“エモーショナル”を“ロジカル”が支える。シェル美術賞2019グランプリ黒坂祐1 / 2 [PR]
2019年のグランプリを受賞したのは、2019年春に東京藝術大学大学院・絵画専攻(油画)を修了した気鋭のアーティスト、黒坂祐さん。作家が入居するシェアスタジオ、さらにギャラリーとサロンの機能をあわせもつ「四谷未確認スタジオ」を運営し、作家活動と両立している。作家活動を多面的な視点からとらえる一方で、「応募したのは絵画を制作活動の『軸』に据えるため」と語る黒坂さんに、その経緯や制作スタイルについてうかがった。
作家活動を続けるために、制作の軸を決めた
── 黒坂さんは、作家活動と並行して学生時代から「四谷未確認スタジオ」を運営するなど、少し変わったご経歴をお持ちです。そもそも絵を志したきっかけはなんだったのでしょう?
まず、大学受験ではデザイン科を志望したんですが3回失敗して、周りの勧めもあって油画専攻を受験しました。強い意志をもって油絵に進んだわけではなかったです。入学後に現代美術に出会い、「こんなに楽しいものがあるんだ」と衝撃を受けて夢中になって、不定形な映像やパフォーマンス表現、期間限定のアートスペース運営などをしていました。
なんとなく絵を描き始めたのは学部4年の頃です。画材も墨とかアクリル、ペンキと試行錯誤するなかで、油絵具でなにができるかを考えるようになり、水彩みたいにサラッとしていて物質感を抑えた描き方をするようになりました。
── シェル美術賞には、どのような理由で応募したのでしょうか。
いろんな要素があったのですが、一番はやはり、絵画を作家活動の軸にする覚悟を決めたからです。大学院を出て作家活動を続けるために、なんの表現がいちばん自分に合っているのか考えました。絵画以外にも都度、目的に合った表現方法を選ぶことはしていきたいのですが、軸は決めたかった。逆に、そういう覚悟がないうちは公募展に出さないほうがいいと思っていました。
“伝統的で大規模な公募展”のシェル美術賞はずっしりとした重しのようですが、絵をやっていきたいという僕の目的には、ポジティブな意味でかちっとはまりました。
「間」という曖昧なものをなんとか描く
──受賞作品「夜から朝までの間」の制作期間はどのくらいでしたか?
描き始めたのは締め切りの2週間ぐらい前で、スタジオの運営業務と並行しながら制作を進めていきました。先に作品の構想があり、それには油絵が合うんじゃないかと思って油絵具を新たに買い集めたりもしましたね。搬入するときにはまだ絵具が乾ききっていなかったので、集配に来た業者の方に「乾いてないんで一番上に乗せてください」とお願いしました(笑)。
── 期限ギリギリでの完成だったんですね(笑)。作品のテーマについて教えてください。
今作は4年前に行った同名のパフォーマンスのコンセプトを絵画に置き換えて制作したものです。僕はパフォーマンスに関しては技術を磨かなかったので即物的な表現になってしまい、どうしても想像できる範囲におさまってしまったんです。でも絵であればもう少し抽象化できて、自分の想像以上のことが起こるんじゃないかと考えました。
── 描くモチーフはいつも抽象的なものなのですか?
僕はモノ、たとえばリンゴそのものを描くことにはまったく興味がなく、リンゴを描かずにリンゴを表現するような、強さのある絵を描きたいとずっと考えています。それを突き詰めていくと、自分とモチーフとの間にある関係性だったり、時間、空間……「間(あいだ)」というすごく曖昧なものをなんとか描くようなことです。絵にならなくて断念することも多々ありますし、「夜から朝までの間」でも100%実現できたわけではありません。でも、今後も変わらず、そこを突き詰めていきたいです。