受賞者インタビュー
2022/02/25 14:00

日々のできごとと神話を結び付け、再構築する。「FACE2022」グランプリ 新藤杏子インタビュー [PR]

日々のできごとと神話を結び付け、再構築する。「FACE2022」グランプリ 新藤杏子インタビュー

「年齢・所属を問わず、真に力がある作品」を募集する、絵画の公募コンクール「FACE」。SOMPO美術財団が2013年に創設し、その後着実に新進作家の動向を反映するコンクールとして定着してきている。記念すべき10回目の開催となった「FACE2022」では、全国各地・幅広い年齢層の1,142名から応募があり、入選作品83点(うち受賞作品9点)が決定した。

そんな「FACE2022」の受賞入選展が、2月19日から3月13日まで東京・新宿のSOMPO美術館にて開催されている。会場では、入選作品83点を展示中だ。

今回グランプリを受賞したのは、アーティストの新藤杏子さんの作品「Farewell」。162×194.5cmという大きなキャンバスに描かれた、色彩豊かな森の中で寝転ぶ子どもに独特の不思議さと魅力を感じる作品だ。編集部は新藤さんに、受賞の感想や作品のコンセプト、表現したいことなどをうかがった。

――「FACE2022」グランプリ受賞、おめでとうございます!まずは、受賞の感想を聞かせてください。

受賞の連絡を受けた時は、ただただ驚きました。今でもまだ実感がありませんが、これからまだまだ続けていきたい制作活動の中で、一つ自分の指針になるものをいただけたと感じ、とても嬉しい気持ちです。また、今までの作家活動を支えてくれた方には、感謝し尽くしてもしきれません。

新藤杏子 1982年東京生まれ。多摩美術大学大学院美術研究領域卒業。おもな展示として、2021年に個展「memorandum」(YUKI-SIS、東京)、グループ展「夏日大作戦」(YIRIARTS、台北)、2020年グループ展「星の百年」(TEZUKAYAMA GALLERY、大阪)。おもな受賞に、2010年「Geisai Taiwan#2」審査員賞受賞(台湾)、2017年「シェル美術賞」入選、「FACE2017」入選、2020年「KAIKA HOTEL OPEN CALL」大賞など。

――新藤さんはこれまでにもFACEに応募されていますが、このコンクールならではの魅力や応募理由を教えてください。

FACEは、年齢関係なくあらゆる人がチャレンジできる上、入賞作品のバリエーションが豊富で、懐が深い美術賞だと感じて今回も応募しました。あと、130号までのサイズで応募が可能だというところもこのコンクールの特徴だと思います。

精神的な死と再生の物語をモチーフにした作品

――グランプリ受賞作の「Farewell」は、一見、光が気持ちいい森の中で子どもたちが戯れてるかのような爽やかさがありながら、独特の不思議さも兼ね備えた作品だと感じます。タイトルの意味なども含め、作品のコンセプトを教えてください。

今回の作品のタイトル「farewell」は英語で“さようなら”という意味です。この言葉は、古代ローマの詩人・オウィディウスの著書『変身物語』に収録されている「エコーとナルキッソス」というお話から引用しました。

ナルキッソスはナルシストの語源になっている美しい少年ですが、その少年を好きになった、言葉を返すことしかできない木霊エコーを傲慢にあしらったことから怒りを買い、湖に映る自分自身に恋をしてしまいます。そして、その報われない恋の果てに彼は命を落としてしまう、という結末になっています。

グランプリ受賞作品「Farewell」2021年 油彩・キャンバス 162×194.5cm

以前この物語を読んだ時は、ただの悲恋の話だと思っていたのですが、改めて読むと、自分自身を見つめ、絶望し、もう一つ次の段階に進む成長のなかにある、いわゆる精神的な死と再生の話のように思えました。

考えてみればこの数年、カーボンニュートラルや自然への回帰など、人間自身が自己を振り返り、今までの生活を変えなければならないほど社会が加速し、進化ではなく変化を求められる世界になってきました。自己を見つめて写る世界を捨て、新しく思考を変化させていかなければならない――まるで私たち自身がナルキッソスのようだなと感じ、作品にこのタイトルをつけました。

ただ、鑑賞していただく方にはそういったコンセプトは気にせず、心が赴くままに作品を観ていただければとても嬉しいですね。

――「Farewell」は油彩作品でありながら、透明感も同時に持ち合わせているように思います。どのようなアプローチで作品が描かれたのでしょうか?

水彩作品をずっと描き続けてきたのですが、この数年、水彩でなかなか表現しづらい部分が出てきて、油彩を並行して制作してきました。長く水彩に携わっていたので、油彩に置き換えた時にも水彩的表現を加えられたら、と考えて画面を構築しました。

水彩は一発描きで直しがきかない点や描画材など、油彩にくらべると制約がありますが、そこが魅力でもあるため、油絵でもそのあたりは心がけています。今までやってきたことを否定するのではなく、水彩でやってきたという強みを油絵にのせられたらと思っています。特に下地づくりは力を入れていて、今回の作品でも下地だけで1週間くらいかかっていますね。

あと特にこだわった部分は、のぞき込んでいる子の描き方ですね。生きているのか、死んでいるのか、寝ているのかわからない微妙なラインを出したかったので、少しおかしい形というか、“自然な違和感”が出ればいいなと思って筆を進めました。

制作テーマは「生物の営み」

――絵を描き始めたきっかけを教えてください。

月並みですが、子どもの頃から絵を描くことが好きで、授業中も授業を聞かずにノートに絵を描いて怒られるような子どもでした。それと同時に、映画を見ることや本を読むことも大好きで、高校で進路を決める時、ものづくりに携われるような職業に就けたらと思い、美大を目指しました。

――普段はどのようなコンセプトやテーマで制作していますか?

「生物の営み」を大きなテーマとして制作しています。日々生活している中で、ちょっとした気づきや気に留めたできごとからヒントを得て、それを神話や伝承・物語などに照らし合わせて共通点を見つけ、再構築して作品に落とし込んだりしています。

あと、普段撮ったプライベートな写真や、祖父母の時代からの写真が家にあるのですが、それを見返して今私たちが置かれている現状や感覚に置き換え、作品に表現することもありますね。

コロナ禍でアウトドアに行くことが増え、山や森を見る機会が多かったという新藤さん。山に行くと吸い込まれてしまうような怖い気持ちになることもあるが、反対にそれを魅力に感じ、山や森の写真をたくさん撮っているそう。今作でも木の表情はとても楽しく描けたと話してくれました。

変わらず、真摯に制作し続けたい

――今回のグランプリ受賞を受けて、これからの作家活動にどのように活かしていきたいですか?

変わらず真摯に作品を作り続けていきたいと思っています。今年、来年と個展の機会をいただけたので、まずはそれに向かって制作に励みたいと思います。また、ありがたいことに2025年に開催予定の展覧会「絵画のゆくえ※」に出展させていただけるので、それに向けてもゆっくりテーマを練り上げていけたらと思っています。

※2022~2025年までの「FACE」において、グランプリおよび優秀賞を受賞した作家たちの近作・新作を展示し、受賞作家の受賞後の展開を紹介する企画展

――では最後に、次回「FACE2023」の応募を考えているみなさんに、ひとことメッセージをお願いします!

コンクールやコンペは、アートファンのみならず、本当に多くの方に作品を見ていただける絶好の機会だと思います。また、さまざまな表現を持った方の作品に触れることもできるので、ぜひ勇気をもって挑戦してみてください。

FACE展2022 概要

●会期
2021年2月19日(土)~3月13日(日)10:00~18:00
※入館は閉館30分前まで、月曜休館

●会場
SOMPO美術館(東京都新宿区西新宿1-26-1)

●観覧料
700円/高校生以下無料
※学生は学生証・生徒手帳を提示のこと
※障害者手帳、被爆者健康手帳をご提示の方は無料(詳細は公式ホームページにて確認のこと)

公式ホームページ
https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2020/face2022/

FACE2023 募集概要

●応募期間
2022年9月12日(月)~10月16日(日)

●賞
グランプリ(1点) 賞金300万円
優秀賞(3点) 賞金50万円
他賞あり

●募集内容
未発表の平面作品

募集要項
https://compe.japandesign.ne.jp/face-2023/

取材・編集・文:石田織座(JDN) 撮影:木澤淳一郎

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