメージの作品だ。そこで編集部では、作者の吉田桃子さんに、受賞作のコンセプトや制作の過程、普段の作品づくりや表現についてうかがった。

空想、客観、表現の多層プロセスを経て、リアリティと余白の合間を描く

「FACE2023」グランプリ受賞作品

吉田桃子「Still milky_tune #4」アクリル・ポリエステル布/112×106cm

――「FACE2023」のグランプリ受賞おめでとうございます。受賞作に込められた意図やメッセージをうかがえますか。

ありがとうございます。この作品は、自分や近しい友人の要素を持つ分身のようなキャラクター3人を中心に、彼らが自分と同じ青春を送っていたら、というパラレルワールドをイメージして描きました。私の創作の原点にあるストーリーやイメージをたくさんの手法で変化させて形にしたものなので、鑑賞する方には特定のメッセージというより、自由に何かを感じていただけると嬉しいです。

――キャラクターを中心とした世界を表現しているんですね。アニメーションにも似た手法かと感じました。キャラクター設定のもとになるアイデアは日常的に探されているのですか?

はい。設定づくりが好きなのでいつも考えていて、この3人も私や近しい人の性格や外見、会話や仕草の記憶から生まれた存在です。パラレルワールドも私の生活と並行した身近な世界で、そこでできたキャラクターやストーリーがつねに作品の原点になっています。

吉田桃子

吉田桃子 1989年兵庫県生まれ、京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画を修了。主な受賞にアートアワードトーキョー丸の内 2016 三菱地所賞、ART IN THE OFFICE 2019、Idemitsu Art Award 2022 正路佐知子審査員賞。

――上部が絵、下部に絵の具の垂れという画面の構成が特徴的です。垂れをあえて記しているのは、どんな思いからでしょうか?

多めの水で溶いたアクリル絵の具を用いて絵を描いているので、下部へ絵の具が垂れていくのですが、これは私の制作に影響しているものが音楽、特に記録音源という媒体であることとも関連した表現となっています。

――音楽の中でも記録音源、ライブ会場で聴くようなものではなく記録された音楽が作品の制作に影響していると。

たとえば、記録された音源は生の演奏を聴きに行くより情報量が削ぎ落とされたメディアファイルです。でも、私はそのほうがむしろ想像の余地が広がるし、絞られた情報だからこそ自分なりにグッと来るものを見つけやすいんです。具体的に言うと、イヤホンを通しているのに、その向こうに人間の生々しい部分を感じます。息遣いや音のズレのような。そこに自分自身の想像力がリンクするんです。

私の作品は支持体に絵を描く前に、描きたいシーンを自作のマケットやマネキンを使って動画として撮影する段階があります。動画内で一時停止した1コマを絵画として支持体に描くんです。その作業が私の感情を客観的に分析するプロセスにもなることで、イメージが他者と共有可能な自立した絵画へと、淡々と置き換わっていくんです。「記録されたイメージとしての絵画」の側面を強調するとも考えて、作品に絵具の垂れを残しました。

吉田桃子/FACE2023グランプリ作品「Still milky_tune #4」

写真には写らない、作品の浮遊感と透明感

——写真で拝見していたときはわからなかったのですが、会場で見るととても薄い布地に描かれていて、絵画自体が半透明になっていることがわかります。はっきりした色彩のアクリル絵具と、儚いほど薄いポリエステル布の組み合わせを選ばれたのはなぜでしょうか。

アクリル絵具を使っている理由は、透明度が高くマットでドライな質感を表現できるからです。ポリエステル布は、目が細かくて写真だと印刷にも見えるくらい筆致が残らないこと、光を透過することなどから選びました。以前、天井から吊り下げた作品にライティングしたら、作品背後の壁面に投影された影がモノクロの絵画のように見えたこともありました。ライトと絵画が映写機とフィルムのような役割を果たして、そう見えたんです。私の作品は空間によって多様な展示の可能性があると思ってます。

——確かに作品のマットさと透け感が相まって、バーチャル空間のような不思議さが感じられました。では、これからその実物をご覧になる方に、ここを見てほしい、などの思いはありますか。

写真と実物では印象が全然違うとよく言われますし、支持体がポリエステルであることをご存知ない方も多いので素材にも注目してほしいです。もともとは木枠を使用していましたが、半透明の支持体に木材が透けてしまうので、可能な限り作品の邪魔をしない色と素材のフレームを探しました。特注の鉄製フレームを使っていた時期もありましたが、鉄特有の光沢や重厚感が作品にマッチしなかったため、しばらくフレーム探しに奔走していました。試行錯誤の末、やっと今のフレームに落ち着きました。ぜひ、そのあたりの質感を生で見ていただければと思います。

吉田桃子/FACE2023グランプリ作品「Still milky_tune #4」

吉田桃子/FACE2023グランプリ作品「Still milky_tune #4」

会場で実物を見てみると、絵具と布地のむこうにフレームがほんのり透けて見えることがわかる

新たな作品の扉を開く「不安定で未分化なエネルギー」とこれから

——普段の制作でも受賞作のような画風やモチーフが中心ですか?

プロセスは同じですが、最近はモチーフに現代の若者を選ぶようになりました。若者といっても単に年齢の若さを意味するのではなく、今後どうなるかわからない不安定で未分化なエネルギーに興味があるんです。様々な人々から得た着想やイメージをもとに、先ほど説明した制作プロセスを通じて、実在の人間やバーチャルのアバター、アニメのキャラクターにも見えるハイブリッドな空気感を持つ肖像や光景を表現したいと思ってます。

——不安定で未分化なエネルギーに目が向くようになったきっかけはなんですか。

やはり音楽です。以前は90年代や2000年代の音楽を好んで聴いていましたが、最近は世代やジャンルの枠に捉われず色々聴いています。今後も、触れる音楽で想像するものが変わると思いますが、そこは私自身もどうなるかわからないですね。

吉田桃子/FACE2023グランプリ作品「Still milky_tune #4」

——そうした制作のために普段から着目するのは、どんな要素や分野が多いですか。

音楽やファッションを調べることも多いですが、基本的にはその2つの分野に限らず気になるものは逐一メモしてます。何より、周囲の人々との会話で得られる情報が欠かせないです。

——今後の作家活動についての展望を教えてください。

国内に限らずより多くの方に作品を見てほしいと思っています。光を透過する布の特徴が活かせるような、自然光が取り入れられた空間で作品を展示してみたいですね。自然光で作品の見え方がどう変化するのか興味があります。

——FACE2024への応募を考えている方にメッセージをお願いします。

自分の行動が次の局面へどのように影響するかは誰にもわかりません。応募を考えているのでしたら結果を気にせずに「とりあえずやってみる」という気持ちで応募してみてもいいと思います。とりあえずやってみることで、良くも悪くも自分の中の何かが変化して前に進んで行くことが大事だと、最近は私自身も常々思っています。

吉田桃子/FACE2023グランプリ作品「Still milky_tune #4」

FACE展2023 概要

●会期
2023年2月18日(土)~3月12日(日)10:00~18:00
※入館は閉館30分前まで、月曜休館

●会場
SOMPO美術館(東京都新宿区西新宿1-26-1)

●観覧料
700円/高校生以下無料
※学生は学生証・生徒手帳を提示すること
※障害者手帳、被爆者健康手帳を提示の方は無料(詳細は公式ホームページにて確認)

公式ホームページ
https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2022/face2023/

FACE2024 募集概要

●応募期間
2023年9月11日(月)~10月15日(日)

●賞
グランプリ(1点) 賞金300万円
優秀賞(3点) 賞金50万円
他賞あり

●募集内容
未発表の平面作品

作家公式サイト
MOMOKO YOSHIDA:https://momokoyoshida.com
Instagram Momoko Yoshida 吉田桃子:_momokoyoshida_

撮影:木澤淳一郎、取材・編集:猪瀬香織(JDN)

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