受賞者インタビュー
2022/10/05 10:00

スイスの映像作家が描く、伝統とモダンが入り混じる「Tokyo」のイメージとは? 2022年ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 「Cinematic Tokyo」部門優秀賞受賞作の裏側2 / 2 [PR]

スイスの映像作家が描く、伝統とモダンが入り混じる「Tokyo」のイメージとは? 2022年ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 「Cinematic Tokyo」部門優秀賞受賞作の裏側

水没する東京のイメージに込められた「傷つきやすさ」

––本作は「もう一度春が見えるまで」という印象的な一文ではじまります。この「春」が象徴するものについて解説いただけますか?

ワイルド:これは映画のエンディングの歌詞からきていて、春は主人公・マサヒロの妻を象徴しています。これは偶然だったんですが、主人公の妻「はるみ」の名前にも「春」が入っています。

––「水没する東京(渋谷)」「残業で帰れないサラリーマン」など、本作の設定やテーマ、ストーリーが生まれた背景を教えてください。

ワイルド:最初に、オフィスの窓からクジラが泳いでいく姿が見えるイメージが浮かんだんです。それをもとに、「残業で妻のもとに帰れないビジネスマン」というストーリーへと発展させていきました。

もちろん、その段階ではまだ洪水のイメージはありませんでしたが、作品のベースとなるテーマとして、あらゆる困難な状況に立ち向かうヒーローを主人公に描きたいと考えました。主人公の立場からすると、とてもじゃないけど抜け出せないような状況に陥ったとき、彼は疑問に思うのです。この状況は自分自身がもたらしているのだろうか?これは現実か、もしくは空想なのだろうかと。

2022年ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 「Cinematic Tokyo」部門優秀賞『TOKYO RAIN』

災害に見舞われる本作のストーリーは、我々人間の「傷つきやすさ(vulnerable)」のシンボルとして描いています。私たちが成し遂げてきたことは、外的な脅威によってほんの一瞬で破壊されてしまう。こういった集合的かつ原初的な恐怖は、さまざまなゴジラ映画でも描かれています。

伝統とモダンが混ざり合う街、「Tokyo」を描くこと

––受賞コメントにて、制作初期の段階から「Cinematic Tokyo」部門への参加を目標にされていたと語られていましたが、本部門を知ったきっかけを教えてください。

シュナイダー:私の記憶が正しければ、たしか2001年にアイドルグループの「SMAP」がショートフィルムのシリーズ*に出演していて、私の妻がSMAPのファンなので観ていたんですが、どういうわけかその作品に惹き込まれたんです。それ以来、日本のショートフィルムに関心を持つようになり、SSFF & ASIAのことはその流れで知ったんだと思います。SSFF & ASIAに集まった作品がどれも印象的で、いつか応募したいと思うようになりました。

*2001年に放送されたフジテレビの人気オムニバスドラマ『世にも奇妙な物語』の特別編にて、SMAPの4人それぞれが短編の主演を務めている。

––優秀賞/東京都知事賞を受賞された感想は?

シュナイダー:ロバートの携帯に日本のナンバーから電話がかかってきた時には、冗談半分で「日本からの受賞連絡の電話かも!ははは」と話していたんですよ(笑)。本当にそうだとわかったときは、にわかに信じられなかったです。小池百合子都知事の受賞発表スピーチもなんだか現実とは思えず、まるで映画の中の出来事のようでした。いまでも実現したことが信じられません。

––同じく受賞コメントの映像にて、東京に思い入れがあると語られていましたね。

ワイルド:日本にはこれまでに2度家族で訪れたことがありますが、すぐにこの国のことが好きになりましたね。中でも、最初の旅行でのハイライトは東京に訪れたことで、そのときの印象はいまでも覚えています。巨大なスケールの街は、伝統的であると同時にハイパーモダンでもある。まさに唯一無二の場所だと思います。東京について言葉で説明するのはとてもむずかしくて、実際に訪れないとわからない魅力がありますよね。

シュナイダー:私は子どものころからアニメや漫画に親しんでいて、早くから日本文化に魅了されていました。それに、妻が東京生まれなので直接的なつながりがありますし、彼女の家族や友人を通して日本文化にも馴染みがあります。

––東京という街を表現する上で、どのようなことを意識しましたか?

シュナイダー:東京が舞台の作品ではありませんが、私は士郎正宗さんの漫画『攻殻機動隊』のファンで、参考になる街のイメージが数多くありました。大友克洋さんの漫画『アキラ』の舞台「ネオ東京」にも影響を受けましたね。本作では、これらのイメージだけではなく、私たちは自身がリアルに感じられる東京をつくり出したかったので、過去に東京で撮影した写真やビデオをもとに制作することにこだわりました。

ワイルド:東京は活気のある街ですし、ビジュアルとしてもユニークで、他の都市と比べることができません。猥雑な光と人々の姿が波のように混ざり合い、それぞれの要素が合わさることで街全体が形成されています。

この作品には、私たち自身の日本と東京への視点が反映されていますし、東京についてのイマジネーションや解釈としてもみることができます。私たちそれぞれの個性が現実と呼応するように表現されているので、この作品の東京のイメージはリアルではないんです。

––最後に、今後の展望についてお聞かせください。

シュナイダー:すでに次のプロジェクトとなる『Shōgai』を鋭意製作中です。上映時間は75分で、私たちにとってはじめての長編映画です。物語の舞台は同じく東京で、アニメと実写をミックスした作品です。ぜひWebサイトをご覧いただけるとうれしいです。

『Tokyo Rain』は、2022年9月29日~10月23日まで開催の「秋の東京国際短編映画祭」にて配信&上映します
https://shortshorts.org/2022autumn/program/ss-2/tokyo-rain/

ショートショート フィルムフェスティバル & アジア「Cinematic Tokyo」部門の作品を2023年の映画祭に向け募集中(締切は2023年1月31日)
https://www.shortshorts.org/creators/archives/recruitment/cinematic-tokyo?la=jp

※2017年に新設された「Cinematic Tokyo」部門は、多彩な「東京」の魅力を国内外に発信するショートフィルムを全世界から募集するコンペティション部門。撮影地が東京である作品だけでなく、「東京」を感じさせる題材や、思い出の「東京」、イマジネーションされた「東京」などの作品を対象としています。

ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 公式ホームページ
https://www.shortshorts.org

文・編集:堀合俊博(a small good publishing)

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