デザインは「小さな合理性」を積み重ねること。「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」第13回グランプリ BAKU DESIGN2 / 2 [PR]
小さな合理性を積み重ねて、予想を超えた面白いものをつくる
―今回の「スーパー楕円」のように、お二人が普段の制作の中で大事にしているカタチやデザインへのこだわりはありますか?
石川:僕は、デザインは小さな合理性の積み重ねだと考えています。「かっこいい」とか「かわいい」だけじゃなく、見る人に納得してもらえるように、言語化できたり視覚化できたりするカタチをつくることが大事だと思っています。
今回の作品では「最も美しいしるしのカタチ」と打ち出しているのですが、そこを言い切ってしまっていいのか?というところは、柳沢ともよく話し合いました。でも数式という論理的なもので見せるからこそ、「あぁ、なるほど」と思わせる説得力を持たせるデザインになったのではと思っています。
柳沢:僕も理由を持って形をつくるというところは石川と同じですが、でき上がったときに自分が予想していなかった広がり方をするものをつくりたいと考えています。
合理的な判断を何度もくりかえして循環させていくようなイメージを制作のときに持っていて……どこか一か所のデザインを変えたら、別のどこかに問題が出てきて、そこを変えると、またつじつまが合わないところが出てくる。それを経て完成したものは、自分のイメージしていたものではあるけれど、同時に予想を超えた面白いものになっていると思うんです。
石川:柳沢は今、京都で空き家になった長屋を改修するプロジェクトを行っていて、先日僕も手伝いに行きました。実際に建築現場に行ってみると、例えば、床を金づちで打つと土壁がボロボロ崩れていくような、何かをやろうとするとどこかに齟齬が出てしまうという状況が常にあって……空間や建築物をつくるときには、合理的な判断をしてそれをまた修正していく、そういう試行錯誤のくりかえしで作業が進められているんだと実感しました。
柳沢:建築のようにスケールが大きくなると、一つの判断ですべてが決まるということはありません。大きいコンセプトはあっても、結局は細かい判断の集積になっていきます。石川のようなプロダクトをつくるほうがもっとシンプルというか、より強固なコンセプトに基づいたカタチづくりがされるのかなと思いますね。建築を学んでいる僕からすると、そこに新鮮さを感じます。
だからこそ、今回の作品ではお互いが制作のときに大切にしているこだわりを、うまく作品に落とし込んでいけたのかなと思っています。意見が対立することも多々ありましたけどね(笑)。
デザインと建築。違う分野を学んできた二人だからこそ、面白いものを生み出せた
―ユニットで制作していると、作品の“完成のタイミング”を決めるのが難しく、議論になりそうです。そのあたりはいかがでしたか?
柳沢:それはすごく難しい問題ですよね。デザインってやろうと思えばいつまでも追求できるものだと思うので、「どこで終わりにするのか」というのもデザイナーの腕の見せ所だと思います。そういう議論は二人で結構した気がしますね。
石川:そうですね。例えば最初は「a=2.5」以外の形のはんこもつくって、白い模型の上に全部置こうという話も出ていたんですけど、それはさすがにやりすぎかなという結論になってやめました。最後は感覚的な部分もあるかもしれませんが、二人でその都度「これでいこう」と判断しながら決めていくことが多かったです。
―作品のクオリティを上げるためには、どのようなところを重視されていますか?
石川:今回の模型の話で言うと、僕は以前、デザイン事務所で模型製作のアルバイトをしていたことがあって、そこで教わった「なるべく製作の跡を残さないようにする」ということは意識していました。コンセプトと形の意図を伝えるために余分なものはなるべく見せないよう、素材や色を選ぶようにしていましたね。
柳沢:僕が言うのはおこがましいのですが、「つくるものはあくまでプレゼンテーションの一部である」ということを意識しています。実際に手を動かしてものをつくっていると、そのもの自体のクオリティをあげることばかりにとらわれてしまって、本当に伝えたいコンセプトの部分などがぼやけてしまうと思うんです。今回は、一人がものをつくるのに一生懸命になっていても、それをもう一人が客観的に見ることができたので、そうしたところも二人で制作していてよかったなと感じたところですね。
―今回、SNDCに参加されて、このコンペの魅力はどんなところにあると思いましたか?
石川:「しるし」という絞られたテーマから、いかに大きな価値を生み出すことができるか。ここ数回のSNDCはそこを競うコンペになっていると思うのですが、そういうコンペは意外と少ないと感じています。「しるし」というテーマだけで、本当に多種多様な作品が集まってくるというのは面白いですよね。
柳沢:審査員の方たちがそうそうたるメンバーであることはもちろん、さまざまな分野の方がいらっしゃって偏りがないのが魅力の一つだと思いました。そういった、いい意味でコンペの「カラー」がなく、素直に作品を見てもらえる機会は貴重だと思います。
―次回、第14回のテーマは『「 」を表すしるし』です。「 」の中に入れる言葉は応募者が自由に決められるそうで、今回もデザイナーにとってそそられるテーマだと思います。これから応募を考えている人たちにメッセージをお願いします。
石川:「しるし」というシンプルなテーマだからこそ、些細なところに価値を見出せる人が強いのかなと思います。そこを見逃さないアンテナを持つことが受賞への近道になるはずです。そして僕たちのように、ぜひ学生の皆さんにもチャレンジしてもらいたいと思います。
柳沢:与えられたテーマに対して、これまで培ってきた力を使って、何かをつくるという機会はなかなかないと思います。コンペを通して、何かを観察したり、新しいことを考えたりできるので、ぜひ積極的に挑戦してみてほしいです。
―最後にお二人の今後の展望を聞かせてください。
石川:僕はこれからも変わらず、言語化できる、説明できる形でデザインをしていきたいです。大学を卒業してもそうした仕事ができればなと思っています。
柳沢:僕は今いろいろと模索中なのですが、大学で学んだりコンペに応募したりするだけでなく、実社会を変えるためのアクションを起こしたいと考えています。現在、京都の空き家を改修するプロジェクトや、地元・長野県松本市の女性三人組の劇団と共同で移動型の「モバイルシアター」をつくるプロジェクトを進めています。4月からは大学院に進学するので、学業と並行しながら、実際の社会や現実の空間で面白いものをつくっていきたいです。
文:土居りさ子(Playce)、撮影:葛西亜理沙、聞き手・編集:石田織座(JDN)
14th SHACHIHATA New Product Design Competition 募集概要
●締切
2021年5月31日(月)12:00
●賞
グランプリ(1点) 賞金300万円
準グランプリ(2点) 賞金50万円
審査員賞(5点) 賞金20万円
特別審査員賞(2点) 賞金20万円
●募集内容
テーマ『「 」を表すしるし』に沿った未発表のオリジナル作品
※複数応募可
●審査員
喜多俊之、後藤陽次郎、中村勇吾、原研哉、深澤直人
●特別審査員
舟橋正剛、岩渕貞哉
募集要項(登竜門)
https://compe.japandesign.ne.jp/14th-shachihata-new-product/
公式ホームページ
https://sndc.design/