ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 「Cinematic Tokyo」部門の魅力とは?東京を舞台にショートフィルムを制作する、2人の映像作家に訊く2 / 2 [PR]
映像作家の視点から考える「これからの東京」
──『グッピー』はオーストラリア出身のチャールズさんが監督ですが、こうした海外の方が捉える東京と、我々日本人が捉える東京だと、やはり違いますか?
鈴木:よくそれは考えます。明らかに違いますね。例えば、フランス人の映画で、渋谷を撮ったものを観たりすると、「あれ?渋谷ってこんなに艶っぽかったっけ?」とか、「この場所ってこんなに魅力的だったっけ?」と思ったりするんです。僕ら日本人のスタッフにとっては、ある意味フォーカスが甘いというか、漫然と「どこを撮っても渋谷だよね」という気持ちがどこかにあり、その中で「いい画角を撮ろう」ぐらいの感覚でいる。
けれど、海外の方が日本で撮るときは、自分の街にはない、その土地ならではのものを探して撮ると思うんです。「あの漢字の看板がいいね」とか、「無言で人がすれ違ってるのが面白いね」とか。東京らしさみたいなものは、僕らにとってはあまりにも日常で見えないんだけど、彼らの視点の中では見えてくるものがあって、それを捉えているから違うのかな、と感じています。
──今後「Cinematic Tokyo」に応募する際のヒントにもなりますね。映像作家の視点から、作品の題材として「これからの東京」についてどう考えますか?
鈴木:すごく難しい質問ですね(笑)。自分自身も今難しいなと思っているのが、やっぱりコロナの問題ですね。今の質問を1年前にされていたら、「来年はオリンピックで、東京にたくさんの外国人が来ているから、また新しい東京の姿が見えるよね」みたいな感じだったと思うんですけど、今は1年後どうなるかもわからない。マスクをして、ソーシャルディスタンスの中で、この状況でどうやって人と人が出会ったりするんだ、と。大前提がとても難しくなっている中で、それでもリアリティのある人の物語をどう作っていくのか。その辺がとても考えどころだな、と思っています。
街の側面から言えば、東京は今、どんどん変化していますよね。けれど僕は、渋谷の新しいビルを見ても、あまりそこに魅力を感じないんです。逆に、ちょっと離れたところ……例えば、先日清澄白河に行ったんですけど、少し前だったらシャッター商店街に近い状態からだったところで、若い人たちがお店を出していて、急に魅力的になっていたんです。新しい何かを作るんじゃなくて、そこを活かして、ちゃんと人が生き続けている感じがして。僕はそういった感覚が落ち着くというか、「あ、いいな」と感じるポイントだったりしています。
──いろいろお話いただき、ありがとうございました。最後に、今後応募される方へ激励のメッセージをお願いします。
鈴木:今、本当に映像が作りやすい環境になっていますよね。僕が学生の頃は8ミリというフィルムで撮影していたんです。限られたリソースで何とか撮影をして、現像して、作品を作って、上映する場所を探して……。けれど、今はスマートフォンひとつで4Kの映像が撮ることができて、編集もできてしまう。誰でも映画を撮ることができる時代なので、「撮りたい」と思ったものがあれば、まずはすぐにでも撮ってみてほしいですね。
あとは、たくさん作ったほうがいいと思います。僕はスポーツをやっていたんですけど、スポーツはたくさん試合すればするほど上達するんです。映画作りも同じで、大した作品じゃなくたって、30秒、2分でもいいから、たくさん作れば演技指導や演出法、編集の仕方などが経験でわかってくるものです。そしてさらに大事なのは、作ったものを人に観てもらうこと。自分で作って満足してしまうだけではなく、人の批評をちゃんと受け止めるのが大事なことかなと思います。
写真:木澤淳一郎 構成・文:赤山恭子 聞き手・編集:堀合俊博(JDN)
「Cinematic Tokyo」部門優秀賞受賞作品『グッピー』 監督:チャールズ・リチャードソンさん インタビュー
──映像作家としてのキャリアについて教えてください。
私はオーストラリアのシドニーに生まれ、とても幼い頃から映画に深い関心を持っていました。ディズニーのアニメが大好きで、実は長い間アニメーターになることに憧れていたんです。そんな中、『スター・ウォーズ』が映画監督への道を志す大きなきっかけになりました。そこに描かれているキャラクターやストーリー、そして映画から感じられる希望と冒険心に魅了されました。子ども時代のほとんどは、友だちと一緒に映像を作ることに費やしていましたね。結果的に、ビクトリア芸術大学で映画を学ぶことになりました。
現在は映像作家として、作品制作にとにかく情熱を持って取り組んでいます。作品を通して、映画に対して私が感じている魔法のような気持ちを、観る人にも感じてもらいたいと思っています。
──『グッピー』の制作プロセスについてお聞かせください。どのようにプロジェクトはスタートしたのでしょうか?
このプロジェクトは、私が大学を卒業する2017年に始まりました。制作プロセスは本当に驚きの連続でしたね。たった1人で脚本を書いている期間は、まだプロジェクトには私以外の誰もいなかったので、実際に撮影が始まってからはまったく違うプロセスでした。とてもコラボレーションが活発な現場で、俳優や撮影監督からはとても刺激を受けましたね。特に、今回はとても多くのフッテージ映像を追加したので、編集作業はとてもチャレンジングでした。エディターであるカーチァ・マンキューソは、物語を掘り下げ、そこに映る人々が共鳴する様子が感じられるような、素晴らしい仕事をしてくれたと思います。
──東京での撮影場所はどのように見つけたのでしょうか?どこか印象に残った撮影場所はありましたか?
私はこれまでに何度も東京には訪れていて、特別な思い出がある場所もいくつかあったので、ほとんどは私の経験に基づいて撮影場所を決めていきました。特に、山手線の鶯谷駅では撮りたいと思っていました。あの駅の空気感やプラットフォームの周辺の明かりが、この物語にぴったりだと思ったので。
スカイツリーでの撮影はとてもお気に入りですね。そこから見える街の眺めは本当に素晴らしかったです。
──作品名『グッピー』に込められた意味についてお聞かせください。
グッピーは、誰もが知っているあの小さな魚のことなんですが、私がこの言葉を選んだのは、メインの登場人物である2人が、東京の街で、まるで水のない場所で彷徨う魚のように感じてしまうことを表現したかったからです。また、「他に選択肢はいくらでもある」という「there are plenty fish in the sea」という言葉をもじった、「there is only one fish in the sea=運命の人」という意味も込めています。
──東京についての作品を制作するにあたって、何か他の作品は参考にしましたか?もしお気に入りの作品があれば教えてください。
少し変に思われるかもしれませんが、作品制作にあたって、東京を舞台にした日本のアニメーションをとても参考にしました。例えば『君の名は。』『風立ちぬ』など。音楽の使い方は特にそうですね。
──映画監督の視点から、東京という街の魅力は何だと思いますか?
東京には他の街にはないエネルギーや空気というものがありますよね。とてもロマンチックで、新しいものと古いものが絶妙なバランスで存在している街だと思います。東京は、暗い場所だとしても常に安心感がありますし、未来的であると同時に過去に対してのリスペクトもある。そんなコントラストに溢れていると思います。
──外国の方と日本の映画監督とでは、作品の題材としての東京の捉え方に違いがあるように思いますが、どう感じていますか?
それはおそらく外国人よりも、日本人の方が東京のことを理解しているからだと思います。外国人の立場からすると、私たちはもちろん渋谷のスクランブル交差点のような、観光名所として誰もが知っていて、愛されている場所にも惹かれますよ。そういった場所が映画の中で頻繁に登場するのは、観客がすぐにその場所が東京だとわかるからですよね。たぶん、私たち外国人は東京をより美化していると思います。私にとっては、東京の街は本当に世界の中でもお気に入りの場所です。
──SSFF&ASIAについてはどのように知ったのでしょうか?
実は、エディターであるカーチァがこのアワードについて教えてくれて、それまでは「Cinematic Tokyo」部門についても知らなかったんです。なので、とても幸運だったなと思っています。
──受賞されて、今の心境はいかがですか?映画監督としてのこれからの展望についてお聞かせください。
信じられないくらい素晴らしいことですし、恐縮しています。この賞が実現する上で関わったすべての方々と、東京という街が私たちに与えてくれたものに感謝しています。
これからも、作品を観た方々に何か感じてもらえるような映画を作り続けたいと思っています。ぜひまた今後の作品制作においても東京で撮影したいですね。東京は、私が描きたいと思っている物語の舞台としてぴったりな街だと感じています。
翻訳・構成・文・編集:堀合俊博(JDN)
Cinematic Tokyo部門の作品を2021年の映画祭に向け募集中(締め切りは1月31日)
https://www.shortshorts.org/ja/creators/cinematic.php
シネマスポーツプロジェクト(ウェブサイトで作品のメイキング動画も公開中)
https://www.shortshorts.org/cinemasports_project/
ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 公式ページ
https://www.shortshorts.org